相場操縦、仮装取引・安定操作 - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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閲覧数順 2017年04月27日更新

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相場操縦、仮装取引・安定操作

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相続

相場操縦、仮装取引・安定操作

最高裁判所第1小法廷決定平成19年7月12日、証券取引法違反被告事件

刑集61巻5号456頁、『金融商品取引法判例百選』53事件

【判決要旨】

1 出来高に関し他人に誤解を生じさせる目的は,価格操作・相場操縦の目的を伴わない場合でも,証券取引法(平成12年法律第96号による改正前のもの)159条1項柱書きにいう「取引が繁盛に行われていると誤解させる等これらの取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的」に当たる

2 いわゆる自己両建ての有価証券オプション取引は,証券取引法(平成12年法律第96号による改正前のもの)159条1項3号にいう「オプションの付与又は取得を目的としない仮装の有価証券オプション取引」に当たる

【参照条文】 証券取引法(平12法96号改正前)159条1項

       証券取引法(平12法96号改正前)197条1項

 1 本件は,大阪証券取引所(大証)の副理事長等の職にあった被告人が,同取引所に上場されている株券オプションにつき,投資家にその取引が繁盛に行われていると誤解させようと企て,ほか数名と共謀の上,同取引所で,有価証券オプション取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的をもって,多数回にわたり株券オプションの仮装取引及び馴合取引を行ったという,証券取引法違反の事案である。

 株券オプションは,あらかじめ定められた日(満期日)に,あらかじめ定められた価格(権利行使価格)で現物株を買い付ける権利(コールオプション)又は売り付ける権利(プットオプション)であり,投機や株価変動に伴うリスクヘッジ等の目的で売買されるものであるが,株券オプションの買い手は,このような権利を取得する対価として,売り手に対し「プレミアム」と呼ばれる金員を支払う義務がある。新規の売付け及び買付けは,それぞれ建玉として算定され,株券オプションの取得者が,満期日における株価の状況に応じて,当該権利を行使又は放棄するか,反対取引,すなわち,満期日より前に,株券オプションを取得して買建玉を有する者がこれを市場で転売し,あるいは,株券オプションを付与して売建玉を有する者がこれを市場で買い戻すかしない限り解消されることはない。

 2 被告人は,現物株等の出来高において,大証が恒常的に東京証券取引所(東証)に劣後していたことから,新たに,「株券オプション」という金融商品が,東証及び大証に上場されることになった際,東証への対抗上,大証における株券オプションの見掛け上の出来高を高く保って,その市場が繁盛しているように装うことにより,顧客を引き付けようと考え,実質的に大証が出資するダミー会社や証券会社を設立するなどした上,これらの会社を通じて,特定の銘柄のオプションを一定数量付与するのと同時期に,同一銘柄のオプションを同数量取得するという,いわゆる自己両建て取引等を行い,これらの取引で発生した売建玉及び買建玉を反対取引によって解消するということを繰り返していたものである。

 3 本件の外形的な事実関係については,おおむね争いがなく,1審以来の主たる論点は,被告人らの行った取引が,証券取引法(平成12年法律第96号による改正前のもの)159条1項の禁ずる取引に当たるかという法律解釈であったため,1,2審では,同論点を積極・消極それぞれに解する商法学者や実務家らが,各自の立場から証言したり,意見書を提出したりした。その際には,我が国の証券取引法の模範となったアメリカ証券取引所法の解釈も参考にされた。1審判決(判タ1185号150頁)は,前記論点を消極に解して被告人を無罪としたが,検察官の控訴を受けた原審は,これを積極に解して逆転の有罪判決(判時1959号167頁)を言い渡したため,被告人が上告に及んだものである。

 4 上告審において,弁護人は,本件証券取引法違反の罪が成立するためには,特定の銘柄の価格操作ないし相場操縦をする目的が必要であり,159条1項柱書きにいう「取引が繁盛に行われていると誤解させる等これらの取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的」は,特定の銘柄について前記価格操作等の目的がある場合に限って認められるべきであるから,大証における株券オプション市場全体の出来高を操作したにとどまる被告人には,同罪は成立しないと主張したが,本決定は,被告人が大証の株券オプション市場全体の出来高を引き上げる意図であったとしても,現実に行われた取引は,特定の銘柄の出来高の操作にほかならず,このように出来高が操作された場合に生じ得る弊害等にかんがみれば,価格操作等の目的からではなく,単に出来高に関し他人に誤解を生じさせる目的も,上記「取引が繁盛に行われていると誤解させる等これらの取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的」に当たり,特定の銘柄についての価格操作等の目的を伴わない場合でも,同罪は成立すると解すベきであるとした。

 また,弁護人は,同項3号につき,オプションの自己両建て取引は,同取引により売建玉と買建玉が発生し,これらが,その後転売等により別々に処分され得ることなどから,同号にいう「オプションの付与又は取得を目的としない仮装の有価証券オプション取引」には当たらないとも主張したが,本決定は,そのように解すべき理由はなく,自己両建てのオプション取引も,上記「オプションの付与又は取得を目的としない仮装の有価証券オプション取引」に当たると解すべきであって,同取引の結果として売建玉と買建玉が発生し,これらが後に別々に処分され得ることは,その解釈に影響を及ぼさないというべきであるとした。

 5 証券取引法違反の刑事判例が少ないところ,本決定は,1,2審の判断が分かれ,学説も鋭く対立していた論点について,明確な解釈を示して決着を付けたものであるが,その解釈は,今後,株券オプション取引はもとより,それ以外の証券取引にも大きな影響を及ぼすものと思われる。

なお,証券取引法は,平成19年9月30日から「金融商品取引法」に改正されたが,本件で問題となったものと同様の規定は,新法にも引き継がれていることから,本決定は引き続き参照価値が高いと考えられる。

本件に言及した文献として,神崎克郎ほか『証券取引法』949頁,大武泰南・金判1220号60頁がある。