あるきかたがただしくない - 家事事件 - 専門家プロファイル

榎本 純子
神奈川県
行政書士

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対象:民事家事・生活トラブル

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あるきかたがただしくない

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ブックレビュー 離婚と子ども
あるきかたがただしくない 枡野浩一 朝日新聞社

本をあとがきから読むくせがある。解説は読まない。解説のほうがネタばれ度が高いから、解説者の名前だけ見る。でもあとがきでも時々内容のネタばれがあって、失敗った!と思うこともある。

成功のときもある。
『あるきかたがただしくない』の場合は、成功。
本来あとがきがあるべき部分に、河井克夫氏による『ほかにもいろいろただしくない』解説フォークロア漫画。これは、こんなふうに始まります。

・・・・・以下引用・・・・
むかしむかし あるところに 正直なおじいさんが すんでいました。
そしてその隣には ちょっと、どうかと 思うぐらい正直で
結果的にいじわるに しか見えない 超正直おじさんが すんでいました
・・・・引用終り・・・・

この超正直おじさんが、マスノさん(と馴れ馴れしく呼びたい気がする)。
マスノ氏が、「ちょっとどうかと思うぐらい」正直だということが前もってわかっていると、この本の中で語られるマスノさんの行動やら発言やらを格段に理解しやすくなる。気がする。
自分の失敗談や人に対する批判やら、あ〜これは超正直おじさんだからかなぁと。
うん、赤裸々という感じじゃなく、正直。

行きつけのアジアンレストランで、店員から「お連れさんの忘れ物」として渡されたシャツジャケットの顛末。ボタンの付け方から、女物だと思ったが、結局作家の長島有氏(男性)のものだったとか。しかも女物だと思ったことがそもそもマスノさんの勘違いだったとか。
生まれて初めて入ったパチンコ店で、ゴト師に間違えられたりとか。
妄想でトーク&サイン会しちゃったりとか。
元日に年賀状読みながらホットカルピス飲んじゃうとか。

フィクションではありえない、間の悪さというかなんというか、絵にならない感じ。

そんなマスノさんの中のすべてを黒くしてしまうほどの、ただひとつの悲しいこと。
それは、離婚後子どもに会えないこと。

私は、いろんなところで、いろんな形で、離婚後子どもが親に会うのは子どもの権利ですよ、と言い続けてきました。
離婚しても夫と関わりを持つのはちょっと・・・と言うお母さんにも、離婚してから子どもに会うと、子どもが悲しむんじゃないか、と言うお父さんにも。
離婚の書類作成を依頼してくださったクライアントさんにも、大学時代の友人にも、離婚してから全く子どもと会っていないという仕事で知り合ったとても尊敬する同業者にも、保育園や小学校の、子どもと元夫を会わせる機会を作っていないというシングルマザー友達にも。
相手が誰であっても、言い続けてきました。
そして、今後も変わらず言い続けるだろうと思う。

でもでも、そこは人間関係を悪くするのも嫌なので、あくまで小声で。
「子どもにとってはどっちの親とも会えるのが一番いいと思うよ」なんて。

マスノさんは、違います。
大声で訴える。
しかも、「子どものために」なんて一言も言っていない。
ひたすら、
「私が子どもに会いたい」
この潔さ、正直さ。

『ジョゼと虎と魚たち』を見ても、鷺沢萌の訃報に接しても、松尾スズキのことを考えていても、自転車が盗まれても、パソコンが壊れても。
でもやっぱり子どもに会いたいと訴え続ける。

私もここは、大声で、マスノさんに言いたいと思う。
あきらめないで。
子どもに会いたいと思い、会いたいと言い続けるマスノさんは間違ってないよ。
全人類が、「元奥さんの気持ちがわかる」わけでも、「いい加減あきらめろ」という解釈でもなく、そんな「解釈」は私にも理解できない。
むしろ、みんながマスノさんみたいに、正直に、「子どもに会いたい」と言えばいいのに、と思う。

最後に、2箇所だけ引用。
1箇所目は、例えば高校生あたりの課題図書になって、「印象に残った部分を1箇所引用しなさい」というお題がでたら、たぶん一番たくさん引用されるだろうくだり。
・・・・以下引用・・・・
(離婚後ずっと子供に会えない)苦しみを、表立って表現しないことが「男らしさ」だというなら、私は男をおりてもいいと思っています。
・・・・引用終わり・・・・

最後は、そんなマスノさんの男らしさを私が一番感じたところ。
・・・・以下引用・・・・
被害者意識を持っていると人はどこまでも残酷になれる。これからは加害者でいいから、優しくなろうと、ふいに思った。
・・・・引用終わり・・・・