- 上村 美智夫
- PAO建築設計 代表
- 東京都
- 建築家
対象:住宅設計・構造
お隣の家や外部からの視線が気になる窓がある場合に、さて、どうしたら良いものかと、建て主と共に思いを巡らせることがある。
これはマナーやエチケットのようなもので、言わばお互い様の問題でもあり、どうしたらお隣同士が、お互いに気持ちよく生活できるかという、双方に共通の事柄でもあるだろう。
これらのことについては、解決策も含めどのように理解しておけばよいのだろうか。
このあたりの事情を一度改めて整理しておきたいと思いました。
民法235条の規定に、「境界線から1m未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓又は縁側(ベランダを含む。次項において同じ)を設ける者は、目隠しを付けなければならない。」とあります。
これは、隣り合う者のどちらかが、この規定に触れていれば、その人が目隠しを付けなければならないという意味である。
外部からの視線はカットしつつ、採光や換気が可能な窓に、地窓(床からの低い窓)とハイサイド窓(天井付近の窓で、直接は隣の様子が望めないもの)があります。
地窓及びハイサイド窓の例
中でも特にハイサイド窓は、机などの家具等の配置を制約しませし、空がいつも見え、部屋の奥まで光が届きやすくなります。
そして、夏場にはハイサイド窓を開くことで、部屋の上部に集まる熱気が自然に排出され、代わりに地窓を開いておく事で、地表付近の冷たい空気を呼び込む事ができます。このように自然の原理を活用した換気が可能で、ハイサイド窓は換気の面でも大変効果的な窓といえます。
一方地窓は、1階であれば地窓付近の地面に光が反射しやすい材料を使用することで、太陽光を反射させ、その間接光で室内をほんのりと落ち着いた雰囲気に明るくすることができます。
また、地窓付近を植栽することで、日射による地表の温度が上昇することを抑え、涼しい温度に保つことができれば、上部のハイサイド窓を開くことで、天井付近に集まる熱気が自然に排出され、そのことで空気の流れが生まれ、代わりに足元の地窓から涼気を取り込むことが可能になります。
ハイサイド窓は基本的には空しか見えませんが、地窓は1階であれば、窓の外のしつらえを工夫することで、自分好みの窓辺の景色を演出することができます。
綺麗な石や砂利を敷いたり、草花の鉢を並べたりといったことです。
この地窓的な窓辺のしつらえを、室内から見た時の景色として効果的に用いた例に、江戸時代の茶人、小堀遠州作と言われている、忘筌(ぼうせん、京都/大徳寺孤篷庵内)という有名な書院茶室があります。心地よい風や、光を地面に反射させ室内に取り込む工夫等が見られる、大変見事な広間の茶室(和室)となっています。
この例からも、地窓はその空間に静かで落ち着いた印象を与える効果があると思われます。
孤篷庵忘筌 床前よりこの席の入り口である庭方向を見る。上部の障子戸は西日除けの為でもあろうと考えられています。
地窓やハイサイド窓は、通常の使用状態において、その窓から隣の宅地を見通すことができない場合は、先の民法の規定には該当しないと思われます。
また、たとえ1m以上離れていても、お隣が見通せるような窓は、民法上のプライバシー尊重の主旨から、あまり好ましいとは言えないでしょう。そのような際にも、地窓やハイサイド窓等を検討してみることで、お互いにとっての気持の良い、うまい解決策が見つかる事も多いのでないかと思います。
・忘筌(京都/大徳寺孤篷庵内)について
古典建築探訪_孤篷庵 #02 書院茶室 忘筌(PAO建築設計ブログ:Pao's Blog)
http://pao-architects.seesaa.net/category/14139848-1.html
上村 美智夫 / Michio Kamimura
PAO建築設計
http://www2.gol.com/users/paoarchi/ E-mail paoarchi@gol.com
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