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ハーモニー3&鈴木先生 公共的な正しさと、それに合わせなければならない息苦しさ

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恋愛心理 自己受容
劇場用アニメ作品「ハーモニー」の世界では、
人の命が最も優先される生命至上主義の世界です。

体の中に分子くらい小さなロボットを注入し、
外部から体内をモニターし、
少しでも異常があったり体に悪いことをすると、
警告されたり、自動的にお薬が処方され、健康に生きる事を全ての人が強要されます。

人の命を最も大切にする事。

それはたぶん100人中90人の人が
「それは正しい。そうである事は幸福であり、そうあるべき」
と考える、限りなく
「公共的な正しさ」
で在り立つ
理想郷・ユートピアかも知れません。


しかし、そんな理想的な管理社会でも、毎年自殺者が多く出るようです。

主人公達3人の女子高生ミャハ・トァン・キアン達も、その
管理され
強制され
統一された世界観に息苦しさを感じている娘たちでした。

どんなに多くの人が、「正しい」と思う世界でも、息苦しさを感じたり、
そこから零れ落ちてしまう人がいることを訴えているように思えます。


映画のキャッチコピーである「わたしの心が幸福を拒絶した」との意味は、
そんなことを端的に表しているのだろうなと思いました。





つい先日長谷川博己さん主演の映画「鈴木先生」を録画しておいたものを観ました。

確か去年のお正月にテレビで放映したものを一年経ってから観た訳です。

なんとなく、私なりにハーモニーの世界と通じるものを感じたので、ここでご紹介したいと思います。

長谷川さん演じる鈴木先生は三鷹の中学校の先生です。

担任を受け持つ生徒の中に、凛とした雰囲気を持つ土屋太鳳さん演じる小川さんと言う生徒がおり、
鈴木先生は小川さんに妄想的な恋心を抱いているようです。


映画の冒頭で、そんな鈴木先生の妄想がユーモラスに描かれ、
長谷川さんらしい感じで笑わせてくれます。

テレビドラマ版は未視聴だったので、コメディなのかと思いましたが、
実はとても考えさせられる内容でした。

脚本は「デート」の古沢良太さんです。

二つの大きなイベントを前に話が進みます。

どこの学校でもある、生徒会役員選挙と文化祭です。

中学校で生徒会役員選挙が行われることになり、各クラスでホームルームが行われ、生徒会会長や副会長の立候補者が選ばれました。

そんな中、鈴木先生と意見が対立し、精神的なダメージを受けて学校を休職していた富田靖子さん演じる足子先生が現場復帰してきます。


足子先生は、去年の生徒会選挙で、誰に投票するかを書く記名表に、アニメの登場人物を書いたりふざけたコメントを書いたりして提出されることが多かったため、
生徒達に将来自分の責任で選挙の時に人を選ぶと言う事を学んで欲しい、と言う理由から、
有効投票率100%を目指すべきだと、職員会議で主張します。

一見正しい意見なので、他の先生方も賛成しますが、ここで鈴木先生は迷います。

それを生徒に強制することが本当に正しいのか?と。


しかし、復帰後間もない足子先生の意見に、いきなり否定的な意見を言う事ができず、賛成してしまいます。

学校中に「目指せ!有効投票率100%」とスローガンが書かれたポスターが張り出されます。

それを見た生徒のあるグループが、何かを話し合っているシーンが挿入され、鈴木先生のクラスの出水君という生徒が、突然自分も生徒会長に立候補すると言い出しました。

鈴木先生からすると、出水君は、成績は良いものの、そんな生徒会に立候補する積極的なタイプではなく、
突然の立候補に何か特別な思惑があるのではないかと疑問と不安を覚えます。

それとは別に、リーダー的要素は充分備えているのに引っ込み思案の平良という女子生徒に鈴木先生は「とにかくやってみろ!」と、
いやだと言っているのに無理やり生徒会役員選挙の立候補をさせてしまいます。


さて、今度は文化祭で、クラスで何をするかが話し合われます。

生徒の一人が熱烈な希望で演劇を行うことになります。

ところがいざ演技の練習を始めてみると、
監督でもある生徒と、他の生徒にはやる気的に温度差があり、
そこまで情熱を感じない生徒から
「何でそんなに懸命に演技の練習なんかしなくちゃいけないのか!やってらんねぇ」
と意見が出ます。

