今回のこのテーマは、ウルグアイのムヒカ大統領が2012年のリオデジャネイロ地球サミットの中で、衝撃的なスピーチとして語られた中に在る言葉です。
彼はスピーチを通して、特にアメリカが世界に推し進めて来た政策がもう限界に達している事と、それが私達を幸せにするものではないという「資本主義の失敗と崩壊」というものを暗示しているのだと私は感じました。
とても感動的なスピーチだと思いますので、その全文を皆様にご紹介致します。
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【 ムヒカ大統領のスピーチ 】
会場にお越しの政府や代表の皆様、ありがとうございます。
ここにご招待頂いたブラジルとディルマ・ルセフ大統領に感謝致します。
私の前にここに立って演説した快きプレゼンテ―ターの皆様にも感謝致します。
国を代表する者同士、人類が必要であろう国同士の決議を議決しなければならない素直な志をここで表現しているのだと思います。
しかし、頭の中にある厳しい疑問を声に出させて下さい。
午後からずっと話されていた事は、持続可能な発展と世界の貧困を無くす事でした。
私達の本音は何なのでしょうか?
現在の裕福な国々との発展と消費モデルを真似する事なのでしょうか?
質問させて下さい。
ドイツ人が一世帯で持つ車と同じ数の車を、インド人が持てばこの惑星はどうなるのでしょうか?
息をする為の酸素がどのくらい残るのでしょうか?
同じ質問を別の言い方ですると、西洋の富裕社会が持つ同じ傲慢な消費を世界の70億~80億人の人ができるほどの原料がこの地球にあるのでしょうか?
可能ですか?それとも別の議論をしなければならないのでしょうか?
マーケット・エコノミーの子供、資本主義の子供達、即ち私達が間違いなくこの無限の消費と発展を求める社会を作って来たのです。
マーケット経済がマーケット社会を作り、このグローバリゼーションが世界のあちこちまで原料を探し求める社会にしたのではないでしょうか?
私達がグローバリゼーションをコントロールしていますか?
或いはグローバリゼーションが私達をコントロールしているのではないでしょうか?
この様な残酷な競争で成り立つ消費主義社会で「皆の世界を良くして行こう」という様な共存共栄な議論はできるのでしょうか?
どこまでが仲間で、どこからがライバルなのですか?
この様な事を言うのは、このイベントの重要性を批判する為のものではありません。
その逆です。
我々の前に立つ巨大な危機問題は環境問題ではありません。
政治的な危機問題なのです。
現代に至っては人類が作ったこの大きな勢力をコントロールし切れていません。
逆に人類がこの消費社会にコントロールされているのです。
私達は発展する為に生まれて来ている訳ではありません。
幸せになる為に、この地球にやって来たのです。
人生は短いし、すぐ目の前を過ぎてしまいます。
命よりも高価なものは存在しません。
ハイパー消費が世界を壊しているのも関わらず、高価な商品やライフスタイルの為に人生を放り出しているのです。
消費が社会のモーターの世界では、私達は消費をひたすら早く多くしなくてはなりません。
消費が止まれば経済が麻痺し、経済が麻痺すれば不況のお化けが皆の前に現れるのです。
このハイパー消費を続ける為には商品の寿命を縮め、出来るだけ多く売らなければなりません。
という事は、10万時間持つ電球を作れるのに、1000時間しか持たない電球しか売ってはいけない社会にいるのです!
そんな長く持つ電球はマーケットに良くないので作ってはいけないのです。
人がもっと働く為、もっと売る為に「使い捨ての社会」を続けなければならないからです。
悪循環の中にいるのにお気付きでしょうか?
これは紛れもなく政治問題ですし、この問題を別の解決の道に私達首脳は世界を導かねばなりません。
石器時代に戻れとは言っていません。
マーケットをコントロールしなければならないと言っているのです。
私の謙虚な考え方では、これは政治問題です。
昔の賢明な方々、エピクロス、セネロやアイマラ民族までこんな事を言っています。
「貧乏な人とは、少ししか物を持っていない人ではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人の事だ」
これはこの議論に取って文化的なキーポイントだと思います。
国の代表者としてリオ会議の決議や会合にそういう気持ちで参加しています。
私のスピーチの中には耳が痛くなる様な言葉が結構あると思いますが、
皆さんには水源危機と環境危機が問題源ではない事を分かって欲しいのです。
根本的な問題は、私達が実行した社会モデルなのです。
そして改めて見直さなければならないのは、私達の生活スタイルだという事。
私は環境資源に恵まれている小さな国の代表です。
私の国には300万人ほどの国民しかいません。
でも世界で最も美味しい1300万頭の牛が私の国にはあります。
ヤギも800万から1000頭ほどいます。
私の国は食べ物の輸出国です。
こんなに小さい国なのに、領土の90%が資源豊富なのです。
私の同士である労働者達は、8時間労働を成立させる為に戦いました。
そして今では6時間労働になった人達は別の仕事もしており、結局は以前よりも長時間働いています。
何故か? バイク、車などのリボ払いやローンを支払わないといけないのです。
毎月2倍働きローンを払って行ったら、いつの間にか私と同じく幸福な人生が目の前を一瞬で過ぎてしまいます。
そして自分にこんな質問を投げかけます。
「これが人類の運命なのか?」
私の言っている事はとてもシンプルなものですよ。
発展は幸福を阻害するものであってはいけないのです。
発展は人類に幸福をもたらすものでなくてはなりません。
愛情や人間関係、子供を育てる事、友達を持つ事。
これらをもたらすべきなのです。
幸福が私達の最も大切なものだからです。
環境の為に戦うのであれば、人類の幸福こそが環境の一番大切な要素であるという事を覚えておかなくてはなりません。
ありがとうございました。
以上、地球サミットに於ける彼のスピーチでした。
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彼は「昔の日本人には理想的で素晴らしい美徳の精神から来る価値観と生活習慣があったが、今の日本はそれを失っている」という事を述べている動画もありますので、興味のある方はどうぞご覧下さいませ♫
ちなみに彼は「世界一貧乏な大統領」と呼ばれているのだそうですが、それは彼のその波乱万丈な人生の中で、幼い頃に縁の有った現地で暮らす日本人の方達から影響を受けて学んだ精神と生き方を、彼自身が選んでおられるという事なのですね。
「リーダーとしてあるべき姿」とはどの様なものかというのを、自らの身を持って実践されているその美しい生き様が、この動画から垣間見る事ができます。
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心を熱くするムヒカ元大統領の日本向けインタビュー動画
このコラムの執筆専門家
- 大園 エリカ
- (東京都 / クラシックバレエ教師・振付家)
- 舞踊家(クラシックバレエ) 元プロバレリーナ
natural & elegance
長年プリマとして国内外で活躍。現役引退後は後進の指導とバレエ作品の振付けに専念。バレエ衣裳や頭飾りを作り続けて得たセンスを生かし、自由な発想でのオリジナルデザインの洋服や小物等を作る事と読書が趣味。著書に「人生の奥行き」(文芸社) 2003年