法律の世界地図(文春新書2007) - 会計・経理全般 - 専門家プロファイル

平 仁
ABC税理士法人 税理士
東京都
税理士
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法律の世界地図(文春新書2007)

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雑感 書評
今日は、国士舘大学文学部の法学でレポートに指定させて頂きました
21世紀研究会編「法律の世界地図」(文春新書2007)
をご紹介したいと思います。

「悪いのは人か?法律か?」
アメリカでは、弁護士多くして産科医減る?
イスラーム世界の法とコーランの関係は?
中国人に遵法精神はないのか?

等、センセーショナルな言葉が並ぶオビが特徴の本書は、
内容を見てみれば一目瞭然。
社会文化の違いがその国の法律の特徴になるため、
異文化から見るとおかしいと思える法律が
世界にはたくさんあることを思い知らされます。

例えばイスラム法は成文法ではないため、
その解釈のために権威者がファトワーを発するのである。
例えば、「悪魔の詩」事件は、ホメイニ師により「死刑に値する」との
ファトワーが発せられたことにより、
作者及び翻訳者、出版関係者の多くが命を狙われたのである。
また、イスラム社会にはジハード(聖戦)が認められているため、
イスラム共同体を守るために命を賭して戦う殉教者たちが行動を起こしたのであろう。

また、イスラム法では、一夫多妻制が認められている。
この点ばかりクローズアップすると、何ゆえに認められるのかという本質が見えてこない。
イスラム共同体を守るためのジハードに散った男たちのあと、
誰が戦争未亡人や戦争孤児の面倒を見るのか。
また、何人もの妻を持つことを認めても、彼女らを平等に扱い、
嫉妬の感情が起こらないようにしなければならないのである。
神を信じる彼らが神の教えに反することはできないであろう。
多くの庶民は、一夫一婦の夫婦生活を送るのが普通なのである。

また、アメリカでは弁護士が多すぎることからくる訴訟社会が生まれたのである。
日本では、被害者の損害に応じた実質的賠償制度であるが、
アメリカでは、もともと実質的賠償が容認される金額が高めであるばかりか、
加害者に対して懲罰的な賠償を課して責任を負わせることに社会が合意しているのである。

また、中国では、「上有政策、下有対策」との諺があるように、
法の網をかいくぐる庶民のたくましさをあらわすとともに、中央政府の決めた政策を
地方政府が適用しないことにも、よく引き合いに出されるそうだ。
この表現は、中国人は遵法意識が希薄だという批判と結び付けられやすいが、
法家思想に基づく秦の始皇帝による支配やその他の歴史的背景を考えれば、
中国人が法に対するアレルギーのようなものを持っていても仕方あるまい。
ところが、本書の指摘は、中国人批判に止まらない点は秀逸である。
法意識国際比較研究会が行った研究によれば、中国人よりも日本人の方が、
法に対して否定的イメージをもつ人の割合は多いのだそうだ。

我々こそ、法の持つ意味と効果を考えなければならないのかもしれない。