- 中舎 重之
- 建築家
対象:住宅設計・構造
20年前の阪神・淡路大震災
1995年1月17日、午前5時46分に発生した淡路島北部を震源とする
マグニチュード7.2 の阪神・淡路大震災は、想像を絶する被害規模となった。
以下に被害状況を列記します。(平成8年12月26日、自治省 発表)
死者: 6,425人
負傷者: 43,772人
家屋全壊: 110,457棟
半壊: 147,433棟
損壊: 230,332棟
公共建物・他: 4,849棟
道路: 10,069カ所
橋梁: 320カ所
河川: 430カ所
水道断水:約 130万戸
ガス停止:約 86万戸
停電: 約 260万戸
震度7の地域を記します。 [1995年3月 (財)日本気象協会 発表]
記述の順序は、西より東とします。
神戸市須磨区鷹取
長田区大橋
兵庫区大開
中央区三宮
灘 区六甲道
東灘区住吉
芦屋市 芦屋駅
西宮市 夙川
宝塚市 ー
震度7の範囲は、南北方向は海岸線より2km以内、東西方向は、約22km位。
神戸市を襲った都市直下型地震の被害は、木造家屋の倒壊と焼失が特に大きく、
災害を巨大化させた。中高層のビル、マンションの建物だけでなく、道路、鉄道
にも甚大な被害が出ました。
ここでは、木造住宅の被害と、中高層のマンションの被害を列記します。
木造住宅編
A.比較的新しい住宅の被害
1:建築途中で被災した和風2階建て。
南側のテラス戸、北側の台所、トイレ、脱衣室、浴室などの連続した開口部
と東西の壁量が絶対的に不足していた。
1階スジカイの全数が座屈により折損したり、
端部の接合金物がはづれていた。
2:築2ヶ月の洋風2階建て。
1階部分が完全に倒壊してしまった。1階南側に18帖のリビングを設けて、
中間に間仕切り壁がない状態であった。
3:新築7年の2階建て。
1階に12帖を超える広い部屋を造り、壁の量が相対的に少なくなり、
存在する壁に、大きな負担が掛かり破壊し、倒壊した。
* 島本滋子 著「倒壊」 筑摩書房 によれば、建物が災害で消滅しても、
ローンだけが残り、未だにローンを払い続けている人々が1万人を超える
とあります。被災したマンションの建て替えにも、多くの難題があるとの
事です。
B.壁の配置が悪い住宅の被害
1:1階にガレージを設けた2階建て (神戸市東灘区)
1階の壁量が大きく不足して、倒壊した。
2:狭小住宅2階建て (神戸市灘区・東灘区)
間口が2間の建物は、1間の玄関と1間のテラス戸で壁が無く倒壊した。
3:店舗併用住宅2階建て (神戸市ー商店街)
間口が店舗のために、全面開口となり倒壊した。
C.増改築した住宅の被害
1:平屋建てを2階建てに増築 (神戸市東灘区)
2階を増築して、建物の重量が増えたにも拘わらず、1階にそれに見合う
耐力壁を設けなかった事で倒壊した。
* 2階を増築する時の注意
・2階の壁に作用する地震力を、1階の耐力壁に伝えるには、2階の床面を
剛にする必要があります。
・2階の荷重が増える分だけ、1階の耐力壁を増やす事と、既存の壁を強くし、
各種金物で、仕口や接合部を固める必要があります。
・2階部分が偏って増築される場合は、2階の壁の下のラインに1階の壁が
来るように計画をする必要があります。
D.共同住宅(アパート)の被害 (西宮市・芦屋市)
1:木造のアパートは、南側の開口部と北側の出入り口と台所の窓と間口方向に
壁量が極端に少なく、奥行き方向は隣室との界壁にて充分すぎる壁量がある。
1階が崩壊したり、大傾斜した建物が多数見られた。
E.傾斜地の被害 (神戸市兵庫区)
* 調査時点での355棟の木造等の建物のうち、撤去された建物は269棟で
