- 増井 真也
- 建築部門代表
- 建築家
対象:住宅設計・構造
最近の住宅は小さな敷地に建てることが多い。土地の広さは広くても30坪前後というのが一般的だ。土地の価格、住宅ローンの設定などを考えた分譲業者が土地の切り売りをするときにまず目標とするのがこの30坪という広さであるので、多いのも当然だ。
狭小地で広い家は作れない。広い家が良いに決まっているのだが、広くすれば当然コストの問題もあるし、建ぺい率、容積率などの法規制の問題もある。しかし、そんなときでも設計で広く感じるようにすることが重要だ。住宅の広さというのは生活の中で感じる感覚によるところが多分にある。そして、その広さの感覚が居心地の良い場につながる。
下の図面は設計中のW邸である。約30坪の敷地に建つ家族4人のための狭小住宅である。玄関スペースを持たないこの家は、庭から直接、8畳の居間に入る。居間の中心には柱が立ち、そのうえには化粧垂木のまるでお寺のような大きな小屋組みを持つ屋根がのっている。庭とつながる視線、小屋組みの奥行き感が、8畳の居間を大きく感じさせるだろう。
その奥には一段下がって台所兼食堂のスペースがある。ここでも台所と食堂を切り離さないことで伸びやかなスペースを確保している。台所側からは椅子で、居間側からは座布団で利用できるテーブルを設置する予定だ。
私の場合、住宅を設計するときには、まず家族が集まる場を作ることを心がけている。心地よくすごすことのできる場は、家の中で営まれる家族の暮らしを豊かなものにしてくれるだろう。洗練されたシンプルな空間というものではなく、自由にアレンジすることの出来る自分らしい部屋というもののほうがしっくりする。この家の場合、それは大きな屋根の下だ。庭にはいくつかの植木鉢が並べられることと思う。緑を見ながら、柱の周りにゴロゴロ、ゴロゴロ。居心地の良い場があれば、盆休みにわざわざ渋滞の中へ出かける必要がなくなるのである。