- 平 仁
- ABC税理士法人 税理士
- 東京都
- 税理士
対象:会計・経理
なされたことについて、憤りを感じた実務家は多かったのではないでしょうか。
これは、平成15年12月17日に公表された
与党税調平成16年度税制改正大綱において、
平成16年1月1日以後に行われた取引による譲渡損失の損益通算を
認めない旨の税制改正を行う方針が公表され、
通常国会において、平成16年3月26日成立、
3月31日公布、4月1日施行されたのです。
皆さん、よく考えて下さい。
法律制定以前に遡って適用される法律の適用を遡及適用といいますが、
何のために法律というものは作るのでしょうか。
法律は社会のルールを文章化したもので、
罰則に関しては、これをしたら違反になるよということを、
法律に書いてあれば違法ですが、書いてなければ裁けないのが原則です。
つまり、法律を遡及適用して、法律がなかったときの行為に対して
違法だということは出来ないというのが、法の基本的な考え方です。
ところが、平成16年度税制改正における
譲渡損失の損益通算の不適用については、
法律が制定された平成16年3月26日以前の
平成16年1月1日以後、法律制定前の期間まで、
法律の条文上では、損使役通算適用であったにもかかわらず、
取引後に改正された条文を適用して、不適用とされたのである。
そのことを争った事件が今年に入って3件、地裁判決が相次いで出されています。
福岡地裁平成20年1月29日判決(TAINSコードZ888-1312)
東京地裁平成20年2月14日判決(TAINSコードZ888-1313)
千葉地裁平成20年5月16日判決(TAINSコードZ888-1331)
この3事例に関して、判決が対立していなければ、問題がないのですが、
福岡地裁は全部取消納税者勝訴判決であるものの、
東京地裁、千葉地裁とも、請求棄却で納税者が負けてしまいました。
3事例とも高裁に控訴されていますので、各高裁の判断が待たれるところです。
福岡地裁の判決を紹介します。
「租税法規の遡及適用の禁止は、国民の経済生活に法的安定性、予見可能性を
保障する機能を有することにかんがみると、遡及適用とは、新たに制定された
法規を施行前の時点に遡って適用することをいうと解すべきである。
本件改正は、平成16年3月26日に成立し、同月31日に公布され、
同年4月1日から施行されたものであるところ、その施行前である
同年1月1日から同年3月31日までの建物等の譲渡について適用する
ものであるから、遡及適用に該当するというべきである。」
「本件改正で遡及適用を行う必要性・合理性(とりわけ、損益通算目的の
駆け込み的不動産売却を防止する必要性など)は一定程度認められはするものの、
損益通算を廃止するかどうかの問題は、その性質上、その暦年途中に生じ、
あるいは決定さざるを得ない事由に係っているものでないこと、
本件改正は生活の基本である住宅の取得に関わるものであり、これにより
不利益を被る国民の経済的損失は多額に上る場合も少なくないこと、
平成15年12月31日時点において、国民に対し本件改正が
周知されているといえる状況ではなかったことを総合すると、
本件改正の遡及適用が、国民に対してその経済生活の法的安定性又は
予見可能性を害しないものであるということはできない。
損益通算目的の駆け込み的不動産売却を防止する必要性も、
駆け込み期間を可及的に短くする限度で許容されるものであって、
それを超えて国民に予見可能性を与えないような形で行うことまでも
許容するものではないというべきである。」
「そうすると、本件改正は、新設された特例措置の適用もなく、
損益通算を受けられなくなった原告に適用される限りにおいて、
租税法規不遡及の原則(憲法84条)に違反し、違憲無効というべきである。」