割合は76%になる。
此の地は、六甲山地の裾野にあたり、緩やかな斜面となっている。
地面には、無数の地割れが生じて、基礎の被害が著しく、建物の修復が
難しいと判断されて建物の撤去に至った様である。
* 撤去された住宅の基礎
・鉄筋が入っていないものが、ほとんどであった。
・逆T字型のフーチングは形成されていない。いわゆるローソク基礎であった。
・擁壁の石積み、間知石積みが崩れ、地盤が沈下して建物の倒壊した例が多数。
F.液状化の被害 (芦屋市シーサイドタウン=新興住宅地)
・潮見町では、道路や建物周辺には、砂の噴出が見られ、陥没や移動も
観測されている。
・建物の外観上の損傷が、ほとんど見られないが、建物全体が箱が転倒するかの
様な形態であった。
・潮見町の建物は、ほとんど傾斜している。
G.モルタル壁の被害
外壁のモルタル壁は、建物が新しい、古い物には関係なく
一様に脱落現象が多く見られた。
* モルタル壁の施工上の注意
・モルタル壁の塗り厚さは16mmをメドにする事。
モルタル厚が薄くても、厚くてもNGです。
・平ラス網が腐食していた。ラス網は防錆処理した波形ラスが良い。
・ラス網を止め付けるタッカー釘は、正しい方法で使用すべきです。
H.木造3階建ての耐震性
1:3階建て住宅は、しっかりと構造計画をして、施工管理も良い建物は
高い耐震性を示していた。図面表示が明快で、ホールダン金物も適切に使用。
2:構造計算書があっても、構造計画も施工管理も不充分な建物は倒壊したり、
大破したりしている。これらの建物の構造計算には不備があり、図面には
金物も明記されてはいない。
* 良い計画と云うのは、プランの段階で、壁の量と配置がバランス良く行われ
ている事を云う。 壁の量と配置と云うと、各階平面的のみに意識があるが、
一番大事なのは、耐力壁が立面的に3階から2階へ、さらに1階へと縦方向
に地震力が流れる連続性がある事が必要なのです。
現在の建築審査機関では、法の規制がない事により、此の点のチェックは
成されていない。
耐力壁のバランスが悪い建物を計算して、計算書でもOK,審査の法制でも
OKであっても、地震に遭遇すると、計画での欠陥が露呈して建物が一瞬の
内に倒壊する事になります。
I.被害調査の統計より
1:住宅金融公庫の建築仕様書の有効性(6地区、築10年以内、約530戸)
無被害・軽微・小波 92%
中破 5%
大破・倒壊 1%
他 2%
2:適切はスジカイが確認された建物の被害率 (淡路島、震度7地域)
無被害 42%
小被害 35%
半壊 18%
全壊 5%
* 結果は無被害と小被害の合計で77%、半壊と全壊の合計が23%
とスジカイの有効性が証明された。
3:築年代別の倒壊率 (神戸市東灘区、800ヘクタール、約2000棟)
昭和49年 以前 60%強
昭和50~60年 30%
昭和61年 以降 10%弱
4:蟻害・腐朽と地震被害との関係 (淡路島北淡町、約262棟)
蟻害・腐朽がある建物 蟻害・腐朽がない建物
調査棟数 58棟 144棟
全壊 76% 38%
半壊 10% 19%
軽微・他 14% 42%
J.被害が軽微であった木造住宅
1:適切な設計により、耐力壁の量、耐力壁の配置が、理に適った住宅。
2:適切な施工管理が行われた住宅。(例、住宅金融公庫の融資を受けた住宅)
3:適切な構造計画の基で、設計された3階建て住宅
4:接合金物が有効に多用され、適切な施工管理がなされた住宅
2015.2.24 中舎重之 ホームページ: スーパーフレーム「やすらぎ」 にて検索
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