- 田原 洋樹
- 株式会社オフィスたはら 代表取締役 人材育成コンサルタント
- 東京都
- 人材育成コンサルタント
対象:ビジネススキル
過日、JTB中部元社員の高校遠足バスの手配漏れ、及び偽手紙問題の件について、その根本原因は一体何か?私なりの見解をまとめたいと思います。
私も、かつてJTBに在籍し、元社員と同じく団体営業を務めていた一人として、今回の件は他人事とは思
えません。また、これはJTBだけでなく、旅行業界全体に影響する非常に「重たい」問題のような気がしま
す。
この元社員が起こした事は、言わずもがな、組織コンプライアンス上、また人道的にも、到底許される行為
ではなく、本人には猛省をしてもらいたいと切に願います。
ただ、同時に、これを個人の問題と片づけるにはやや乱暴過ぎるのではないか?
社員一人が逮捕されれば事は済んだと、この問題を葬られるには待ったをかけたいと思うのです。
この手の「手配漏れ」 あるいは、手配漏れを隠すために「嘘を重ねる」という行為は、過去にも複数起こっている事実であります。
今回のように新聞沙汰になるケースもあれば、かろうじて表に出ず、その場を何とか凌いだ例は
私が知っている限りでも、数えきれないくらい起こっています。
つまり、今回の問題が大きく報道されたのは、元社員が「偽の手紙」を書いて、生徒の自殺をほのめかす
という自作自演行為が、マスコミに取りあげられやすい「ネタ」となったからに過ぎません。
ここで考えたいのが、「偽の手紙」を書くまで追い詰められた元社員を救う手だてがなかったのか?
つまり、今回の問題の根本にある「手配ミス」をなくす、あるいは「手配ミス」を水際で防止する対策はどこまで徹底されていたのかということです。
旅行業界の営業担当者は、一般的には、下記のような業務があります。
①お客様対応(いわゆる対面による営業活動のこと)
②添乗業務
③手配業務
④チケット発券業務
⑤清算業務
JTBのような大手になると、上記業務を分業制にしているところも
ありますが、多くの旅行業界の営業担当、あるいは、今回のように
JTBですら地方支店の営業担当となると、上記①~⑤の業務を
一人で賄います。
つまり、他の人の目が行き届かない、言わば「ブラックボックス化」した
業務であるため、相互監視、相互チェックがやりにくい構造となっています。
今回は③の手配業務に根本的な問題があったと推測されます。
つまり、営業担当者の単純な手配ミスです。
しかし、その単純な手配ミスを防げなかった、
上記、業務構造上の問題が大きいと言わざるを得ません。
また、一般的に日帰りの遠足であると、宿泊を伴う、例えば
修学旅行のような「売上」を稼げる「おいしい案件」ではなく、バス代と
昼食代のみの、営業担当者からすれば、「おいしくない案件」
であるのも事実です。
ここに今回の手配ミスにおける、別の要因が隠されていると思います。
つまり、短期業績プレッシャーの非常に強い、旅行会社に
おける、日帰りツアーの軽視風潮が、手配チェックの怠りを生み出したのではないか?
と思われるのです。
そして、最後の要因は、マネジメント上の問題です。
「忙しい」ことが常態化し、上司もプレイヤー化する傾向の強い
職場において、果たして、どこまで部下の行動をマネジメント
出来ていたのか? また、部下が「手配ミス」に気づいてから
「偽手紙」を書くという行動に移す前に、上司に相談するという
選択肢を取らなかったのはなぜか?
日頃から何でも相談できる「風通しの良い環境」をつくることが
果たしてできていたのか?
上記、朱書きした3つの問題、今回の「偽計業務妨害」という
罪の背景にある、組織上の根本課題を解決しない限り
この手の事件は、今後も発生するのではないかと危惧します。
若く、将来有望なJTB営業担当者が逮捕されるという、本当に後味の悪い今回の事件。
JTB出身者として、本当につらい思いです。
彼のような営業担当者を二度と出してはならない。
お客様のためにはもちろん、旅行業界全体のためにも。
そして、人生を狂わせた一社員のためにも。
そう切に願います。
株式会社オフィスたはら
代表取締役 人材育成コンサルタント 田原洋樹