ケーススタディ企業税務訴訟・審査請求 - 会計・経理全般 - 専門家プロファイル

平 仁
ABC税理士法人 税理士
東京都
税理士
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ケーススタディ企業税務訴訟・審査請求

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雑感 書評
ふじ合同法律事務所と税理士法人緑川・蓮見事務所が共著した
「ケーススタディ 企業税務訴訟・審査請求」という本が
新日本法規から平成20年5月に出版されています。

この本との出会いは、わが師匠の研究室に、
緑川先生から寄贈本が送られてきたことでした。
執筆メンバーに友人がいることもあり、この本を紹介させて頂きます。

平成14年の税理士法改正以後、税理士が補佐人として法廷の中に
入れるようになったこともあって、この手の本が近年多数出版されている。
ただ、本書のように、ケーススタディに関して、全ての事件に、
税理士の視点と弁護士の視点、双方からの検討をする書籍は少ない。
その意味で、本書のケーススタディーは、税理士補佐人を行う
税理士に、業務に必要なことのヒントを与える本であるといえよう。

本書の構成は、第1編において、一般的な税理士が弱いと考えられる
税務訴訟の手続きを開設した後、
第2編において、86の事例を検討するものである。

本書の最大の特徴は、執筆者の本音を書いてしまったことであろう。

はしがきにおいて、もう「見解の相違」はやめよう、と銘打ち、
次のように指摘しています。
「リスク管理という観点から見ますと、違法とは認識していなかった
税務処理に課税されるということは、税務リスクの把握が
十分ではなかったことを意味しますし、国税当局の見解が
正しいと考えていないのにそれを争わないというのは、
顕在化したリスクを低減する努力を怠っているということになります。
こう見ると、今や「見解の相違」という言葉は、リスク管理・対応が
不十分との批判を受けるという別のリスクを招きかねない
危険な言葉の感さえあります。」

また、税務訴訟を積極的に利用する方策(20〜22ページ)では、
次のように指摘します。
「税務訴訟を提起するということは、課税庁を敵に回すということを
意味します。課税庁を敵に回すからには、争う者は、自分の足元が
しっかりしていなければなりません。問題になっている所得認定が
崩れそうだという時には、課税庁は、あらゆる強権的な手段を
使って、争う者に他に捕捉漏れの所得がないかを調査してきます。
これに耐えられる公正かつ明朗な会計をし、正確な帳簿諸票を
備えておく必要があります。透明性、公正さが強く要求される
今の時代には、課税当局と良好な関係を維持することによって、
税務申告で有利な取り扱いを受けようなどと考えることは、
無益なことであるとさえいえましょう。それまで良好な関係が
維持されても、ある所得の発生について、課税当局が納税者と
見解を異にすれば、容赦なく修正申告を迫ってくることになります。
お目こぼしを願うなどということは、権力の恣意的な行使も
結果的に許されることもあった旧時代の話であって、
現代ではおよそ通用しないと知るべきです。」

まさに至言と言えるのではないでしょうか。
わが税理士業界は、残念ながらクライアントである納税者ではなく、
税務署の顔色を窺って仕事をされている方が少なくありません。
かつては税務署との太いパイプが納税者のためになっていた
時代もあったようですが、癒着の構造を指摘されたらマスコミの
餌食にされる現在では、税務署側からもそのようなことは
敬遠されてしかるべきでしょう。
むしろ、適正な記帳、適正な申告を指導していくことこそが、
我々税理士に求められている使命のはずではないでしょうか。

独立した公正な立場であるはずの税理士の姿勢が問われている
時代だからこそ、本書の主張が胸に響くのである。

また、具体的な方策として、例えば事例47(251〜253ページ)は、
税理士の視点から、「行為が行われた目的、経緯といった事実関係を
十分に検討する必要があり、計算基準だけでなく、その基準を
採用するに至った事実経過や判断要素等を記録、保存しておく
ことが大切です。」と指摘した点を、弁護士は、
「個々の事情を反映した処理をする場合には、それが恣意的な
ものにならないよう注意するとともに、客観的に見て実質的に
平等であって公正な処理であることを証明できるように
準備しておくことが重要でしょう。」と指摘している。

リスク管理に疎い方が多いわが税理士業界には耳の痛い
ケースであるが、税理士補佐人を経験した者として、
証拠を残しておくことがリスク管理にとって
どれほど重要なことであるのか、身にしみた部分でもある。
また、これからの時代、おそらく増えてくるであろう
税理士賠償訴訟事件への対応のためにも、自己防衛のために
証拠を管理・保存することが必要になっているのである。

本書のケーススタディーを対岸の火事として
傍観できる時代は終わったのである。