一人親方に対する外注費の課税仕入該当性 - 会計・経理全般 - 専門家プロファイル

平 仁
ABC税理士法人 税理士
東京都
税理士
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一人親方に対する外注費の課税仕入該当性

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発表 実務に役立つ判例紹介
一人親方に支払った金員を外注費として課税仕入に算入したところ、
給与であるとして課税仕入該当性が否認された
東京地裁平成19年11月16日判決(TAINSコードZ888-1365)
東京高裁平成20年4月23日判決(TAINSコードZ888-1366)
を紹介しよう。

本件は、地裁、高裁とも、納税者が敗訴しており、
特に高裁は、引用判決であるため、地裁を検討することにしよう。

1.事件の概要
本件は、電気工事の設計施工等を業とする原告が、原告の業務に
従事した者6人に対して支払った金員につき、これらを請負契約に
基づいて支出した外注費に当たるとして、同金員を課税仕入れに係る
支払対価の額として計上するとともに、同金員に係る源泉所得税を
徴収納付することなく、平成13年3月期、平成14年3月期、平成
15年3月期消費税等の確定申告等をしたところ、S税務署長から、
同金員は、所得税法28条1項に規定する給与等であり、消費税法上、
課税仕入れに係る支払対価の額に該当せず、原告において、その支出に
係る各月分の源泉所得税を徴収納付しなければならないとして、
本件各課税処分を受けたため、これらの処分の取消しを求める事案である。

2.前提事実
ア 本件各支払先は、いずれも原告との間で日当を口頭で約束し、
原告が元請業者から請け負った電気配線工事等に従事していた。
イ 本件各支払先は、それぞれが作業に従事する各仕事先において、
原告代表者又は元請業者の職員である現場代理人の指揮監督の下、
電気配線工事等の作業に従事していた。
ウ 本件各支払先は、各仕事先で使用する材料や道具類、作業着等を
原告又は元請業者から無償で支給されていた。
エ 本件各支払先は、電気配線工事等に従事するに当たり、原告に
対して、現場名、出勤日、残業時間及び夜間勤務日等を記載した
出勤簿等を作成し、これらを提出していた。
オ 原告は、本件各支払先から提出された書面に基づき、本件各支払先に
対する支払金額として、基本給、残業給、遅刻減給等記載した
労務費明細書を作成していた。
カ 原告は、労務費明細書に基づき、本件支出金を支払い、(1)本件
支出金を外注費として経理し、給与等の源泉徴収の対象とせず、(2)本件
支出金を課税仕入れに係る支払対価の額として、消費税等の申告を行った。
キ 元請業者は、その下請業者を管理するために、協力業者登録申請書
並びに協力業者従業員名簿及び下請業者内訳書等の提出を求めていたが、
本件各支払先は、協力業者従業員名簿に記載されていた。
ク 原告は、本件各支払先が受診した定期健康診断の費用を負担していた。
ケ 原告は、本件各支払先に対して食事代、慰労会及び忘年会等の費用の
一部を負担し、これらの負担額を福利厚生費として経理していた。

3.裁判所の判断
(1) 事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性
及び有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが
客観的に認められる業務から生ずる所得をいい、これに対し、給与所得
とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に
服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいうものと
区別することが相当であり、給与所得については、とりわけ、給与支給者
との関係において何らかの空間的又は時間的な拘束を受け、継続的ないし
断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるもので
あるかどうかが重視されなければならない(最高裁昭和56年判決参照)。

(2) 本件各支払先は、原告から指定された各仕事先において原告代表者
又は元請業者の職員である現場代理人の指示に従い、電気配線工事等の
作業に従事し、基本給、残業給、遅刻減額分を労務の対価として
得ていたこと、この間、原告に常用される者として他の仕事を兼業する
ことがなかったこと、各仕事先で使用する材料を仕入れたことは
なかったこと、ペンチ、ナイフ及びドライバー等のほかに本件各支払先
において使用する工具及び器具等その他営業用の資産を所持したことは
なかったことなどが認められるところ、さらに、原告が本件各支払先に
係る定期健康診断の費用を負担していたこと、原告が福利厚生費として
計上した費用をもって本件各支払先に無償貸与する作業着を購入していた
ことなどを総合的に考慮すると、その労務の実態は、いわゆる日給月給で
雇用される労働者と変わりがないものと認めることができるから、
このような本件各支払先について、自己の計算と危険において独立して
電気配線工事業等を営んでいたものと認めることはできない。

(3) 本件では、たとえ原告と本件各支払先の間でその労務が請負契約に
基づくものであるとして取り扱う旨の認識があったとしても、本件
各支払先としては、原告に対し、ある仕事を完成することを約して
労務に従事していたと認めることはできず、労働に従事することを
約して労務に従事する意思があったものと認めるのが相当であり、
実際、原告と本件各支払先の契約関係では、他人の代替による労務の
提供を容認しているとは認めることができないこと、本件各支払先は
原告代表者又は元請業者の職員である現場代理人の指揮命令に服して
労務を提供していたことが認められることなどからすると、本件
各支払先による労務の提供及びこれに対する原告による報酬の支払は、
雇用契約又はこれに類する原因に基づき、原告との関係において空間的
又は時間的な拘束を受けつつ、継続的に労務の提供を受けていたことの
対価として支給されていたものと認めるのが相当である。

(4) 原告が元請業者に対し、本件各支払先を原告に在籍する従業員として
記載した協力業者従業員名簿を提出していることからも裏付けることが
でき、また、原告において本件各支払先に対して食事代、慰労会及び
忘年会等の費用の一部を負担し、これらの負担額を福利厚生費として
経理していたことからも裏付けることができる


以上のような判断から、本件では、納税者敗訴となったのであるが、
本件判決は事例判決として捉えるべきであろう。

本件では、原告と一人親方とは正式な契約を締結せず、外注先であれば
当然に交際費で経理処理されるはずの一人親方の食費等の負担が
福利厚生費として処理されていることを考えれば、勤務実態から見ても、
原告の認識も給与でしかなかったことが伺える。

一人親方の外注費処理は建設業において広く一般的に行われていると
思われるが、少なくとも契約を交わし、日報は書くにしても、各々から
請求書をもらって支払っているのであれば、問題あるまい。

少なくとも書証がない本件では、課税庁の主張を覆す材料がなかったものと
考えられる。
我々税理士は、日常業務の段階から、租税訴訟をにらんで、
税務調査において、課税当局に対して堂々と主張できるよう、体制を
整えておくべきである。少なくとも、書証を確認することは基本であろう。

闘えないケンカを挑まれないよう、注意せねばなるまい。