中国特許民事訴訟概説(第8回) - 企業法務全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国特許民事訴訟概説(第8回)

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中国特許民事訴訟概説 ''〜中国で特許は守れるか?〜''(第8回) 
河野特許事務所 2008年9月19日
執筆者:弁理士 河野英仁、中国弁理士 張   嵩


7.最高人民法院の役割と司法解釈
(1)最高人民法院の役割
 最高人民法院は法により独自に最高裁判権を行使し,行政機関,社会団体及び個人の干渉を受けない。
 最高人民法院の主な役割は以下のとおりである。
1. 全国に大きな影響を及ぼす案件,高級人民法院の判決,裁定に不服の上訴案件及び最高人民法院が自ら審理すべきである案件の審理を行う。
 このように最高人民法院が第1 審となる場合もあるが,知的財産権訴訟においてはそのような場合はきわめてまれであろう。
2. 下級法院の監督を行うべく,誤審判決を取り消し,審理を決定するかまたは再審を指令する。
3. 審判の過程での法律適用問題に対し司法解釈を行う。判例法主義を採用しない中国においては,司法解釈は重要な意義を有する。以下に司法解釈についての詳細を説明する。
(2)司法解釈
1.司法解釈とは
 司法解釈とは,中国の最高司法機関が法律により付与された職権に基づいて,法律を実施する過程において具体的にどのように法律を運用するかについて発行した普遍の司法効力のある解釈である。
 周知のとおり,判例法主義を採用する米国等とは異なり,中国は成文法制度を採用している国の一つである。成文法の条文は多くの社会現象をまとめて概括をすることにより得られた普遍で,また抽象的なものである。そのため,規則に対する理解は人によって異なる場合が多い。特に裁判官がこの抽象的な規則を,個別の事件に具体的に適用する際に,法律規則の内容及び適用範囲について自ら理解して判断することになる。
 法院は上から下への大きなシステムであり,各裁判官の理解・判断が違うことも当然であろう。しかし,同様の事件について法院毎に異なる,或いは正反対の判決がなされた場合,人民は何に適従すべきか,その判断が困難となり,また法院の権威をも低減させることとなる。
 中国は判例法制度を採用しないため,法院の判例によりある法律の適用規則を具体化することができない。従って,法律規定の意味を更に明確にし,裁判官の判決基準を統一化すべく,司法解釈という中国特有の法律形態が誕生した。
 司法解釈の概念に対する理解を直感的に理解すべく,以下に例を挙げて説明する。
 中国特許法第56 条は,
 「発明又は実用新案の特許権の保護範囲はその特許請求の範囲の内容を基準とし,明細書及び図面は権利請求の解釈に用いることができる。」
と規定している。「特許請求の範囲の内容を基準とし」とはどのように理解すればよいか?例えば侵害の判断において,ある技術の特徴は完全に本特許技術と一致する場合のみに侵害と認められるのか,またはほぼ同じであれば侵害と判断されるのか,異論が存在している。これに対して,『最高人民法院による特許紛争案件の審理において法律を適用する際の問題に関する規定』という司法解釈の第17 条において,均等論に関し以下のとおり規定している。
 「特許権の保護範囲は特許請求の範囲に明確に記載されている必要的技術特徴により限定されている範囲を基準とすべき,当該必要的技術特徴と均等である特徴により確定されている範囲も含まれる。均等特徴とは,記載されている技術特徴とほぼ同じ手段を利用し,ほぼ同じ機能を実現し,ほぼ同じ効果を達すると共に,本分野の普通の技術者が創造的な工夫をせずに連想できるものである」
 これは中国での均等論の法律依拠となるものであり,普遍的な司法効力を有する。
2.司法解釈の形式及び効力
 最新の規定によって,今後の司法解釈の形式は「解釈」,「規定」,「批復」,「決定」(名称の接尾語)の四種類となり,法律と同等の効力を有している。
3.中国の現在の司法解釈の問題点
 (a)形式が混乱している
 以前は司法解釈の形式に関しなんら明確な規定が存在しなかったため,従前の司法解釈は,多様な形式となっており,その名称だけでは司法解釈であって法律効力を有するのか,或いは,そうでないのかの判断が困難であるという問題がある。
 (b)有効性を判断しにくい
 以前に発効された司法解釈に誤りが存在し,または,現在の裁判要求に適応できなくなった場合には,訂正または修正という手段ではなく,新たな司法解釈を発行するという形で,新たに規定し直す。
 しかし,この新たな司法解釈は以前のどの規定(条文)が廃止されたのかを明確に指示せず,大まかに「本規定と抵触する場合は本解釈を基準にする」との如く記載されているにすぎない。従って,新たな規定が抽象的である場合,以前の規定が廃止されたのか否かの判断が困難になるという問題がある。
 また裁判実務においても,特に基層法院の裁判官が以前の司法解釈を否定せず,即ち,古い司法解釈を適用する場合もある。また,特定の司法解釈は有効でありながら,効力が弱いまたは解釈に疑義が生じるおそれがあるものも存在し,基層法院に適用されないという問題もある。
(c)遡及性についての論争がある
 司法解釈は法律と同等の効力を有するため,その遡及性を巡り論争となる。原則として,司法解釈は現行の法律に対する解釈であり,新たな立法ではないため,その効力も解釈される法律と同時に存在,同時に消滅すべきである。しかし,時代の変遷に伴って,物事に対する見方も変化するであろう。従って,現在の司法解釈に以前の理解と異なるものが出ることも避けられないのである。
 このような解釈の遡及性について,特に本司法解釈に発効時間が規定されていない場合に,論争が増加する。しかし,現在の通説では,司法解釈の条文に発効時間が規定されていない場合,その解釈の公布時間が発効時間に該当し,且つ原則として遡及性がないものと解されている。
 
(第9回に続く)