- 河野 英仁
- 河野特許事務所 弁理士
- 弁理士
対象:企業法務
- 村田 英幸
- (弁護士)
- 尾上 雅典
- (行政書士)
〜消尽論に関する最高裁判決〜
Quanta Computer, Inc., et al.,
Petitioners,
v.
LG Electronics, Inc.
河野特許事務所 執筆者 弁理士 河野英仁 2008年9月30日
1.概要
特許製品を適法に購入した場合、特許権はその段階で消尽し、購入者は当該購入した特許製品を自由に使用及び販売等することが可能となる。これは消尽論(Doctrine of Patent Exhaustion)または用尽論と呼ばれ、19世紀半ばに判例として確立した*1。
特許権者から実施許諾を受けた実施権者が製造した特許製品を、第3者が購入した場合も、同様に特許は消尽する。本事件では、実施権者が製造した特許部品を第3者が購入し、当該第3者は購入した特許部品と他の部品とを組み合わせて同一の特許に係る完成品を製造した。この第3者が特許に係る完成品を製造・販売する行為が特許権侵害となるか否かが問題となった。なお、クレームには物のクレーム及び方法クレームの双方が記載されていており、方法のクレームについて特許が消尽するか否かも問題となった。
地裁は、特許部品の販売により実質的に特許権は消尽すると判断した。その一方で、方法クレームについては、特許権は消尽しないと判断した*2。
控訴審であるCAFCは、地裁と同様に方法クレームに関し、特許権は消尽しないと判断し、地裁の判決を支持した。しかしながら、CAFCは、上述した製造・販売は実施許諾契約内に含まれていないことから、特許部品の販売によっては、特許権は消尽しないと判断した*3。
最高裁は、方法のクレームについても物のクレームと同じく消尽論が適用されると判示した。また、本事件における特許部品は特許の中核をなす物であり、当該部品の販売により特許権は消尽すると判断した。
2.背景
(1)特許の内容
韓国のLG Electronics(以下、LGE)は、3つのコンピュータ関連特許を所有している。U.S. Patent No. 4,939,641 (以下、641特許)、U.S. Patent No. 5,379,379 (以下、379特許)、及び、U.S. Patent No. 5,077,733 (以下、733特許)である。
以下これら3件の特許の概要を説明する。図1はコンピュータのハードウェア構成を示すブロック図である。
図1 コンピュータのハードウェア構成を示すブロック図
コンピュータ内のマイクロプロセッサ(MPU)は、プログラム命令を解釈し、情報処理を実行すると共に、バスに接続されたモニタ、ハードディスク(HDD)及びキーボード等のハードウェアを制御する。
MPUが処理するデータは、基本的にメインメモリ(Random Access Memory)に記憶される。ただし、頻繁にアクセスされるデータは、高速でのアクセスが可能なMPU内に内蔵されるキャッシュメモリに記憶される。
(i)641特許
データのコピーがキャッシュメモリ及びメインメモリの双方に記憶された場合、問題が発生する。つまり、一のメモリ内のデータが変更された場合でも、他のメモリ内に記憶されたデータは変更されないこととなる。641特許はこの問題を解消すべく、データの読み出し要求を監視し、また、メインメモリを適宜更新することにより、最新のデータをメインメモリから読み出す技術を開示している。なお、641特許はシステムをクレームに記載している。
(ii)379特許
379特許はメインメモリに対する読み出し要求と書き込み要求との調整を行う技術に関する。なお、379特許はシステムをクレームに記載している。
(iii)733特許
733特許は複数のハードウェアがバスを占有することがないよう、バス上のデータトラフィックを管理する技術である。なお、733特許は装置及び方法をクレームに記載している。
(2)Intelへの実施許諾
LGEはこれらの特許群をIntelに実施許諾した。Intelは、LGE特許を使用するMPU及びチップセットの製造、販売、販売の申し出及び輸入等が可能である。ただし、実施許諾契約書には、以下の制限があった。
「第3者により、当事者の実施許諾製品と、当事者以外の出所から得られる製品または部品等とを組み合わせること、並びに、その組み合わせの使用、輸入、販売の申し立てまたは販売のための第3者への契約は、何れの当事者も結ぶことができない。」
さらに、別の契約書(以下、主契約書)には、Intelが書面による通知をIntelの顧客に付与する点が記載されている。具体的には、以下の事項が記されていた。
通知
「広範な許諾契約を受けているが、貴社が購入したIntel製品はLGEから許諾を得たものであり、LGEが所有する特許を侵害しないこと。またこの実施許諾は、明示的または黙示的に、貴社がIntel製品に非Intel製品を組み合わせて製造した製品にまで拡張するものではない。」
(第2回に続く)