鈴木先生は、諭す感じでもないのですが
「人は誰でも、何かの役割を演じて生きることがある。何かの役を懸命に演じることで、自分自身が活かせることもある。練習してみる価値はあるんじゃないか?」
と語ります。

生徒達は近くの公園で自主的に練習を始めますが、その公園は、同じ中学の卒業生でもある
浜野君(演:田辺満さん)と勝野君(演:風間俊介さん)と言う2人の、今では引き篭もりになっている青年が、
行き場の無い自分達の唯一の居場所を求めてベンチに座ってタバコを吸いにやってくる場所でした。

周囲の人からすると、昼間から何をするわけでもなく、いい若者がタバコをプカプカ吸っているのを見て、すっかり不審者扱いなのです。

折もおり、ニュースで不審者が女子校生を襲うと言う事件が報じられてしまいます。

そしてここでも足子先生が行政に訴えかけ、公園の吸殻入れを撤去させ、行き場の無い青年の居場所を奪ってしまいます。

「公共の公園に、人に害をなすタバコの灰皿を設置しておくのは、正しくない」

「昼間から何をしているのかわからないような大人が、ベンチにただ座っているのは不審者とみなされる。子供たちも集う公園に、そんな不審者がいるのは好ましくない」

との理由です。


そして引き篭もりだった浜野君が、公園と言う居場所さえ奪われてしまったことで、母親に暴力を振るってしまい警察に逮捕されてしまいます。

浜野君が母親に乱暴を働いたのは良くないことかも知れません。

でもそう彼を追い込んだ理由も何かあるのでしょうが、法律を犯した彼だけが加害者として罰せられるのですね。


そして生徒会役員選挙演説会がやってきました。
それぞれに自分がどうして生徒会に立候補したのか、
どんな学校にしたいのか演説していきます。

そして最後、ついに出水君の演説が始まります。

「僕が公約として掲げるのは、100%の有効投票率を目指すような選挙システムの見直しです!」

つまり彼は、生徒会長になるつもりはなく、
全校生徒の前で選挙システムに異議を訴えるために立候補して演説したかったのです。

理由は、彼が卒業した小学校で生徒会選挙があり、やはり生徒全員に投票させる方法として、投票用紙に記名投票(それを書く自分の名前を記入)させたのだそうです。

生徒会長立候補者は実力も熱意もある出水君の親友と、テレビの子役として有名だった子でした。

その結果、きちんと生徒会長にふさわしいと思える人物を、きちんと選ぼうとする生徒より、
遊び半分で立候補者を選ぶ生徒の方が上回ってしまい、
当選したのは、子役の子だったのでした。

その子役の子も、きちんと会長の責任は果たしたそうなのですが、
彼の親友は、落選してしまったことで、登校拒否になってしまいました。


出水君にしてみれば、それは理不尽な出来事だったのです。


「僕が許せないと思ったのは、いい加減な気持ちで投票した人たちではなく、100%の枠に無理やり達成させようと投票させた、その記名式選挙システムを強要した学校のやり方なんだ!」と主張します。

前年、ふざけた投票用紙を提出して、密かに選挙システムにテロを行ったのも、実は出水君とその理解者グループの、ささやかな抵抗だったのです。

と、ここで足子先生が登場して、

「でもね、投票用紙には『該当者無し』と、書き込むことも出来たのよ。それで良いんじゃないの?」
と問いかけます。

すると「先生は、今の僕の話を聴いてくれていないんですか?そんな『該当者無し』と書き込むような方法は、すでにシステムに取り込まれたやり方なんだから、システムに取り込まれたくない僕達からすれば、それもやりたくないんですよ!僕達をシステムに組み込もうとしないで、ただ、ほおって置いて欲しいだけなんだ!静かにしてるから、そっちもほっておいて欲しいだけなんだ!」


鈴木先生は一人つぶやきます。

グレーゾーンにいて、ハタから構わないでいて欲しいだけなんだよな。
僕もグレーゾーン側の人間だから、良くわかるよ」
と。


演説会は終わり、翌日、投票日がやってきました。


しかし、その日、大事件が勃発します。


引き篭もり友達だった浜野君が逮捕されてしまったことで、
もう自分にも未来は無いような気持ちになってしまった勝野君が、
「俺も今、そっちへ行くから(浜野君の側)」
みたいにつぶやいて、カッターを持って学校に侵入し、鈴木先生のクラスに残っていた数人を人質に取ってしまいます。

