米国特許判例紹介:Alice最高裁判決後の米国ビジネス関連発明の保護適格性(第2回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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米国特許判例紹介:Alice最高裁判決後の米国ビジネス関連発明の保護適格性(第2回)

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Alice最高裁判決後の米国ビジネス関連発明の保護適格性

~動画配信サービスの特許保護適格性判断~

米国特許判例紹介

2014年12月19日

執筆者 河野特許事務所 弁理士 河野 英仁

 

ULTRAMERCIAL, INC.,

Plaintiffs-Appellants,

v.

WILDTANGENT, INC.,

Defendant-Appellee,



結論2: クレームは抽象的アイデアを特許保護適格性ある内容に変換していない

 CAFCは、クレームが、抽象的アイデアを特許適格性ある内容に「変換するtransform」ための「発明概念inventive concept」を含んでいるか否かを分析した。

 

 この抽象的アイデアの特許適格性ある内容への変換は、単に「それを適用するapply it」という文言を追加するだけでは不十分である。またクレームが抽象的アイデアを独占しないよう「追加の特徴」を含んでいるか否かを判断する必要があり、これらの「追加の特徴」は「十分理解されたルーチン、慣習活動」を超えるものでなければならない

 

  CAFCは、545特許クレームの構成要件は、抽象的アイデアを特許保護適格性ある内容に変換していないと結論づけた。クレームは単に、実行する者に抽象的アイデアをルーチン、慣習活動で、実装するよう指示しているだけだからである。

 

 これら11の各ステップのどれも、クレームの本質を特許適格性ある内容に変換しておらず、クレームの大部分は、広告を閲覧する代わりに、メディアコンテンツをオファーするという抽象的概念を含んでいる。

 

 ルーチンにさらにステップを追加すること、例えば、活動ログをアップデートする、広告を見るために消費者からリクエストを要求する、公衆のアクセスを制限する、及び、インターネットを使用するということは、抽象的アイデアを特許適格性ある内容に変換するものではない。

 

 CAFCは、クレームされたステップは、「普遍性の高いレベルで特定される慣習のステップ」だけを含んでおり、活動ログをコンサルティングし、アップデートするステップは、たいしたことの無い「データ収集ステップ」を意味しているだけであり、根本的な抽象的アイデアに実際上の重要性あるものを何ら追加していないと判断した。

 

  クレームには、インターネットを利用することが記載されているが、発明概念を追加するものではない。広告を使用する抽象的アイデアをインターネットでの通貨として狭くすることは、抽象的アイデアの使用を、特別な技術環境に限定することを試みることであり、クレームを保護適格性あるものとするのには十分ではないと判断した。

 

 以上の通りCAFCは、各11のステップは単に、実行する者に抽象的アイデアを、「ルーチン、慣習の活動」に実装するよう命令しているだけであり、これは特許適格性ある抽象的アイデアを特許適格性ある内容に変換するのに十分ではないと判断した。

 

 CAFCは続いて、機械変換テストを用いて保護適格性の有無を判断した。機械変換テストは米国特許法第101条を判断する為の一つのツールとして用いることができる。具体的には以下のいずれかの条件を満たせば保護適格性を有するとされる。

 

(I)クレームされた方法が特別な機械または装置に関係していること、

または

(II)特別な物(article)を異なる状態または物体へ変換していること

 

  しかし545特許のクレームは、特別な新規の機械または装置に結びついておらず、汎用コンピュータに結びついているだけである。汎用コンピュータはユビキタス情報伝送媒体であり、新規な装置ではない。その他慣習のステップをコンピュータに追加することは、発明を特許適格性のあるものとすることができない。

 

 クレーム1の前段は、仲介業者facilitatorを必要としているが、明細書では当該仲介業者は人であり、機械ではないことを明らかにしている。このように545特許はどこにも新規な機械に結びついていない。以上の理由により、CAFCは、545特許のクレームは、機械変換テストの機械テストを満たさないと判断した。

 

 CAFCは、545特許のクレームは機械変換テストの変換テストをも満たさないと判断した。クレームされた方法は、許可の認定及び消費者による広告の閲覧と、コンテンツプロバイダによるアクセスの許可と、スポンサーとコンテンツプロバイダとの間の金銭取引に係る取引に言及している。

 

 これらの公衆または私的な法的義務または関係操作、ビジネスリスク、または他のそのような抽象的概念は、当該テストを満たすことができない。これらは物理的なオブジェクトまたは実体ではなく、これらは物理的なオブジェクトまたは実体を代表するものではないからである。

 

 CAFCは、545特許のクレームは、いかなる物articleをも、異なる状態または物体thingへ変換していないことから、機械変換テストの変換テストをも満たさないと判断した。

