- 野平 史彦
- 株式会社野平都市建築研究所 代表取締役
- 千葉県
- 建築家
対象:住宅設計・構造
阪神淡路の大震災を期に、木造住宅における金物の使用が法的に明確に規定され、地震時の柱の引き抜きに対するホールダウン金物など、在来軸組工法における地震力に対する強度は随分改善されてきたと言えるのかもしれません。
しかし、昔から使われている「釘」について、''それが正しく使われていない''ことには殆ど目を向けられていません。
木造在来軸組工法は、柱と梁で構成される伝統構法を簡素化して、戦後復興期の住宅需要に対応したものが元になっているのですが、柱と梁だけでは地震による水平力に対応できないので、柱梁で囲まれた中に斜め材(筋かい)を入れる事でこれに抵抗するものとなっています。
しかし、最近ではこの筋かいの代わりに構造用合板が用いられることが多くなりました。
構造用合板で地震力に抵抗する為には、N50釘を150mm以内のピッチで柱梁に打ち付けなければならないことになっています。
しかし、現実にはその仕様が守られていないのです。
実は、これはちょっと呆れる話なのですが、規定されている「N50」という釘は、私達の暮らす関東地域では殆ど流通していないのです。
では、どうしているのかと言えば、梱包用の「FN50」という釘が使われているのです。
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上の写真をご覧下さい。左がFN50釘、真ん中がN50釘、右は私が推奨しているスーパーLL釘というステンレス製の釘です。
見ての通り、FN50釘はN50釘に比べて釘の径も釘頭の径も小さいのが分かると思います。
釘の径が小さいということは、勿論、強度的に弱いということですが、耐久性にも大きく影響してきます。問題はそれだけではありません。
最近の大工さんは昔の様に釘を口にくわえて、1本1本金槌で打つようなことはしません。釘打機を使ってすごいスピードで打ってゆきます。
圧力が弱いと釘頭が飛び出してしまうので、釘打機の圧力を高めにし、結果として、径の小さなFN50釘の釘頭は合板の中にめり込んでしまいます。
これによりさらにその強度が弱められ、ある実験ではN50釘を正しく打った時の3〜4割も強度が落ちるという結果がでています。
これでは、計算通りの強度が得られず、実際に殆どの現場でこのような強度不足の木造住宅が建てられているのです。
確認検査においても、検査官に釘について指摘されることはまずありません。
釘1本がどれだけ重要な役割を果たしているか、それは常に見過ごされて来ているのです。