- 平 仁
- ABC税理士法人 税理士
- 東京都
- 税理士
対象:会計・経理
まずは、学術的な意味で税務調査がどのように捉えられているのかを考えます。
基礎とするのは、税法学の基礎を築いた名著、金子宏「租税法」(弘文堂)です。
金子租税法では、税務調査と言わず、質問検査権として解説されています。
質問検査権は、
「資料の入手について納税者の任意の協力が得られるとは限らないから、(略)
必要な資料の取得収集を可能ならしめるため、租税職員に質問検査権、
すなわち課税要件事実について関係者に質問し、関係の物件を検査する
権限を認めている」と説明されている。
つまり、学術的には、任意調査では、税務調査をする権限を与えなければ、
処分を下すのに必要な資料がそろわない恐れがあるので、権限を与えていると
考えているのである。
しかし、この権限は、「いわゆる行政調査を認めるものであって、
強制調査を認めるものではないが、質問に対する不答弁ならびに検査の拒否・
妨害に対しては刑罰が科されることになっているから、直接の強制力はないが、
質問・検査の相手方には、それが適法な質問・検査である限り、
質問に答え検査を受忍する義務がある。」とされており、
半強制の権限であることを認めている。
また、この権限が与えられるのは、「租税の公平・確実な賦課徴収のために
必要な資料の取得収集を目的とするものであって、犯則の調査を目的とする
ものではなく、犯則調査に直接結び付く」ものではないから、
憲法で保障されているはずの家宅捜索における令状主義や
不利益証言に対する黙秘権の規定は適用されない。
(その根拠として最高裁昭和47年11月22日判決、最高裁昭和58年7月14日判決)
この権限は、「各個別の租税に関する調査について必要があるときに
行うことができる」こととされ、「必要があるとき」の意味は、
「客観的な必要性が認められるときという意味であって、
必要性の認定は、租税職員の自由な裁量にゆだねられているわけではない。」
しかし、調査の必要性の判断は「専門技術的な判断を必要とする問題であるから、
租税職員の必要性の認定が違法とされる事例は実際問題としては少ない」。
税務調査の相手方には、納税義務所に対する本人調査と
納税義務者と直接的な関係のある者に対する反面調査に分けられるが、
「反面調査は、特に必要があると認められる場合のほかは、本人調査によって
十分な資料の取得収集ができなかった場合にのみ認められる」。
税務調査は「検査対象物件に対してのみ許され、その閲覧・筆写等の方法で行われる」。
税務調査を行う際、租税職員は「その身分を示す証明書を携帯し、関係人の
請求のあったときは、これを提示しなければならない。」
税務調査の事前告知については争いがあり、判例は否定的である。
「税理士以外の第三者の立会いを認めるかどうかは、
担当職員の判断に委ねられている」。
経験豊富な税理士から見ると、ここまで紹介してきた金子租税法の説明に、
違和感を感じるはずだと思います。
一般に税務調査は3年おきに来ると言われますが、
学術的には客観的な必要性がある時のみとされています。
金子先生も指摘していますが、実際には、税務署が必要だと言って
調査した場合に、その必要性が否定された判例はないようです。
また、反面調査については、特に必要があると認められる場合に許されると
学術的には言われておりますが、実務的には、反面調査が本人調査の形式で
行われているとしか思えない調査も多々あるようです。
調査の現場で、事前に税務署でメモしてきた資料と調査物件とを突合している
調査官に当たることが、私も多いですね。
申告内容との突合であれば、申告書(特に内訳書)と突合するはずですからね。
また、平成14年改正税理士法34条が、
「税務官公署の当該職員は、租税の課税標準等を記載した申告書を提出した
者について、当該申告書に係る租税に関しあらかじめその者に日時場所を
通知してその帳簿書類(略)を調査する場合において、当該租税に関し」
税務代理権限証書を「提出している税理士があるときは、あわせて
当該税理士に対しその調査の日時場所を通知しなければならない。」
と規定していることを考えると、抜き打ちで飛び込みの調査がある場合は
争いが残るかもしれないが、税理士への事前告知が原則論とされた
と解する向きもある。
日税連編「新税理士法」(税務経理協会2002)108ページは、
「税務代理権限証書を税務官公署に提出している税理士は、納税義務者本人
のために税務代理行為を行うのであるから、税理士法は、税理士の立場を尊重し、
税務官公署の権限ある職員に、税理士に対する調査の日時及び場所の
通知義務を課することとし、反射的に税理士に対し権利を付与する定めを
設けている。」
「この調査の通知により税理士は、通常、その調査に立会うことになるが、
この調査の通知がない場合であっても、税理士はその調査に立会い、
納税義務者の主張・陳述につき代理・代行することができることは言うまでもない。」
ただ、同書109ページは次のような不備を認めている。
「税務官公署の当該職員が上記の点について義務違反を行ったからといって、
税理士から税理士法上の責任を追及する途はなく、また、その調査の効力に
何らの影響を及ぼすものではないが、税務官公署が調査を行うに当たっては、
納税義務者本人及び関与税理士に事情が許す限り事前に告知することが
税理士の地位の向上と税務執行の円滑化の観点から有益であり、少なくとも
この調査の通知義務違反が生ずることのないよう税務官公署が十分配慮するよう
税理士法は期待しているといえる。」
つまり、税務代理権限証書をつけていたとしても、税理士法が事前通知義務を
課していたとしても、罰則のない税理士法違反は問い得ない、
という限界があるのである。
この点について、次回では、判例を通じて検討してみることとしたい。