米国特許判例:均等侵害と故意侵害(第5回) - 企業法務全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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米国特許判例:均等侵害と故意侵害(第5回)

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米国特許判例紹介:均等侵害と故意侵害(第5回) 
〜心臓用カテーテルの均等判断〜

       Jan K. Voda, M.D.,
         Plaintiff-Cross Appellant,
         v.
         Cordis Corp.,
      Defendant-Appellant.

河野特許事務所 執筆者 弁理士 河野英仁 2008年11月7日


6.コメント
 Seagate事件においては、客観的に無謀でない限り故意侵害と判断されず、また弁護士の鑑定書も必ずしも必要ではないと判示された。本事件においては、被告は特許侵害を回避するために、均等論上の侵害が成立するか否かが問題となる程度まで設計変更を行った。

 その上、複数の弁護士による鑑定書をも取得している。従って、Seagate事件における適用基準を考慮した場合、地裁は故意ではないと判断する可能性が高いものと思われる。鑑定書は必ずしも必要ではないとのことであるが、本事件にて差し戻し判決を得ることができた一因は、鑑定書の取得にある。Seagate事件の判示事項にかかわらず、弁護士の鑑定書を得ておくことは非常に重要と言えよう。

 また、本事件においては2つのテスト、非本質的テスト及びFWRテストのいずれにおいても、均等と判断された。日本ではどのように判断されるであろうか。恐らくボールスプライン最高裁判決*11で判示された均等の第1要件により、非侵害と判断されるであろう。625特許における「直線部」は上述したように、発明の本質的な部分であり、日本では当該相違する部分が発明の本質的部分でないことが均等の要件とされているからである。

 図3は米国、日本及び中国の均等の成立要件をまとめた対比表である。米国、日本及び中国間でどのように判断が異なるか分析を行う。

米国 差異が非本質的である場合(非本質的テスト)、または、
実質的に同一の機能(Function)を果たし、同一の方法(Way)で、
同一の効果(Result)をもたらす場合(FWRテスト)

日本 第1要件:本質的部分でないこと
第2要件:置換可能であること
第3要件:侵害時に置換容易であること
第4要件:出願時に公知技術でないこと 、及び、
第5要件:特許出願手続において意識的に除外したものでないこと

中国 基本的に同一の手段をもって、基本的に同一の機能を実現し、
基本的に同一の効果を奏し、かつ当該分野の通常の技術者が
創造的な労働を経ることなく想到できる場合


図3 米国、日本及び中国の均等論適用要件

 なお、図3では割愛したが、米国及び中国においても、日本の第5要件と同様に禁反言の法理が適用されないことが条件とされる。

 中国における均等論の適用要件は米国におけるFWRテストに日本の第3要件を組み合わせたものとなっている。米国は、非本質的テストまたはFWRテストのいずれかを満たせばよいことから、3国内でもっとも適用基準が低いと言える。

 筆者は日本の適用基準が最も高いと考える。ボールスプライン最高裁判決では、
「特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても,1.上記部分が特許発明の本質的部分では」ないこと
が第1関門として要求されている。本事件においては図1に示す第2直線部40は本発明のキーとなる本質的部分であるから、日本では第1要件により非均等となるであろう。

 中国においては上述したようにFWRテストに加え、曲線から直線とすることが容易に想到できる場合に、均等とされる。FWRテストは米国と同じくクリアするであろう。後は曲線を直線とすることが当業者にとって容易であることを特許権者側が立証すれば均等と判断される。中国では日本の如く「第1要件:本質的部分でないこと」は要求していない。  米国ではWarner Jenkinson判決後、本事件を含め数多くの事件で均等侵害が成立している。一方、日本では均等の第1要件が大きな壁となり、均等論上の侵害が成立しにくいという問題がある。この第1要件の必要性について今後議論が必要となるかもしれない。

判決 2008年8月18日                                 以上