- 中舎 重之
- 建築家
対象:住宅設計・構造
木造住宅の耐震補強設計
木造住宅の耐震診断と耐震補強計画とで、ワンセットになります。
耐震補強計画が、お客様に納得していただき、概算予算の了承が
得られますと、耐震改修工事へと進みます。
ですから、耐震改修工事を行うには、耐震補強設計が必要になります。
耐震補強設計と耐震改修工事とは、表裏一体の関係になります。
耐震補強設計は、耐震改修工事を行う工事業者の指示書になります。
図面は現況図と補強図を書きます。補強図には耐力壁の種類を明確に
します。構造用合板、スジカイ、構造用合板+スジカイを明記します。
自治体の耐震改修工事の補助金を受ける場合の申請書のバックデータ
にもなります。
補強設計の注意点。
耐震補強設計で大事なことは、お客様の建物の内外を耐震改修する
のですが、住みながら出来る改修工事であるべきです。
お客様の生活に不便は掛かりますが、お客様が許容出来る範囲を
見極める必要があります。
その為には、耐震補強設において、耐震に対して本来ベストである
べき解答を、ベターに止める事も考慮に入れるべきと考えます。
次に大事なのが、既存の建物の改修工事なので、建物が図面通り
には出来ていない事も念頭に置くべきです。
すなわち、設計においては最善の策を採用しても、現場では次善の
策を採用せざる得ない事も多々あります。
ですから、設計段階で最善と次善との落差を小さくする考慮をも、
して置くべきです。
現場での設計変更。
現場は、解体工事により初めて室内の全容が分かります。
柱と梁の関係が推測を超えている場合が多く、補強設計の変更を
余儀なくされます。その場合、現場で即断即決する事態になります。
注意すべきは、設計者の独り善がりになる事を避けて下さい。
現場の大工さんの知恵を借りる事もすべきです。
変更によるコスト増しと、工事の停滞を避ける為の近道です。
耐震改修工事の前には、施工する大工さんへの改修工事の説明を
念入りに行うと同時に、大工さんの話を引き出すのも大事です。
充分なるコミュニケーションこそ、耐震改修をスムースに進める
方法です。
同じ事が、お客様に対しても云えます。改修の内容の説明は勿論
ですが、工事の手順=工程を、その都度伝える事が大事です。
耐震補強設計でのポイント。
在来軸組工法の計算では、柱の太さや本数は無視されます。
あくまでも、壁の強さと長さで決まります。壁の量が全てです。
伝統工法の計算では、柱の太さが15cm以上有る事が条件です。
そして、下がり壁、腰壁の形状を考慮して計算されます。
在来軸組工法では、壁量の計算により、建物の耐力を計算します。
ですが、次の2項目で減点されます。
1、耐力壁の配置:南側に開口部が多く、北側に壁が多いと減点です。
2, 建物の劣化度:日頃のメンテナンスが良ければ、減点は少です。
建築後, 手入れをしない建物は、減点が大です。
上記の2項目を解決すべく、補強設計においては、
1,耐力壁の再配置で、減点ゼロとすべきです。
2,劣化部分の改修は、出来うる限り行う事は無論ですが、
基礎の亀裂は、最優先にて補修して下さい。
基礎の亀裂は、減点以上の問題です。
構造設計では、基礎は完全無欠が条件です。
基礎は地震時には、真っ先に抵抗します。
そして、上部の耐力壁を十二分に働かせます。
屋根の仕上げ材の話です。
建物の必要耐力の計算では、屋根の仕上げ材が大きな要素を占めて
います。
軽い屋根:鉄板葺き、スレート葺き。
重い屋根:瓦葺き。
屋根の仕上げ材が大きく影響するのは、2階部分です。
必要耐力が重い屋根では、軽い屋根の時の1.5倍も多くなります。
1階では、2階の床荷重が加算され、其れ程の差には成りません。
建物の2階部分の面積が大きい場合は、屋根の軽量化も耐震の
一助になります。屋根の改修費用と2階+1階の耐震改修費用とを
比較検討して、コストとのバランスで決定して下さい。
補強の耐力壁の話です。
耐震補強ですので、補強すべき耐力壁を強い壁にして、壁の数量も
少なくしたく成りますが、これが要注意となります。
木造住宅の耐力壁は、高い倍率の耐力壁で四隅を固めるよりも、
低い倍率の耐力壁を、建物の中央部をも含めて、まんべんなく配置
させるのが有効です。
地震力は建物の重さに比例して起きますので、
四隅や外周よりは、建物の中央・内側の方が大きな力が掛かります。
台風などの風圧力は、ひたすら外側にのみ力が掛かります。
これは、新築の建物でも、補強する建物でも同じ原理ですので、
是非に配慮して下さい。
建築基準法・同施行令に定められている、壁の強さの合計値の最大を
壁倍率5=壁強さ倍率9.8kNとしています。
此の様に上限を定めている理由は、強い壁を少なく入れるよりも、
弱い壁を多く配置する方が、木造住宅の耐震には、有効であると云う
意味と解釈しています。
補強耐力壁の金物の話です。
倍率の高い壁=構造用合板を隅柱に設ける場合、接合金物も大きい
物が必要になります。隅柱は上部荷重が4.5~6.0kN しか
有りませんので、耐力壁からの引き抜き力が大きく上回ります。
2階建ての1階部分では、ホールダン金物が25kNが必要になる
事が多々あります。
アンカーボルト:M16は基礎に定着させる必要がありますので、
要注意です。
当方の耐震補強設計。
当方が考えて、実施してきた耐震補強設計について記します。
耐震補強する場所は、生活の中心である居間をターゲットにします。
耐震改修工事を建物全体に、まんべんなく施工するのではなく、
2階建ての1階部分の一部屋を集中的に補強する事を考えています。
1階の一部屋をシェルター化する案です。
シェルター化した部屋で、昼間は生活してもらいます。
夜間はシェルター化した部屋の2階で就寝してもらいます。
それにより、昼間の8時間、夜の8時間を安全な空間に過ごして
もらう事で、一日の2/3の時間は安心出来ると云う事です。
これは、耐震補強の常識の範囲を超えていますので、
当方の考え方に賛同できる、お客様のみに、当方の技術を過不足なく
提供を致しております。
ナカ シャ シゲ ユキ
一級建築士: 中 舎 重 之
綜合企画設計工務一級建築士事務所
大和市中央5-2-25~703
TEL:046-263-5029 FAX:046-263-9324
ホームページ:スーパーフレーム「やすらぎ」にて検索
このコラムに類似したコラム
マンションのデトックス 齋藤 進一 - 建築家(2021/03/03 00:13)
ビフォーアフター、リノベーションでお洒落な外観になる家のつくり方 小木野 貴光 - 建築家(2018/05/14 00:00)
型枠解体及び外回り配管 松永 隆文 - 建築家(2016/12/26 14:58)
基礎立上り型枠組 松永 隆文 - 建築家(2016/12/21 14:53)
基礎の配筋検査 松永 隆文 - 建築家(2016/12/16 16:14)