これから起業しようという人からさえも感じた「自覚のない依存」
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ある団体の会合でのことです。経営者やコンサルタントが集まる団体なので、参加者の中には最近起業したばかりの人や、これから起業を考えているという人が何人かいました。
著名な大企業出身の方であったり、40代以上でシニア世代の方であったり、どちらかといえば社会経験が豊富な方々で、話しぶりからもみなさんとても優秀だとお見受けしました。
すでに起業したという何人かは、小遣い稼ぎ程度に考えている人から、本当に生活が懸かっている人までそのスタンスは様々でしたが、コンサルタントとしてそれなりに仕事が成り立っていそうな人は、残念ながら一人もいませんでした。
少しお話を伺ってみると、ある人は、本当にどうやったら仕事が受注できるのか、どうやって営業すればよいのか、まったく見当がつかないのだそうです。営業なんて前職では一度もやったことがないし、そもそも営業のきっかけをどうやって作るかということさえ、全然想像ができないのだそうです。
いろいろなことを聞かれたので、私からできる範囲のアドバイスはしましたが、ずいぶんと初歩的な質問も多く、ちょっと自分で調べればわかりそうなことがたくさんありました。そんな状態で起業してしまっているのは、事業をやろうという姿勢としては、問題ありという感じがします。
また別のある人は、自分の知人で士業を営んでいるような人や事業をやっている人など、顔が広そうな人に仕事の紹介を頼んでいるのだそうです。他に成功報酬型の営業代行会社などとも契約しているそうですが、どちらからもまったく音沙汰がないそうです。
「なぜ紹介がないのか!」などと、結構キレ気味に不満を語っていました。
私からすれば、この手の他人からの紹介というのは、まったくなくて当たり前くらいだと思いますが、他の話も聞いていると、会社の経理は税理士さんにすべてお任せ、ホームページは制作会社に作らせて管理させ、簡単な印刷物などもすべて外注しているそうです。「知らないことは専門家に任せるのが良い」のだそうです。
そんなふうに「よけいな仕事はできる人に任せればよい」という考え方も、もちろんあってよい話ですが、はっきり言ってそれは、自分自身が忙しくて時間がない人が言うことです。
自分一人だけの会社で、仕事がなくて時間を持て余しているような人が言うことではないと思いますが、やはりここでも「自分はやったことがないから・・・」などとおっしゃいます。
私はこういう話を「自覚のない依存」と言っています。自分ですべてのことを取り仕切っているつもりでいても、実際には他人のせいにしたり、他者に依存していたりする事実に、気づいてすらいないということです。
組織に属していると多かれ少なかれ誰でもあることですし、なおかつ大きな組織ほどその傾向が強まりますが、最近は起業したばかりのような人からも同じようなことを感じる場面が増えました。
私は独立して10年以上たちますが、やはり「自覚のない依存」はどこかにあるのだと思います。ただ、その比率は企業勤務の時代から比べると、限りなく少なくなっていると思っています。
独立して仕事をしていると、自分自身が動いていなければ誰も助けてはくれませんし、紹介して欲しいならば自分からも紹介するべきですし、相手に与えて初めて自分にも与えられるようになりますし、そういうことをいろいろ経験しながら、依存している度合いを自覚することができるようになってきました。
何か資格を取ったり、起業セミナーなどを受けたり、自分の将来を自分なりに考えようとする人は増えていますが、資格は“権威への依存”と言えなくもないですし、起業セミナーなどは“他者経験への依存”であり、それがすべての正解ではありません。
起業するかというようなことに限らず、自分のキャリアを考えていくにあたって、「自覚のない依存」は、どこかで何かしらの害を及ぼします。それを少しでも自覚できるようにすることは、自分の人生を考える上で、意外に重要なポイントではないかと思います。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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