みんな体育館で投票するために集まっていたのですが、やってこないクラスメートの心配をして小川さんも教室に来て見ると、公園で見かけたり、学校帰りに挨拶をしたりした勝野君がカッターを握りしめています。

小川さんは、誰にも分け隔てなく接する良い子なんですね。

そんな小川さんに対して
「今から、君をレイプします。抵抗したら他の誰かを切りつけるから」
と強迫します。


そこへやはり様子を見に来た鈴木先生も、事件が起きていることを知り、勝野君に共感します。

勝野君がそんな暴挙に出たのはこんな事を考えていたからでした。

「先生が理想を持って育てようとしているのは、純粋で真面目な生徒達。
でもそんな子たちは大人になって仕事についても職場では使い物にならない。
社会で通用するのは、不良だったような奴とか、男なら誰とでも寝る様な、したたかで自己主張の強い連中なんだ!

だから、先生がやっている事は、社会で使えない人間を量産しているだけ。

この子(小川さん)も、素直で良い子だけれど、良い子過ぎるから、今のうちに汚れてしまっておいた方が、
将来生きて行きやすくなる。
だからレイプしてあげる。心を鬼にして!」

というものでした。


滅茶苦茶と言えば無茶苦茶ですが、
「正直者は馬鹿を見る」
という世の中というのも、言えてる部分があるわけで、それも理不尽なものでしょう。

ただ、ヤンキーのような人や、男なら誰とでも寝るというような女性が、
必ずしも自己主張が強くてしたたかで、世の中で生きて行きやすいとは単純には思えませんが。


足子先生の理論はきっと
全体が幸福になるためには「正しいこと」

なのかも知れません。
でもこうする事がきっと正しいんだろう。

こうできたらどんなに幸福なことか。



頭ではわかっていても、そうできないことが人にはあるものです。


誰にでも優しく、いつも明るく振舞う友達を多く作る良い学校に入る積極的に努力して社会に貢献する覚せい剤はやらない不倫は不道徳だからやらない将来は結婚して家族を持つ


法律で決められている事から、暗黙の了解のことまで、そんな公共的な正しさは数え切れないくらいあることでしょう。


正しい社会を維持するためには、正しくない事をしている人を罰しなければならないのが社会と言うものなのでしょうか?

全体の正しさに合わせることが出来ない人は悪人なのでしょうか?

そういう人は、「ダメな人」と、他人から呼ばれても、それは仕方ないのかな?

なるべく人に迷惑をかけないようにしているんだから、せめてほおって置いて欲しい。

そんな出水君の気持ちもわかるように思います。

本人がほおって置かれるが一番の救いなのだとしたら、ほおって置くしかないかも知れません。

しかし私が考えるカウンセラーの仕事としては、本人が「どうにかしたい」と思っているのであれば、積極的に関わることも仕事ではないかと思っています。


もちろん公共的な正しさに合わせて生きられるように「矯正」するだけではなく、その人がその人らしい生き方や幸せを見出せるようにお手伝いするのも目的です。

「こうすべき」ことが出来ない人もいて、
いろんな人がいて、
それでもお互い認め合ったり、
共感し合ったりして、
全体的なバランスが取れている社会も、それはそれで
ハーモニー(調和)が取れている世界と言えるのではないでしょうか?

声が低い人、
高い人、
中くらいの人、
声が澄んだ人、
濁った人。

色んな声音の人が合唱してハーモニーを作るように。

映画「ハーモニー」のテーマの一つは、現代社会のハーモニーのあり方・概念を、鑑賞者や読者に問いかけているように思います。

主人公ミァハ自身、
「ハーモニー(調和)というものがどういう概念と捉えているのか」
「個人の幸福と、社会全体の幸福は両立するのか?」

などについて
物語の最後の方で自分の生い立ちと、それを背景とした独自の考えを語っています。

この「ハーモニー」と言う小説は、SF小説の形を借りた、作者である伊藤計劃氏の「思想書」なのではないかと思います。




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