米国特許判例:無人契約機特許の範囲はどこまでか?(1) - 企業法務全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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米国特許判例:無人契約機特許の範囲はどこまでか?(1)

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米国特許判例紹介:無人契約機特許の範囲はどこまでか?(第1回) 
〜パソコンでのローン申し込みに権利が及ぶか?〜

     Decisioning.com, Inc.,
      Plaintiff-Appellant,
          v.
  Federated Department Stores, Inc. et al.,
      Defendants-Appellees,

河野特許事務所 執筆者 弁理士 河野英仁 2008年7月22日


1.概要
 本事件は、ローンまたはクレジットカードの申し込みを行うための無人自動契約システムに関する特許権侵害事件である。権利範囲はクレームの文言を中心に明細書の記載を参酌して解釈される。また審査過程において出願人が米国特許商標庁(USPTO)に対して主張した事項が参酌される。

 本事件においては「遠隔装置」(Remote Interface)の文言解釈が問題となった。特許権者は、無人自動契約システムを使用する複数の金融機関及び小売業者を特許権侵害として訴えた。

 「遠隔装置」をどのように解釈するかにより、各被告の侵害の有無が決定される。地裁は遠隔装置を限定的に解釈し、被告全てを非侵害と判断した。原告はこれを不服としてCAFCへ控訴した。CAFCは、地裁の限定的解釈は誤りであるとして、地裁の判決を一部取り消した。

2.背景
(1)特許の内容
 Decisioning.com (以下、原告)は、U.S. Patent No. 6,105,007(以下、007特許)を所有している。007特許は、ローン、クレジットカードまたはデビットカードの申し込みを自動で行う無人自動契約システムに関する。図1はキオスクの外観を示す模式図である。


図1 キオスクの外観を示す模式図

 キオスク40は金融機関内または小売業者の店舗内に設置される。キオスク40はインターネット等により中央処理装置10及び認証データベース60に接続されている。

 ユーザはタッチスクリーン50に示されるガイダンスに従い、氏名等の情報を入力する。セキュリティカメラ110はユーザを撮影する。キオスク40には、さらに電子ペン105及び署名パッド100が設けられている。ユーザは、契約内容に同意する場合、電子ペン105を用いて署名パッド100に署名を書き込む。

 これら入力された情報は遠隔にある中央処理装置10へ送信される。中央処理装置10は認証データベース60を参照して、契約を認めるか否かの判断を行う。契約が認められた場合、キオスク40はプリンターポート120から必要な書類を排出すると共にカードポート150から、カードを排出する。このように007特許のシステムは、人手によらず迅速な金融契約を実現する。

(2)係争対象システム
 原告は007特許のクレーム1を侵害するとして、金融機関であるHSBC及び小売業者であるFederated Department Store等(以下、被告)をカリフォルニア州連邦地方裁判所に提訴した。

 図1に示すキオスク40を用いて自動契約サービスを実行した場合、特許権侵害となる点、当事者間に争いはない。被告は侵害を回避するために、キオスク40ではなく、パソコンを用いて当該自動契約システムを実施していた。

 このパソコンはユーザ所有のパソコンの他、小売業者がデパート内に設置したパソコンをも含む。地裁はクレームの文言「遠隔装置」をキオスク40に限定解釈し、パソコンを用いた被告のシステムは非侵害であると判断した。原告はこれを不服としてCAFCに控訴した。

3.CAFCでの争点
権利範囲はどこまで及ぶか?
(1)係争対象システムの整理争点となるのはクレーム1の「遠隔装置(Remote Interface)」の文言が、これらのパソコンをも含むか否かにある。

 金融機関である被告Bはユーザ所有のパソコンと中央処理装置との組み合わせによりニ号システムを実施している。小売業者である被告Aは金融機関と協力してデパート内に、自動契約用のパソコンを設置している。この小売業者が提供したパソコンと金融機関の中央処理装置との組み合わせによりハ号システムを実施している。

 CAFCは、「遠隔装置」の文言の範囲を分析するために、以下に述べるイ号システム及びロ号システムを挙げた。イ号システム及びロ号システムは被告A及びBのいずれもが実施していない。イ号システムは実施例そのものの構成であり、図1に示す筐体を有するキオスク40と金融機関の中央処理装置との組み合わせにより構成されるシステムである。

 ロ号システムはハ号システムに類似するが、ロ号システムの端末は、自動契約に必要とされる金融取引処理のみが可能であり、かつ、金融機関が提供したものである。ハ号システムは金融取引以外の天気予報のチェック等の処理を実行でき、また、小売業者が提供したものである点で、金融取引に特化・金融業者が提供したロ号システムと相違する。

(2)審査経過での補正
 出願当初は「キオスクkiosk」の文言がクレーム1に記載されていた。審査の段階で、出願人はキオスクの文言を削除し、最終的にはこれよりも広い文言「遠隔装置」へ補正した。



(3)争点
 クレームの文言「遠隔装置」を通常通り解釈した場合、実施例に記載のキオスク40のみならず、ユーザ所有のパソコンまでもがこの文言に含まれる。従ってイ号システム乃至ニ号システムの全てが特許権侵害になると考えられる。

 しかし、地裁は、明細書の記載及び補正の経緯を考慮し、
「遠隔装置」は「金融機関により提供され、かつ、金融取引専用のコンピュータ端末である」
と限定解釈した。つまり、イ号及びロ号システムのみが侵害となり、ハ号及びニ号システムは非侵害と判断したのである。CAFCではその判断の妥当性が争われた。    (第2回に続く)