- 村田 英幸
- 村田法律事務所 弁護士
- 東京都
- 弁護士
対象:民事家事・生活トラブル
- 榎本 純子
- (行政書士)
譲渡所得の譲渡に「負担付き贈与」を含むか、 租税判例百選45事件
課税処分取消請求事件
昭和63年7月19日 最高裁第3小法廷 判決
棄却 、 裁判集民事 第154号443頁
【判示事項】
所得税法60条1項1号にいう「贈与」と負担付贈与
【裁判要旨】
所得税法60条1項1号にいう「贈与」には贈与者に経済的な利益を生じさせる負担付贈与を含まない。
【参照法条】
所得税法60条1項1号
【解説】
争点(1)所得税法60条1項の「贈与」が民法の贈与と同義であるか。
民法においても狭義の「贈与」(民法549条)と「負担付き贈与」(民法555条)とは別個に規定され、異なる法効果を付与されていることから、所得税法60条1項の「贈与」は、同条の趣旨、目的を考慮して合理的に解釈すべきである。
争点(2)法人に対する贈与は課税するが、個人間の贈与に譲渡所得課税を行わず、取得価額・保有期間の引継ぎを認める趣旨は何か。
所得税法33条の譲渡所得課税の趣旨が、譲渡対価の収受によるキャピタルゲイン実現時における増加益清算課税にあるから、贈与等の無償による資産の譲渡があった場合においても、その移転の時の価額により、その資産の譲渡があったものとみなして、譲渡所得を課税するのが原則であるが(所得税法59条)、親族間の贈与のように現実に譲渡収入がないところに課税を行うのは納税者の勘定にそぐわない等の観点から、租税政策的観点から、所得税法60条が設けられ、贈与者等の取得価額を受像者・相続人に引継ぐことにより、譲渡所得課税の延期が図られた。
それゆえ、所得税法60条1項1号の「贈与」の意義を、同条の立法趣旨から、負担のない単純贈与と、負担付き贈与のうち、受贈者の負担が贈与者に対して経済的利益をもたらさないものに限定して解釈すべきと解される。
すなわち、受贈者の負担が贈与者に対して経済的利益をもたらす負担付き贈与は、所得税法60条1項1号の「贈与」に含まれず、譲渡所得課税の対象になると解される。
争点(3)本件については適用されるのは、土地に関して、租税特別措置法31条の長期譲渡所得か、それとも、租税特別措置法32条の短期譲渡所得であるか。
本件では、短期譲渡所得が適用された。
所得税法
(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)
第五十九条 次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす。
一 贈与(法人に対するものに限る。)又は相続(限定承認に係るものに限る。)若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。)
二 著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る。)
2 居住者が前項に規定する資産を個人に対し同項第二号に規定する対価の額により譲渡した場合において、当該対価の額が当該資産の譲渡に係る山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上控除する必要経費又は取得費及び譲渡に要した費用の額の合計額に満たないときは、その不足額は、その山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上、なかつたものとみなす。
(贈与等により取得した資産の取得費等)
第六十条 居住者が次に掲げる事由により取得した前条第一項に規定する資産を譲渡した場合における事業所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その者が引き続きこれを所有していたものとみなす。
一 贈与、相続(限定承認に係るものを除く。)又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るものを除く。)
二 前条第二項の規定に該当する譲渡
2 居住者が前条第一項第一号に掲げる相続又は遺贈により取得した資産を譲渡した場合における事業所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その者が当該資産をその取得の時における価額に相当する金額により取得したものとみなす。