
- 野平 史彦
- 株式会社野平都市建築研究所 代表取締役
- 千葉県
- 建築家
対象:住宅設計・構造
近年の自然素材ブームは、消費者がそうした今までの家づくりの間違いに気付き始めたからに他なりませんが、自然素材を多用したからといって、それで安心してしまってはいけません。
家づくりは「自然素材」=「健康」という単純なことではないのです。
無垢の木は呼吸する、とか、壁に珪藻土や漆喰を塗ると、調湿効果があり、空気を清浄に保ってくれるとか、健康に良いと聞くと何でも取り入れてみたくなるのが人情というもので、家のつくり手達も“自然素材の家”と言って客を集めていますが、そうした表面的なものばかりに目がいっていては本質的な問題がいつまでもなおざりにされてしまいます。
問題のひとつは、如何に表面的に自然素材に溢れた家でも、壁の中で結露を起こしてしまっていては意味がないという事。
家のつくり手の殆どは、未だに内部結露の問題には無頓着で、平気で湿気の抜けない合板張りの家を造っています。
即ち、内部結露を起こさない正しい仕様が作れる家のつくり手がほとんどいないのです。
内部結露は自慢の無垢の木を腐らせ、カビやダニを発生させ、相変わらず家の不健康を改善できないでいます。
化学物質過敏症が流行し、そればかりに目がいく様になると、それまでのシックハウスの本質的な問題をすっかり忘れてしまっているのです。
そして、目に見えない大事なもうひとつの事があります。
日本人の殆どの人が今でも意識していないこと、そして、歴史的にみても日本の家づくりにはじめから欠けていたのがあります。それは「換気」です。
尤も、旧来の日本の家は構造体である木を腐らせない為に隙間だらけの家で、充分な自然換気が行われていましたから、特段、換気を意識する必要はありませんでした。
しかし、それが石油化学建材によってこれだけ湿気の抜けない家になり、25年しかもたない家に成り果てても、そんな家を日本の気候に合った開放的な家だと思い込んでいたのです。
自然素材に調湿性があるとしても、それは微々たるものです。ほとんどイメージの領域に過ぎないと言っても過言ではありません。
家のつくり手の中には機械換気に反対する自然派の人達が大勢います。
当の私も何とか機械に頼らない方法がないかと、パッシブ換気(自然換気の方法)を随分試行してきましたが、未だに機械にかなう上手い方法が見つけられないでいます。
最近、武田邦彦氏の「偽善エコロジー」という本が随分売れている様です。
ここには「エコ」と言われているほとんどの事が実は「エコ」になっていないことが書かれています。
“自然”というイメージが、実は自然の本質を見誤らせていることがある、ということを私達はそろそろ知る必要があるのではないでしょうか?