 

 

5.結論

 CAFCは米国特許法第101条の規定に基づき無効と判断した地裁の判断を支持する判決をなした。

 

 

6.コメント

 Alice最高裁判決により、保護適格性の判断は抽象的なアイデアか否か、また抽象的アイデアに遙かに超える要素が追加されているか否かを基準に行われる。

 

 第1のステップではビジネス関連発明の場合、抽象的アイデアと判断される可能性が高い。ただしCAFCは全てのソフトウェア発明が抽象的アイデアとなるわけではないと、米国特許法第101条が、技術的側面が強いソフトウェア発明にまで無制限に適用されるべきでない旨示唆している。

 

 第2のステップでは、汎用コンピュータ・インターネットの単なる使用、使用環境の限定、慣習ステップの追加だけでは、遙かに超える要素が追加されているとはいえない。何らかの技術的処理を追加する必要があるといえる。Alice最高裁判決以降はこの追加すべきレベルが引き上げられたといえよう

 

 またCAFCは機械変換テストを用いたが、機械テストは汎用コンピュータを用いている限り、一般的にはクリアすることができない。逆に言えば、工作機械、計測機器、医療機器等に適用する発明であれば、機械テストをクリアできる可能性が高いといえる。変換テストはビジネス関連発明、画像処理・暗号化処理等のデータ処理関連発明であれば物への変換がないことからクリアできない可能性が高くなる。

 

 問題となるのはどの程度まで要素を追加すれば良いかということである。

 

 本判決を下す前にCAFCは545特許のクレームの保護適格性に関し、以下のとおり判断している。

「クレーム1はこのようにサイバーマーケット環境で、コンピュータを通じた各種処理の実行を規定しており、通貨として広告を使用するコンセプトを先取りするものではない

・・・

  また、第3のステップでは「前記メディア製品を販売のためにインターネットウェブサイトで提供する」と規定しており、明らかにインターネット上での処理であることが分かる。また、第4のステップでは製品に対する「(アクセスが)制限される」ことから、インターネット上でのアクセス制限のためのコンピュータプログラミングがなされていることも分かる。

 

 このように、クレーム全体としてみれば、クレームに係る発明は、広範囲に及ぶコンピュータインターフェースに関わり、特別なプロセスに関するものである。また「コンピュータを使用して広告を販売する」とは述べておらず、全ての広告形態を先取りするものではない」

 

 差し戻し前の判決ではこのように、保護適格性に値する要素が十分に追加されていると判示されている。下記クレームの第2ステップ、第4ステップ、第8~第10ステップでは確かに計数処理、回数の比較処理、アクセス制限処理、メディアへのアクセス許可処理及び回数の更新処理が行われており、十分抽象的アイデアを超える発明概念が追加されているのではないかと筆者は考える。またクレームには様々な限定が行われており、「対価の代わりに広告を見せる」というアイデア自体を独占することにはならない。

 

「メディア製品に関連する複数のスポンサーメッセージから選択されたスポンサーメッセージを選択する第2ステップ;前記第2ステップは、スポンサーメッセージが先に示された総回数が、スポンサーメッセージのスポンサーにより契約された取引サイクル回数より少ないかを検証するために活動ログにアクセスすることを含み;

・・

前記メディア製品への一般公衆のアクセスを制限する第4ステップ;

・・

スポンサーメッセージが対話式メッセージでない場合、前記スポンサーメッセージの表示を促進するステップの後に、前記メディア製品への前記消費者のアクセスを許可する第8ステップ;

 

スポンサーメッセージが対話式メッセージである場合、少なくとも一つのクエリーを消費者に提示し、前記少なくとも一つのクエリーに対する応答受信後に前記消費者に前記メディア製品へのアクセスを許可する第9ステップ;

 

活動ログに対する取引イベントを記録する第10ステップ;該第10ステップは、スポンサーメッセージが提示される総回数をアップデートすることを含み、」

 

 下記表はBilski最高裁事件、Alice最高裁事件、buySafe事件の主要クレームと、本事件のクレームとを示したものである。なお、これらの事件はいずれも保護適格性なしと判断された事例である。Bilski最高裁事件、Alice最高裁事件及びBuySafe事件ではコンピュータ、インターネットの記載が全く無いか、或いは、形式的にコンピュータが記載されているに過ぎない。

 

 一方、本事件のクレームでは構成要件中に情報処理に関する技術が他の3案件と比較して数多く記載されていることが理解できる。情報処理関連の特許明細書を作成する弁理士であれば、まずまず問題のないレベルと考えるのではないであろうか。Alice最高裁判決以降の「Significantly more」のハードルは相当高いといえよう。

 


 

クレーム対比表

Bilski最高裁事件

Alice最高裁事件

1.定価にて商品提供者により販売される商品の消費リスクコストを管理する方法であって以下のステップを含む

(a)前記商品提供者と前記商品の消費者との間の一連の取引を開始するステップであり、前記消費者は、過去の平均に基づき定率で前記商品を購入し、前記定率は前記消費者のリスクポジション(risk position)に関連し、;

(b)前記消費者に対し対抗リスクポジションを有する前記商品のために市場参加者を特定するステップ;and

(c)前記市場参加者による一連の取引が前記消費者の一連の取引に係るリスクポジションの平衡を保たせるように、第2定率で前記商品提供者と前記市場参加者との間の一連の取引を開始するステップ.

