「私の全財産を愛人A子に贈る。」
あなたの配偶者や親がこんな遺言書を残して亡くなったらどうでしょう。
憤慨、失望、無念、、、色んな言葉が思い浮かびます。。。
ところで、遺産分割において最も優先されるのは遺言の内容です。
自分の財産を何に使うのか。それは生きている限り本人の自由です。
その点でいうと本人の意思である遺言書が、法定相続分より優先するのは当然だと思います。
しかし、遺言書の内容が上記のようなものであったらどうでしょうか。
生前、妻として夫のサポートに徹し、自分は専業主婦で資産は作れなかった。長年夫のために尽くしてきて、愛人の存在だけでもショックなのに、まさか財産まで。。そんな酷い仕打ちがあるでしょうか。
まあ、こんな極端な例はあまりないとしても、「全財産を慈善事業に寄付したい」、というものや「子どものうち、この子だけには相続させない」という遺留分に配慮のない内容の遺言書は珍しくないと思います。
そんな場合に、本人の意思だから、と遺言書が全てにおいて優先すると、残された家族のその後の生活が困難になることもあるでしょうし、相続人としての期待をあまりに裏切ることにもなるでしょう。
そこで、民法では、本人の意思に基づく遺言書でも侵害できない、「遺留分」という相続分を定めています。
遺留分とは?
遺留分とは、遺言書でも侵害できない一定の法定相続人に認められた最低限の相続分のことです。一定の法定相続人とは、兄弟姉妹以外の法定相続人です。
遺留分の割合は、「直系尊属のみが法定相続人になる場合には3分の1、それ以外のケースでは2分の1」と定められています。
直系尊属とは、親や祖父母のことで、配偶者や子どもがいない場合には、直系尊属のみが相続人となります。
例えば、相続人が妻と子ども2名だった場合には、妻は全体の相続分の4分の1、子どもはそれぞれ8分の1が遺留分となります。(法定相続分は、妻2分の1、子どもはそれぞれ4分の1)
遺留分の請求方法について
それでは、遺留分を侵害した遺言書は無効でしょうか?
答えは「NO」、有効です。
遺留分は、相続人の相続権に対する一定の期待値を守るものです。そのため、相続人が求めないのあれば、必ずしも遺留分を相続させる必要はありません。
逆に言えば、遺留分を侵害された遺言書も、相続人自らが請求をしなければ遺言書の内容がそのまま有効になってしまう、ということです。
遺留分を請求することを法律では「遺留分減殺請求」といいます。
遺留分減殺請求をする期限は限られており、相続開始と、遺留分を侵害する遺贈や贈与があったことを知ったときから1年間、または相続が開始したときから10年間です。
請求の方法は法律で特に定められているものではないので、理論的には口頭でも構いません。しかし「聞いてません」と言われたら通用しないので、一般的には内容証明郵便で通知します。内容証明郵便では、遺留分減殺請求をした、という内容も証明できるだけでなく、期限内に通知したという記録も残すことができます。
遺留分減殺請求の対象となる財産
遺留分減殺請求の対象となる財産は遺言書で財産を分与する「遺贈」だけではありません。
具体的には、遺贈の他に「死因贈与」と「生前贈与」があります。
「死因贈与」とは、死亡を原因として財産を贈与する契約です。契約なので、遺贈と異なり受贈者と贈与者の合意が必要です。特定の相手にその財産を確実に与えたい場合や、負担付死因贈与と言って、「〇〇をしてくれたらこの財産を贈与する」というように、相手に求めたいことがある場合に有効です。
次に、「生前贈与」についてです。生前贈与とは、生きている間にした贈与です。
生前贈与は基本的には遺留分減殺請求の対象とはなりませんが、死亡前1年以内に行われた贈与や、当事者双方が遺留分権者に損害を与えることを知りながら贈与をした場合には、1年より前の贈与であっても遺留分減殺請求の対象となる、と定められています。
この生前贈与のうち、どれが遺留分減殺請求の対象となる贈与であるか、という点については、争点になりやすい問題です。
遺留分が問題になるのはどんな時?
遺留分が問題となるのは、遺言書が残されたときです。
遺留分の請求には期限もありますし、対象となる財産についても調査が必要となりますので、請求できる可能性があるかな?と思われた方は早めに専門家へのご相談することをお勧めします。
また、遺言書を作成するときにも、残された相続人が争うことのないように、遺留分に十分配慮する必要があります。
遺留分について気になることやご相談がある場合には、どうぞ、ふくおか司法書士法人へご相談ください。
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