米国特許判例:複数人が特許を侵害した場合(第1回) - 企業法務全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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米国特許判例:複数人が特許を侵害した場合(第1回)

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米国特許判例紹介:複数人が特許を侵害した場合、誰が責任を負うか?(第1回) 
〜オークション特許と特許権侵害〜

       Muniauction, Inc.,
   Plaintiff-Appellee,
   v.
   Thomson Corp., et al.,
Defendants-Appellants.

河野特許事務所 執筆者 弁理士 河野英仁 2008年10月10日


1.概要
 方法の発明について特許が付与されている場合、方法クレームの各ステップを被告が全て実施した場合、特許権侵害となる。では、一部のステップを第3者に実行させ、被告は残りのステップを実行した場合、特許権侵害が成立するであろうか?

 本特許はインターネットを通じた地方債のオークション特許である。本事件においては、方法クレームを構成する多くのステップはオークション運営者である被告が実行していたが、一部のステップは入札者が実行していた。

 地裁は、被告が入札者のシステムに対するアクセスを制御し、また、当該システムの使用に関し、入札者を指導していたことから、特許権侵害が成立すると判断した。しかしながら、CAFCは、被告及び入札者間に、BMC事件で確立した基準「管理または指示」を満たさないとして、特許非侵害と判示した。

2.背景
 Muniauction(以下、原告)はU.S. Patent No. 6,161,099(以下、099特許)の特許権者である。099特許はインターネットを通じた地方債のオークション技術に関する。

 099特許では、Parity(登録商標)と称される先行技術の問題点を指摘している。Parityシステムも同様に地方債のオークション技術であるが、オークションに参加するためには、専用のソフトウェアを入手し、かつ、ユーザのコンピュータにこれをインストールする必要があった。

 また、Parityシステムでは、ユーザは一部の情報をFAX等により送信する必要があり、オークションが終了するまでは、他人の付け値等の情報を把握できないという問題があった。

 099特許はこれらの問題を解消するために、ユーザにブラウザを使用させることで特別なソフトウェアの使用及びインストールを不要とした。また、単一のWebサーバにシステムを統合することで、地方債を販売する自治体自身にオークションを運営させ、さらに、入札者がリアルタイムで他の入札価格を監視することができる構成とした。

 図1は099特許のシステム概要を示す説明図である。099特許のシステムは、オークションの主催者のコンピュータ10、インターネット12及び入札者のコンピュータ14, 14, 14,・・により構成される。入札者はインターネット12を介してコンピュータ10にアクセスし、コンピュータ14のブラウザを用いて、入札を行う。



図1 099特許のシステム概要を示す説明図

 図2はオークションの結果を示す説明図である。図2の例は、オレゴン州ポートランドの金融商品に対する入札結果を示している。入札者のコンピュータ14のブラウザには最高入札額等の各種情報が表示される。



図2 オークションの結果を示す説明図

3.CAFCでの争点
管理または指示”Control or Direction”基準を満たすか?
 独立クレーム1に従属するクレーム2は以下のとおりである。

クレーム1
ディスプレイを有する発行人コンピュータ、及び、入力装置及びディスプレイを有する少なくとも一つの入札者コンピュータを有する電子オークションシステムにおいて、 前記入札者コンピュータは発行人コンピュータに対し遠隔地に設けられ、これらのコンピュータはコンピュータ間でデータメッセージを通信するためのネットワークを介して接続され、
確定利付き金融商品をオークションするための電子オークションプロセスであり以下の処理を含む:
 少なくとも一つの確定利付き金融商品のための少なくとも一つの入札に関するデータを、前記入札者コンピュータに前記入力装置を介して入力する;
 前記入力されたデータの少なくとも一部に基づき、少なくとも一つの金利負担額を自動的に計算し、前記自動的に計算された金利負担額は、前記少なくとも一つの確定利付き金融商品に関する借り入れ費用を示す利率を特定し;and
 前記入札者コンピュータからネットワークを介して、前記入力されたデータを送信することにより前記付け値を提出する;
 前記ネットワークを介して前記発行人コンピュータへ提出された付け値に関するメッセージを通信し、前記発行人コンピュータのディスプレイに、前記計算された金利負担額を含む前記付け値に関する情報を表示する;
 前記入力ステップ、自動計算ステップ、提出ステップ、通信ステップ及び表示ステップの少なくとも一つは、ウェブブラウザを使用することにより実行される。
クレーム2:
クレーム1のプロセスであり、以下のステップをさらに含む、
前記入札を承認する前に、各入札が予め定められた入札パラメータに合致するか否かを検証するステップ。

問題となったのは、
「少なくとも一つの確定利付き金融商品のための少なくとも一つの入札に関するデータを、前記入札者コンピュータに前記入力装置を介して入力する;」ステップ、及び、 「前記入札者コンピュータからネットワークを介して、前記入力されたデータを送信することにより前記付け値を提出する;」ステップである。
 これらのステップは、オークションを運営する被告の行為ではなく、入札者の行為である。この場合に、被告のクレーム2に対する直接侵害が成立するか否かが問題となった。

(第2回に続く)