白血病末期の母がコーチングの大切さを教えてくれた - 人材育成全般 - 専門家プロファイル

葛西 伸一
株式会社メンター・クラフト 代表取締役
東京都
経営コンサルタント

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対象:人材育成

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白血病末期の母がコーチングの大切さを教えてくれた

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コミュニケーション コーチング

コーチングが本領を発揮するとき



コーチングを本当に発揮するシーンは、家族とのコミュニケーションなのかもしれない。



本当のことをいうと、コーチングを学び始めたときは、
「こんな杓子定規なコミュニケーション手法が本当に有効なのだろうか?」
という疑念を払拭することはできなかった。

しかし、日々コーチングとビジネスやプライベートのコミュニケーションシーンを
重ね合わせれば合わせるほど、そのコーチングの効果を垣間見ることができ、
今では、そのあまりに絶大なコーチングの効果に言葉を無くす時すらある。

振り返ると、長いビジネスマンとしての生活の中で、
自分自身はコミュニケーション能力は他の人よりも高いと漠然と思い込んでいた。

何を基準にそう思ったか??
基準なんてなかった、ただ回りに敵が少ない。周囲が自分の話を快く聴いてくれる。
それで仕事もうまくいく。
しかし、よく考え突き詰めていくと昔の自分のコミュニケーションは、
無意識とはいえ、すべて自己中心ではなかったのだろうか。
自分のビジネスの成功を祈り、自分のために相手と自分の感情の調子をコントロールする。

そんな環境が、自分の能力の幻想となって立ちはだかっていたのだ。

でもコーチングは、クライアントである相手のためを思うこと。
その観点からいえば自分のコミュニケーション能力は、決して高いものではなかったと深く反省をさせられる。

そして、コーチングを学び得て本当によかったと思えたことが、今月だけで2回も発生したのだ。それはいずれも家族とのコミュニケーションだ。
今日は、最初の一つの私自身の実例をご紹介したい。

母が教えてくれたコーチングの本質



白血病末期の母は入院生活こそあまり長くなくないが、終始寝たきりで全く起き上がれない状態。
とはいえ、意識ははっきりしていて、ベッドで看護士さんに憎まれ口を叩けるほど元気だ。

白血病の末期は少なからず体に激痛が走り、母もその例外ではない。
鎮痛剤を常に点滴でうっているため、安勢にしているときはそれほどでもないが、
それでもベットのシーツを取り換えるときに、寝返りを打つとそれだけで体に激痛が走る。

ある日、病院側の配慮でベットのシーツの下に床ズレ防止用のエアマットを挟むことになった。

母は寝たきりのため、左右に寝返りをうつことで、少しづつ、シーツを挟み込むことになった。
しかし、それだけの動作でも母の下半身に激痛が走る。

「痛い、痛い!痛いわよ!!!もっと静かにやってよ!!!(怒)」

と看護師さんにかみつく。
気の強い母は昔からそんな感じだったが、病床となると一段と口調が激しくなる。

昔だったら、私も母に「いいから、我慢してくれ!そんなこといったって、看護師さんだって、
仕事なんだから文句ばっかり言うな!」と怒っていたと思う。

しかし、なぜかその瞬間、母のことを想う気持ちからか、自分がコーチであることを自然と意識し、
クライアントである母のために、コーチングモードへと自然と移り変わっていった。

そしてその瞬間、自分の口からでる言葉、さらには態度までにも大きな変化が起きた。

「よし、じゃぁ、一緒に頑張ってみようか!俺のほうにゆっくり体を傾けて!」

と言い、私は寝ている母の上半身をゆっくりと右に傾け、
抱き合うように、ゆっくりとこちらがわに少しだけ引き上げてあげた。
そしてその隙に、看護師さんたちがエアマットを手際よく挿入してくれる。

その間も、

「うんうん、痛いよな。でも少しだからがんばろう、、いいぞ!頑張ってる!もう少し!」

と抱きながら声をかけてあげた。

するとどうだろう、今までなら、痛い痛いと何度も悲鳴をあげていた母はが、
一声も発さずに頑張っている。踏ん張っている。。

同様に、私はベッドの反対側に回り今度は左側に母と抱き合うように上半身を
左側にひねりあげてあげる。
母の痛みを共感し、母の頑張りを承認しながら。

このコーチングのおかげで、母は見事に全身の痛みを乗り越えて、
予想以上にスムーズにエアマットをシーツの下に敷くことができた。

そして、すぐさまエアマットに看護師さん達が空気を入れてくれる。
ゆっくりと空気が入り、母の体が少しづつ浮いてくる。気持ちが良さそうだ。

そんな安心した母の顔を見たのは、それが最後になった。
その3日後に、母は急性骨髄性白血病で他界した。

本当にコーチングに出逢えて良かったと思った。

本当の意味で母と痛みを共有できたわけではないが、
コーチングが、私に母と最期のラポールを構築してくれた。
そんな些細なコミュニケーションだったが、母との最期の思い出を創ってくれた。

母が最期に教えてくれたのがコーチングの本質だった。

ラポール、つまり本当の意味での信頼を構築することがコーチングの始まりであり、
それがコーチング成功のカギになるのだ。

無論、ビジネスでもそのスキルをいかんなく発揮することで、
大きな効果を期待することはできるし、実際に業績までも向上するケースがある。

しかし家族、とくに夫婦間や子供に対するコーチングは、時代的に見ても
今まさに必要とされているスキルなのではないかと思う。

改めてコーチングに感謝したい。
そして、私が今回コーチングのおかげで体験した感動を,
ビジネスの場でも、またプライベートでも一人でも多くの人にお伝えしていきたいと心から思う。