先日もある企業で、「リーダーが育ってこない」というお話をうかがいました。
その内容は、
「現場に行かないで管理資料作りのデスクワークばかりしている」
「リーダーとしてやるべき仕事(特に人材育成)に取り組もうとしない」
「コミュニケーションが事務的」
「責任感が薄い(自分の責任で何かをやろうとしない)」
「部下をまとめることができない」
などというものでした。
このあたりは、どんな会社に聞いても、出てくるのはだいたい似たようなことです。
私もいろいろな企業でリーダー育成に向けた取り組みを行いますが、何かをやったからといってすぐにリーダーが出現するような即効性があるものではないですし、かといって何もしなければ状況はもっと悪くなっていきます。
そもそも「リーダーなんて自然に育つもの」「持って生まれた適性に左右されるもの」という人もいるくらいですから、育てようとして簡単に育つものではないですし、少なくとも長期を見すえた継続的な取り組みが必要なことだけは確かです。
このようにリーダー育成というのは難しいテーマですが、私は「リーダーが育たない」という企業にはある共通点を感じています。
それは「“適切な”権限委譲の不足」ということです。
仕事を進めていく上で、権限委譲を全くしない会社というのはたぶん無いと思いますが、これが“適切に”行われているかどうかを見ると、どうもそうではないことが多いです。
例えば「リーダーとしてやるべき仕事をしない」ということであれば、その理由は大きく二つで、「リーダーが何をすべきかを理解していない」か、「やることはわかっているがやり方がわからない」かのいずれかです。
この前者であれば、「急にリーダーとしての役割を与えられてしまったことによる準備不足」、後者では「期間はあったのにリーダー的な仕事を任せなかったことによる経験不足」が原因であることがほとんどです。
そして、この見方を少し変えると、前者は「権限委譲のし過ぎ」、後者は「権限委譲のなさすぎ」といえます。どちらも「“適切な”権限委譲」ではありません。
この準備不足や経験不足の話をすると、「自分たちの時代はこんなことは自分で考えてやっていた」とおっしゃる経営者や管理職が大勢います。確かにそうなのでしょうが、これは「リーダーの仕事ぶりを間近で見ながら覚えた」というところが大きいと思います。
しかし、今の職場環境は、ここからは大きく変化しています。
最近はIT化に伴うワークスタイルの変化から、例えば、誰も会話をしていないように見えても、雑談レベルの会話がメールやチャットなどネット上で行われていたりします。みんながパソコンに向かっていると、一見すれば仕事をしているように見えますが、実際に何をしているかはわかりづらくなっています。
またプロジェクト制や少人数組織が増えていて、日常的に目に見えるようなリーダー的な振る舞いがそれほど必要でなかったりします。場を共有しない働き方も増えているので、他人を継続的に観察しながら学ぶことができる頻度は減っています。
昔は「リーダーの何たるか」を取り立てて教えなくても、何となく近くで見聞きしていることで、そのやるべきことをおおむね理解することができていました。そして自分がリーダーの立場になった時は、それまで見聞きしてきた経験をもとに業務をこなしていたわけです。
しかし最近は、上司と部下の間でも、相手の仕事ぶりを近くで見聞きする機会は減ってきています。昔は以心伝心で済んでいたことも、あえてきちんとコミュニケーションを取らないと、相手には伝わりません。
こういう配慮がないままでリーダーの役割を求めてしまうことが、権限委譲のし過ぎやなさすぎとなり、その結果だけを見て「リーダーが育ってこない」となってしまっています。
本人の意識はもちろん重要ですが、経験する機会もなく、教えられもせず、それで「リーダーが育ってこない」と言われてしまうのは、当事者にとっては酷なことですし、それでは育たないのも当然と言えば当然です。
リーダー育成だけに関わらず、「見て覚えろ」ではない計画的で継続的な人材育成が、ますます求められている時代なのだと思います。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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