- 野平 史彦
- 株式会社野平都市建築研究所 代表取締役
- 千葉県
- 建築家
対象:住宅設計・構造
スローフードの活動には「地産地消」、即ち、地元で生産したものを地元で消費する、という考え方があります。
その土地で取れる食材を使って、その土地の気候風土にあった料理を作る。伝統料理とは正にその土地が生んだものであり、その土地で食されてこそ美味しい料理と言えるのです。
料理は新鮮な食材が手に入らない地域で発達すると言われます。新鮮な食材が手に入る地域では、多少の塩気を加えるだけで食材そのものの美味しい味を活かせますが、新鮮な食材が手に入らない地域では、その食材を美味しく食べるために手を加えなければならないからです。
流通や冷凍技術が発達した現在では世界中のどんな新鮮な食材でも手に入れることができるようになり私達はいつでも世界の料理を口にすることができる、ということが当たり前の時代に生きていますが、それは、同時にその土地の固有の食文化を喪失させることになりました。
スローフードの地産地消をスローハウジングに置き換えてみるとどうなるでしょうか。
"その土地で育った木を使って、その土地の気候風土に合った家を造る。そして、伝統的な家造りの知恵と技術を守る、"
ということでしょうか。
その土地で育った木を使って家を建てるというのは、昔はごく当たり前に行われていたことでした。しかし、今はどうでしょう。
日本のあらゆる地域に北米や南洋など外国で採れた木材で家が建てられています。何故なら、国産材よりも外材の方が安いからです。これは自由主義経済の道理です。その結果、日本の林業は急速に衰えてしまいました。
日本の森林率、即ち、国土面積に対する森林面積の割合は67%あり、日本は先進諸国の中では珍しく森林率の高い国です。イギリスの森林率は10%しかなく、アメリカで32%、森林のイメージが強いカナダでさえ54%です。
このように、日本は森林の国でありながら、現在国内の木材はその20%も使われていないのです。
これが歴史の中でずっと木の家を造って来た日本人が、経済原則だけで招いてしまった結果なのです。