- 牛山 恭範
- 株式会社ディジシステム 技術習得アドバイザー
- ビジネススキル講師
対象:ビジネススキル
- 吉武 利恵
- (人の印象の専門家)
- 牛山 恭範
- (ビジネススキル講師)
こんにちは。牛山です。
【速読と理解】
(1) 速読練習時の疑問(理解)
今日は、速読の練習時によくある障害についてのお話です。その障害とは、『理解を重視しすぎて、速読の練習ができなくなる』というものです。(速読をやっても、理解が出来なければ意味がないのではないか?)という、疑問が頭をよぎると、速読の練習をするモチベーションも下がります。
(2) 理解を意識するとスピードを出せない
速読の練習では、素早く文字を捉えていく練習を行います。この時に、理解を意識しすぎると、心理的にブレーキがかかり、素早く文字情報を捉えていくことができなくなってしまいます。
速読は従来の「ゆっくり読む読み方」とは違う目の使い方や頭の使い方をしますので、心理的にブレーキがかかると、物理的に多くの情報を捉えるということができなくなり、その結果速く読む練習がここでできなくなります。
(3) 理解をしなければ意味が無いという誤解
このように、素早く文字情報を広く捉えていく新しい目や頭の使い方について、強い思い込みがある人は、大きな心理的抵抗が生まれます。その思い込みとは、『理解しなければ意味が無い』という誤解です。この思い込みは、『文字情報は、意味を理解しながら情報を読み取っていかなければ、内容を理解することができない』という先入観に基づいています。はたして本当に、意味を理解しながら情報を読み取らなければ、文字情報を理解することはできないのでしょうか。洋書を読む経験がある人はご経験があるかもしれませんが、私たちが英語やその他の第二言語を使用する際、自分の理解が後から遅れてついてくることがあります。
会話や意味内容の部分的な理解がある際に、後から突然書かれている内容の全体像や話の全体像が分かることがあります。これは、部分的な理解から全体の理解が生まれた事例です。
速読でもこれと同じように、部分的な理解が全体の理解を促すことがあります。目の中に入れた文字情報のすべてを一言一句理解しながら読んでいくことがそのまま理解につながっていることが、理解の全てではありません。
(4) 細部の理解ではなく、全体の理解が大切
大変逆説的ですが、むしろ細部の理解があるにも関わらず全体を理解できないことも珍しくはありません。ベストセラーとなった、Harvard大学教授のマイケルサンデル著「これからの正義の話をしよう」を例に挙げてご説明します。この本は政治哲学の分野の書籍です。日本の方でも手に取って読んだ方は多い本ですが、この本の内容について質問するとうまく答えることができる人は稀です。
一行ずつゆっくりと読むことをしていても、内容がやや難解であり、親しみが無い分野である書籍の場合、十分な理解ができていないことが珍しくありません。
本書の要約例をご紹介します。
(5) 「これからの正義の話をしよう」の要約
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正義をめぐる議論において、何が正しく何が正しくないのかを決める際に重視される点は、過去の歴史を振り返れば次の3点である。自由、幸福、美徳の3点である。この3点の内政治的な取り決めの際に考察されるのは、自由、幸福である。個人の権利や公益の利害関係を調整し、何が正しいのかではなく、何が妥当なのかを問いとしてきた。ところが何が正しいのかという問いにこれらの問いを変えた際に、我々は道徳的な基準、すなわち美徳の価値判断をせざるを得ない。権利や義務負担の分配を重視すれば、無秩序で正しくない取り決めが行われるし、多くの人に不満を与える。権利や公益を重視するはずの取り決めがうまく機能せず、個人の権利や公益を害するのはなぜか。その答えは美徳にある。従来の政治哲学の分野で重視されてきた自由や幸福という価値基準だけではなく、道徳、美徳という価値基準を政治的な取り決めに採用する必要がある。正義をめぐる3つの価値基準の関係を正義の原理として様々な問題に適用する為に、そもそも多元的な内容である美徳に対する社会の構成員共通の認識と合意を形成する必要があるのではないか。
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(6) 情報活用という大枠から理解を捉え直す
いくらゆっくり読み、部分的な理解が十分にできていたとしても、後から説明を試みて説明できないのであれば、その方が意味がある読書とは言えません。
このように、読書という行為を部分的に考えるのではなく、(部分最適ではなく)全体的に捉え直す行為が速読です。
速読を使用した場合、一冊にかける時間は5分程度になることも珍しくはありません。もちろん、ここでご紹介したようなやや読みにくい本の場合はもう少し時間がかかることもあります。
さらに、読書という行為で全体最適を図るのではなく、「情報活用」という範囲で、全体最適を図った場合、速読だけに留まらず、情報処理、情報整理情報活用(思考)、アウトプットの行動が、全体最適の範囲になります。
以下のような読書論や暗記論、思考論はよくありますが、もっと全体最適で情報活用までを視野に入れて、情報処理(読み取り、読書)、理解、暗記、思考、アウトプットを最適化できる可能性があります。
【部分最適】・理解のための読書法・暗記のための暗記法・思考のための思考法
【全体最適】・最終的なあなた自身の情報活用に応じた情報処理、思考、アウトプットを実践。
情報を活用するシーンは、戦略立案、行動、判断基準の増加など、時間的には今だけに留まらず未来も含まれます。したがって、情報の活用レベルを今から将来に渡って引き上げる総合的なスキルが、意味や価値を持ちます。
(7) 理解は後、情報処理が先
速読時は、理解が後からついてくるイメージが大切です。自分が読み取っている情報が全体の中でどのような位置づけにあるのかをイメージしながら、必要な理解度や必要な記憶の度合いを感じつつ、情報を処理していき、論理構造や、全体の構造を把握します。
このような作業を通じて、骨子を把握すれば、必然的に理解はついてきます。情報の読み取りと、理解を常に同時にすることだけが深い理解への道ではないことを肝に銘じつつ、速読の練習をする場合は、練習を継続しましょう。