ところが何十年かして海外に行く人が増え、「なんか僕らっておかしな家に住んでるんじゃないか」と気付き始めたところから、住宅建築は少しずつ変わりはじめました。それが今の建築家ブームに繋がっているのだと思います。
本来、住宅は、30、40年という短期的な視点ではなく、100年、200年という長期的な視点でつくるべきものです。ロンドンに住んでいると、100、200年前の家がたくさんあって、そこにそのまま人が暮らしている。そしてお金はたいして稼いでいないのに、みんなゆったりと生活を楽しんでいる。そこには、数字には表れない豊かな暮らしがあるのです。
日本では、家は隣の敷地境界線から最低50センチ離して建てなければならないと法律で決められています。これは戦時中、火事になっても隣家に延焼しないようにという配慮からつくられたものです。ところがイギリスでは、厚い壁を介してぎっしりと家が建ち並んでいますが、それぞれの家の裏手には大きな庭があったりする。
また、日本の場合、道路に対して塀を立て、それが街の景観をつくり出していますが、本来は建物自体が街並みをつくるべきなのです。法律が道路から離して家を建てなさいと決めているから、道路と建物の間に隙間ができてそこに塀を立ててしまう。結果、誰もが隠れるように住むことになり「人気のない」街並みが出来上がる。
そうしたおかしなことに、いま多くの人が気付きはじめています。これからの建築家は、こうした矛盾の解決に取り組み、豊かな住宅、美しい町並みの実現に一歩でも近づけるよう知恵を絞るべきだと思います。
このコラムの執筆専門家
- 手塚 貴晴
- (建築家)
- 株式会社手塚建築研究所
建て主の“夢”を引き出し形にするのが建築家の役割
「設計テーマをどこから導き出されたのですか?」という質問を受けることがありますが、それはクライアントの頭の中にあるのです。話を聞き、突き詰めていくと、必然的な形が見えてくる。そんな夢を引き出し、形にするのが建築家の役割だと思っています。
「手塚貴晴の建築コラム」のコラム
住まい手にとって真に「気持ちのいい家」(2005/12/01 00:12)