田中義剛の足し算経営革命 - 会計・経理全般 - 専門家プロファイル

平 仁
ABC税理士法人 税理士
東京都
税理士
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田中義剛の足し算経営革命

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雑感 書評
これから起業したい方に是非読んで頂きたい本を紹介します。
もちろん、経営者の皆様にも、イノベーションを考えて頂く上で
是非一読をオススメしたい本です。

田中義剛「田中義剛の足し算経営革命」(ソニー・マガジンズ新書)

今年の6月に出た本なので、もう既に読んだよという方も多いかと思います。
タレントで大ヒット商品生キャラメルを擁する花畑牧場のオーナーである
田中義剛氏が書いた本です。

僕は、当初、タレント本の1つとしてしか見ていなかったので、
発売された時には手に取りませんでしたが、
ある方に勧められて読んでみました。

これがイイんですね。
ビジネス書としての本質を兼ね備えているばかりか、
タレントビジネスとしてしか見ていなかった田中氏のビジネスの本質が
本物であることに気付かされました。

本書40ページ以下ではこのように書かれている。

いくらいい商品を作っても、売る場所がなければ作った意味がない。
だからといって、どこでもいいから売る場所を見つけろ、といっている
わけではない。どこで売るか、それを考えるのことも、重要な戦略の
ひとつだ。(略)
ところが、最初はうまくいかなかった。当時、当然のことながら
生キャラメルを知っている人なんてほとんどいなかった。だから空港側は、
「一日90個もそろえておけば十分だろう」と判断した。これは悔しかった。
だけど、そのわずか90個さえ完売しなかったのも事実。これはなんと
してでも、認知度を上げるしかない。
そこで、俺が芸能界にいる強みを有効利用することにした。2007年5月に
「ソロモン流」という番組で、生キャラメルを追ったドキュメントを
放送してもらった。これをきっかけに、勢いがついた。(略)
このメディアの利用は、田中義剛が芸能人だからこそできたことだと
思うかもしれない。そこは否定するつもりはない。ただ、大事なのは、
メディアに取り上げてもらえるようないい商品を作るということではないか。
いくら俺が芸能人だからといって、取り上げるに値しない商品なら
誰も見向きはしないだろう。万が一、運よく取り上げてもらったところで、
淘汰されていく。

まさにその通りです。
いい商品を作っても、知ってもらえなければ、売れない。
知ってもらっても、いい商品でなければ、売れないんです。

この点について、田中氏のビジネスの特長になっている利益率の高さにも
繋がるコメントが66ページにある。

ミートホープやギョーザ事件の教訓もあって、消費者は今、食の安全性を
とても気にする。だから、生産者の顔が見えることに価値を見出してくれる
だろうし、だからこそ、ウチのような中規模な牧場にもチャンスが見えてくる。
普通の豚なら900円のところを、花畑牧場のホエー豚ということで1200円で
売っても、差額の300円は安心料に変わる。安心料だったら、300円払おうと
いう気になるだろう?

安心料という考え方は牧場のあり方にも反映されている。
101ページ以下ではこのように書いている。

花畑牧場に来てもらえればよくわかると思うけれど、花畑牧場は、
すべての商品の製造工程を見学できる。生キャラメルを作っている様子も、
カチョカヴァロを縛っている様子も、窓ガラス越しに全部見える。
隠さないのは、見ていて気持ちがいい。
「誠実に作っています」という説得力にもつながる。
これは、ニュージーランドのガーデニングファームを見て回ったときに
いちばん強く感じたことだった。工場には仕切りがなく、風通しがいい感じ。
あけっぴろげなぐらい、観光客に全部見せている。
「なぜこんなにオープンなんだ?」
俺が現地の経営者たちに尋ねると、彼らはこう答えた。
「これが当たり前。見せられないものを作ってどうするんだ?」
もっともな話だ。
観光客の目が、製造者による不正や不祥事の抑止力にもなる。

また、利益率にこだわる田中氏の経営姿勢は、食の安全に行き着く。
115ページ以下にこんな記述がある。

ここまで読んだ人は、「田中義剛はなんてがめついやつだ!」と思った
かもしれない。
だが、俺が利益率にこだわる理由は、何も儲けるためだけではない。一定の
利益率をキープすることは、不測の事態に備えるため、いわばリスクヘッジだ。
これをきちんとしておけば、何かあったときも、売価を上げずに済むかも
しれないのだ。
先日、トウモロコシをはじめとする輸入穀物の高騰で、家畜のエサ代が30%
上がった。その30%は農家の経営を圧迫した。飼料メーカーにも農政にも
農協にも、負担を肩代わりしようなどという発想はない。しわ寄せは、
かなりの部分が末端の農家たちに行ってしまった。でも、いつまでも
そんな状況に耐えられるはずがない。結局、メーカーがその負担を売価に
反映させたのは、ご存知のとおりだ。
飼料の値上げに頭を悩ませたのは、花畑牧場も同じ。けれど、値上げを
避けることができた。
なぜか。
利益率があるからだ。
花畑牧場の商品価格には、何かあっても(多少のことなら、だけれど)
吸収できるぐらいの利益率があらかじめ設定されている。だから、値上げを
せずに済んだ。
さて、その利益率だが、20%確保が理想だ。しかし、これはあくまでも
理想で、絶対条件は15%といったところ。
食品を扱っていると、原材料の突然の高騰や異物の混入、廃棄など、いつ
何が起こるかわからない。だから、せめて15%の利益率が確保できなければ、
花畑牧場のような中小企業は怖くてビジネスができない。
(略)
もし、利益率を低く設定していたら、「もったいないから使っちゃえ」と
思ってしまうかもしれない。「足し算」ではなく「引き算」の考え方で
価格を設定していると、何かあったときは吸収できない。
「利益率が低い、だからこれ以上廃棄率が上がると赤字になる・・・。ならば
使い回せばいい」
船場吉兆もミートホープも赤福も、そんな悪魔のささやきに負けた結果の
事件なんじゃないかと思う。
でも、そこで不正をしたら、その時点ですべてが終わってしまう。

田中氏は、ベンチャーを志すものに対してこう言っている。(128ページ以下)

ドラマを感じさせるような手作りの現場がないと、メディアには登場できない。
逆説的に言えば、ベンチャーを志す者は、メディアが取り上げたくなるような
ことをやれ、ということだ。
洋服でもいいし食品でもいい、ジャンルはなんでもいいけれど、メディアが
興味を示すようなことをやらなければ勇名にはならない。
当然、メディアに出ることにはリスクもある。
メディアを使えば、たった1回の不正が、10倍、100倍になって返ってくる。
メディアに叩かれる側になったら再起不能だ。

そういう意味では、田中氏のビジネスは、メディアを戦略的に使いながら、
安全でおいしい食品を提供することで成功してきたといえよう。

今年の私のゼミ合宿は札幌でしたので、新千歳空港で、花畑牧場の豚丼を食べ、
生キャラメルをお土産に買ってきました。確かに美味い。

芸能人として長年生き延びてきた男の人生を賭けたビジネスの夢は
膨らむばかりなのかもしれない。
そして、彼の母校である酪農学園大学からは、彼の後を追うアグリビジネスが
出てくることだろう。

本物しか生き残れない時代に、成功するためのヒントが隠されていた本であった。