100年コンクリートについて - 住宅設計・構造設計 - 専門家プロファイル

野平 史彦
株式会社野平都市建築研究所 代表取締役
千葉県
建築家

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対象:住宅設計・構造

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100年コンクリートについて

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Topics 特設質疑回答欄
Q&Aを見ていると、時々,ドキッとする様な質問があったり、相当マニアックな質問があったり、これはいい質問だ、という質問が寄せられます。
質問者がどの位専門的なことをご存知なのか、質問内容からある程度読みとることはできますが、他の一般の方も読まれることを考えて、どれだけ平易な文章で分かり易く答えることができるか、良い質問に対してはちょっと時間をかけて推敲を重ね、お答えしたいと考えています。
質問にお答えする、というのは、私達にとっても非常に勉強になることですので、これからも、できるだけしっかり考えをまとめてお答えできるように心掛けたいと思っております。

しかし、少し前に「100年コンクリート」についてのご質問があり、その時はなかなか時間が取れないので、休日にじっくり書かせてもらおうと思っていたら、「回答受付終了」となってしまいました。

質疑についての回答には、きちんとしたご説明をするには現在の回答文字数(800字+追記800字)ではとても説明し切れないものも多く、もう少し文字数を増やして頂きたくAllaboutにもお願いしたいところです。

さて、今回は折角「100年コンクリート」についてまとめた原稿があり、コラムでは文字数も多く、画像も大きく見せられますので、ここに書かせてもらう事にします。


100年コンクリートについて

 大手ゼネコンが超高耐久性コンクリートの研究に盛んに取り組んでいる、という記事が新聞に載ったのが今からおよそ3年前のことです。
 それが今「100年コンクリート」という言葉になって一人歩きしている様ですが、耐震偽装事件で大きなダメージを受けたマンションメーカーによる起死回生の宣伝文句になっているようです。

 しかし、コンクリートというものは、砂と砂利とセメントと水を混ぜ合わせると化学反応により、どんな方法でもその殆どがコンクリートとして固まってしまうのであり、紀元前から使われていて、ローマのパンテオン(写真1)はローマン・コンクリートと呼ばれる古代コンクリートでできており(鉄筋は入っていない)、すでに2000年もそのまま建ち続けています。

 鉄筋コンクリートは、19世紀にフランス辺りの花屋さんがコンクリートで成形した鉢が壊れ易いので、針金を中に入れて補強した、というのがはじまりとされていますが、鉄筋コンクリートはコンクリートと鉄の膨張率がたまたま同じだったという奇跡によって成り立っています。

 圧縮に強いコンクリートと引張りに強い鉄筋が一緒になって無敵の構造体となった訳ですが、しかし、この時、同時に宿命的な寿命が与えられてしまうことになりました。

 それは、そもそもアルカリ性であるコンクリートが中性化してゆくことにより鉄筋が錆びてしまう、その錆びの進行速度が鉄筋コンクリートの寿命を決める、ということなのです。

 今までの鉄筋コンクリートは鉄筋が錆びてその強度が保持できなくなるまで約65年ということだったのですが、鉄筋が錆びる速度を落とす事で期待耐用年数を延ばす事ができる訳です。

 「100年コンクリート」という言葉は法的にも建築学会の資料にもありませんが、日本建築学会の「建築工事標準仕様書・同解説ム鉄筋コンクリート工事JASS5」という中に100年という数字がでてきます。
 それによると鉄筋の腐食確率3〜5%という前提があります。その上で、水セメント比が48.5〜52%とされています。
 しかし、セメントの40%以上の水を使って超高耐久性コンクリートを作るというのは何か解せないものがあります。
 というのは、コンクリートというのは化学反応でできるものであり、コンクリートの水の量はセメントの40%が飽和量とされていますから、それ以上の水は反応せずに出て来る事になります。
 なのに何故、飽和量以上の水を入れるのか、と言えば、コンクリートを柔らかくしないと、型枠の隅々までコンクリートが巧く入ってゆかないからです。しかし、この余分水が抜ける時に目に見えない水みちができて、後にそこからコンクリート中に空気や水蒸気、水などは入り込むことで鉄筋が錆びてゆくことになります。

 超高耐久性コンクリートを作るには,如何にしてこの水みちを作らない様にするか、ということなのです。

 それで大手のゼネコンが研究していたのが「耐久性改善剤」と呼ばれるもので、これによってコンクリート中の水みちや空隙を塞ぎ、鉄筋の腐食を防ごうとした訳です。
 この耐久性改善剤の量を制御する事で鉄筋コンクリートの期待耐用年数を割り出す事ができるようになり、竹中工務店による平城宮朱雀門基壇復元工事(写真2)では期待耐用年数500年の超高耐久性コンクリートが用いられました。
 
 さて、マンションについて「100年コンクリート」の仕様になるのか? とのことですが、先にも述べた通り「100年コンクリート」という言葉の定義がない以上、そのような公の仕様がない、ということです。
 ただ、今のところ期待できる耐用年数があるだけで、その仕様はまだゼネコンのパテントとしてある、としか言えないようです。