- 増井 真也
- 建築部門代表
- 建築家
対象:住宅設計・構造
一つ目の土地は正直言っていまいちであった。なんともいえないうらぶれた雰囲気。ここに住むのかと思うとちょっと気がめいる。そんな土地であった。そして二つ目、その土地は見事なまでの直角三角形。小学校で習う30度と60度のあるあの直角三角形に限りなく近い。1対2対√3でいうと、√3の部分で2mの道路に接し、2の辺が車の通れない緑道に接している。古い建売住宅のような家が建っているので決してきれいに見える土地では無かったが、なんとなく建築の力によって周辺の環境も含めて様変わり出来るかもしれないなという可能性を感じる土地であった。土地との出会いというのは運命的な直感であると思う。その土地が良いかどうかは出会って1分あればわかるものだ。女性との出会いだってそうだろう。長く眺めていれば良いというものではない。私は即座にこの土地を気に入った。そして購入を勧めることにした。
ここまで進んでくると、施主と私の関係はかなり接近してくる。施主は30代女性、そしてもう一人、3年生のお嬢さんである。いろいろな事情があり、予算は出来るだけ抑えたい。銀行ローンも組めることは組めるが、なんと金利は4%を越えるという。この御時勢にそれだけ高い住宅ローン金利は聞いたことが無いが、銀行というのは本当にお金が必要な人にはなかなか良い条件でお金を貸してはくれないところである。さんかく形の土地にはすでに1600万円ほどをつぎ込んでしまった。手持ちの資金と合計しても建築工事費に掛けられる予算は1500万円程度しかない。しかし、これだけあれば何とかなるだろう。これまで住んでいたマンションの売却も迫る中、早速建築の打ち合わせが始められた。