住宅ローンの証券化の歩み
住宅ローン債権の証券化のはじめは、1930年代のニューディール政策の住宅保有拡大政策の一環として設立されたファニーメイ、フレディマック、ジニーメイを通じて発行された証券である。当初は、住宅ローンを束ねて担保にして、そのキャッシュフローを裏づけに証券を発行していたもので、これをパススルー証券という。つまり、ローンの返済があるとそのまま証券も償還されるという、ローンのキャッシュフローがそのまま証券のキャッシュフローにパスされるということからこう呼ばれている。投資家にとっては、いつ償還されるかわからないために非常に投資しにくい証券であった。金利が下がると、借り入れている人は借り換えのために現在のローンを返済して新にローンを借り直すために一気にパススルー証券の元本が償還になってしまうという欠点があった。
しかし、1983年にCMO(モーゲージ担保証券)が開発されてから、このような問題が解決されることとなり、住宅ローン担保証券のマーケットが急拡大することとなる。
CMO(Collateralized Mortgage Obligation)
CMOとは、パススルー証券を束ねた上で、いくつかのトランシェ(償還期限や償還条件、信用リスクが異なる証券に小分けした各部分のこと。フランス語で「一切れ」という意味)に切り分けることにより、格付け、償還期間の違う証券に加工したものを言う。こうすることによって、投資家は、いつどのくらい期前償還されるかわからないパススルー証券のリスク(期前償還リスク)を和らげることができるようになった。
しかし、その仕組みはどんどん複雑化していくことになる。コンピューターの発展により、複雑なシュミレーション(多数の住宅ローンやパススルー証券のキャッシュフローをある一定のシナリオ−金利推移など−に基づいて平均償還期限を計算してトランシェ分けしていくシュミレーション)も簡単にできるようになってから(1990年以降)、何と100を超えるトランシェに分けたCMOも発行されるようになった。こうなってくると、投資家は、CMOに潜むリスクについてはほとんど理解することができなくなったのである。
サブプライムローンもこのようなCMOの仕組みに組み込まれて急拡大していった。
住宅ローンを保有者別の住宅ローン債権残高の推移をみると、住宅ローンが如何にいろいろなところに転売されているかが判るだろう。そして、全体の約6割はCMOなど証券化商品(MBSと総称する)として組成されて、さらに多くの投資家にばら撒かれているのである。
また、民間MBSの金額とその比率が2004年以降急激に増加しているが、これがまさにサブプライムローンの証券化急増が要因である。
さて、ここまで、住宅ローン市場とその証券化についての概略を見てきたが、今回の金融危機において、住宅ローン市場だけのバブル崩壊であればまだこれほどまでに大規模な混乱にはならなかった。
それでは、なぜ住宅ローン、それもサブプライムローンの問題がこれほどまでに金融市場全体に広がってしまったのであろうか。そのなぞをとくカギが、これか見ていくCDOという商品である。
CDO(Collateralized Debt Obligation)の仕組み
サブプライム問題をより複雑化した商品がこのCDOである。このCDOの仕組み自体は、CMOなどと変わらない証券化商品であるが、CDOの大きな特徴は、CMOのように住宅ローンだけを組み入れた証券化商品と違って、種類の異なる債権(住宅ローン債権、社債など)を組み合わせて担保にしているところに大きな特徴がある。(仕組み図参照)
サブプライムローンの証券化においても劣後部分を20~30%設けることによってAAAの高格付けが取得できる。AAAの部分については販売には何ら問題ないが、低格付けになってくると販売自体もやや苦労してくる(リスクを取る投資家が限られてくるため)。そこで、低格付けの証券だけを再び集めて、また、他の社債などと組み合わせることによってリスクを分散させ、再び高格付け証券に組成するという必殺技が編み出された。「CDOの二乗」である。この証券もやはりAAA、A、BBBなどのトランシェに分けられる。またまたそのCDOの低格付け部分をさらに集めて新たなCDOを組成する。このようにCDO²やCDO³ ・・・など益々複雑な商品が作られていったのである。これらの商品は、広く市場に拡販するために組成されたものではなく、より高利回り商品を求めるファンドなどの個別の顧客向けに組成されたものである。これが、ひとたび問題が生じてみると、市場にまったく売却できない、流動性のない商品であることが改めに認識され、「本当の価値がわからない」つまり時価評価ができない商品になってしまったのである。
異なる債権を組み合わせるということは、理論上はそれだけリスクが分散されるということである。しかし、このように複雑化してくると投資家がその中身を全て理解すること自体が困難になってくる。そこで大きな役割を果たしていたのが、格付け機関と保証会社である。
格付け機関は、先に見てきたように様々な債権に関する統計的データに基づいてそのリスク判断をしてきた。その分析手法についてもかなりの部分公表されている。しかし、その商品性がより複雑になるにつれて格付け機関の審査・判断も甘くなってきたといわざるを得ないだろう。なぜなら、彼らがAAAと評価した証券を一気に投資適格以下に格下げするということが昨年起こり、それが金融混乱の大きな引き金になったからである。予想もしなかったデフォルト率が発生したというが、実際のサブプライムローンの商品性の劣化や複雑化されたCDO中身の検証ができていなかったのである。
今回の金融危機における格付け機関の罪は非常に大きいと考える。
一方の、保証会社も、その判断が甘かったといわざるを得ないだろう。住宅ローンに関しては、住宅バブルの影響でローンのデフォルト率は非常に低いものであった。そのため、エクイティのリスクも低いと判断して簡単に保証をつけてきたようだ。