各当事者が交換機関におけるクレジットレコード及びデビットレコードと、予め定められた義務交換用のクレジットレコード及びデビットレコードを有する当事者間の義務交換方法において、

 (a) 交換機関から、各利害関係当事者に対して、監督機関により独立して保有されるシャドークレジットレコード及びシャドーデビットレコードを生成し、

 (b)各交換機関から、各シャドークレジットレコード及びシャドーデビットレコードについての開始日残高を取得し、

 (c)交換債務債権をもたらす各取引に対し、監督機関が、各当事者のシャドークレジットレコードまたはシャドーデビットレコードを調整しており、各調整は時系列で実行され、常時シャドーデビッドレコードの価値が、シャドークレジットレコードの価値よりも小さくならないような取引だけを許可し、

 (d)一日の終わりに、監督機関が、前記許可された取引に係る調整に従って、前記交換機間の一つに各当事者のクレジットまたはデビットをクレジットレコード及びデビットレコードに交換するよう指示し、クレジット及びデビットは取り消し不能であり、交換機関においては時間不変条件義務が課される

 義務交換方法。

buySafe事件

本事件

1. 安全取引サービスプロバイダのコンピュータで実行する少なくとも一つのコンピュータアプリプログラムにより、オンライン取引完了後にオンライン商取引に対して取引実績保証サービスを取得する第1当事者からリクエストを受信し、

 安全取引サービスプロバイダコンピュータで実行する少なくとも一つのコンピュータアプリプログラムにより、取引実績保証サービスを第1当事者に提供するために第1当事者を保証することによりリクエストを処理し、

 安全取引サービスプロバイダコンピュータは、コンピュータネットワークを通じて、オンライン商取引完了後に、第1当事者の実績を保証すべく、取引実績保証と第1当事者に関わるオンライン商取引とを結合する取引実績保証サービスをオファーする

 ことを特徴とする方法。

1.仲介業者を介したインターネットを通じた製品配信方法において、

コンテンツプロバイダから、知的財産権が保護され購入可能なテキストデータ、音楽データ及び映像データの少なくとも一つからなるメディア製品を受信する第1ステップ;

メディア製品に関連する複数のスポンサーメッセージから選択されたスポンサーメッセージを選択する第2ステップ;前記第2ステップは、スポンサーメッセージが先に示された総回数が、スポンサーメッセージのスポンサーにより契約された取引サイクル回数より少ないかを検証するために活動ログにアクセスすることを含み;

インターネットウェブサイトにて販売するためにメディア製品を提供する第3ステップ;

前記メディア製品への一般公衆のアクセスを制限する第4ステップ;

消費者がスポンサーメッセージを閲覧するという前提条件下で、消費者に無償でメディア製品に対するアクセスをオファーする第5ステップ;

スポンサーメッセージの閲覧要求を消費者から受信する第6ステップ;前記消費者は、メディア製品に対するアクセスがオファーされたことに応答して前記要求を送出し、

消費者からの要求の受信に対応して、消費者に対するスポンサーメッセージの表示を促進する第7ステップ;

スポンサーメッセージが対話式メッセージでない場合、前記スポンサーメッセージの表示を促進するステップの後に、前記メディア製品への前記消費者のアクセスを許可する第8ステップ;

スポンサーメッセージが対話式メッセージである場合、少なくとも一つのクエリーを消費者に提示し、前記少なくとも一つのクエリーに対する応答受信後に前記消費者に前記メディア製品へのアクセスを許可する第9ステップ;

活動ログに対する取引イベントを記録する第10ステップ;該第10ステップは、スポンサーメッセージが提示される総回数をアップデートすることを含み、

表示されるスポンサーメッセージのスポンサーから支払を受信する第11ステップ。

判決 2014年11月14日

以上

【関連事項】

判決の全文は連邦巡回控訴裁判所のホームページから閲覧することができる[PDFファイル]。

http://cafc.uscourts.gov/images/stories/opinions-orders/10-1544.Opinion.11-12-2014.1.PDF

 

 



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