Blog201403、先物商品取引法 - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

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Blog201403、先物商品取引法

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Blog201403、先物商品取引法

商品先物取引と委託者保護基金制度
差玉向かいを行っている商品先物取引会社が委託者に対して負う説明義務・通知義務(最高裁判決)


商品先物取引と委託者保護基金制度
商品先物取引を規律する商品取引所法の平成16年改正により,従来の委託者が商品先物会社(商品取引員)に委託証拠金を預託する制度に代えて,商品取引所法に取引証拠金を直接預託することにするとともに(商品取引所法103条1項),委託者に対する補償対象債権を「一般委託者が当該認定商品取引員に対して有する債権(当該一般委託者の委託者資産に係るものに限る。)であって委託者保護基金が政令で定めるところにより当該認定商品取引員による円滑な弁済が困難であると認めるもの」(同法306条1項)とする委託者保護基金制度を新設するなど(これに伴い商品取引所員に関する受託業務保証金制度等は廃止された。),委託者資産のより確実な保全を図るため,制度の大幅な見直しが行われている。


差玉向かいを行っている商品先物取引会社が委託者に対して負う説明義務・通知義務

最高裁判決平成21年7月16日・民集63巻6号1280頁
損害賠償請求事件

【判示事項】 特定の種類の商品先物取引について差玉向かいを行っている商品取引員が,専門的な知識を有しない委託者との間で締結した商品先物取引委託契約上,委託者に対して負う説明義務及び通知義務

【判決要旨】
特定の種類の商品先物取引について差玉向かいを行っている商品取引員が専門的な知識を有しない委託者との間で商品先物取引委託契約を締結した場合、商品取引員は、上記委託契約上、商品取引員が差玉向かいを行っている特定の種類の商品先物取引を受託する前に、委託者に対し、その取引について差玉向かいを行っていることおよび差玉向かいは商品取引員と委託者との間に利益相反関係が生ずる可能性の高いものであることを十分に説明すべき義務を負い、委託者が上記の説明を受けた上で上記取引を委託したときにも、自己玉を建てる都度、その自己玉に対当する委託玉を建てた委託者に対し、その委託玉が商品取引員の自己玉と対当する結果となったことを通知する義務を負う。
  差玉向かい:板寄せ(商品取引所の立会において、同一限月の各商品につき、売付けと買付けの数量が合致したときに、そのときの値段を単一の約定値段とし、同数量の売付けと買付けについて売買約定を締結させる競争売買の方法)による取引について、商品の種類および限月ごとに、委託に基づく売付けと買付けを集計し、売付けと買付けの数量に差がある場合に、この差の全部または一定割合に対当する自己玉を建てることを繰り返す商品取引員の取引方法
自己玉:商品取引員が自己の計算をもってする取引
委託玉:商品取引員が委託に基づいてする取引

【参照条文】 商法551条、 商法552条2項
       民法644条、 民法645条
       商品取引所法213条、商品取引所法214条、商品取引所法217条1項
       商品取引所法施行規則103条、商品取引所法施行規則104条1項

1 本件は,Xらが,Yに委託して行った商品先物取引において損失を被ったことにつき,Yに説明義務違反があったなどとして,Yに対し,商品先物取引委託契約上の債務不履行に基づく損害賠償を求める事案である。
2 事実関係は,次のとおりである。
 (1) X1は,融資等を目的とする会社であり,X2は,その代表者である。
 (2) Yは,商品先物取引の受託等を目的とする会社である。また,Yは,商品取引員であり,東京穀物商品取引所及び東京工業品取引所の会員である。
 (3) X2は,平成8年3月から同年5月まで,A株式会社に委託して,初めて商品先物取引を行い,合計約1億7000万円の損失を被った。その後,X2は,X2個人及びX1の代表者として,Yとの間で商品先物取引委託契約を締結し,X2については,同年5月から同年9月まで,Yに委託して,東京穀物商品取引所のとうもろこしの商品先物取引を行い,X1については,同年5月から同年6月まで,Yに委託して,東京穀物商品取引所のとうもろこし及び米国産大豆並びに東京工業品取引所の綿糸の各商品先物取引を行った(以下,XらがYとの間で締結した商品先物取引委託契約を併せて「本件各委託契約」といい,Xらの上記各取引を併せて「本件各取引」という。)。その結果,X2は合計7500万円余の損失を被り,X1は合計500万円余の損失を被った。
 (4)ア 東京穀物商品取引所のとうもろこし及び米国産大豆並びに東京工業品取引所の綿糸の各商品先物取引は,平成8年当時,立会において,同一限月の各商品につき,売付けと買付けの数量が合致したときに,そのときの値段を単一の約定値段とし,同数量の売付けと買付けについて売買約定を締結させる競争売買の方法(以下,この方法を「板寄せ」という。)により行われていたが,各取引所の会員である商品取引員は,各取引所の業務規程によって,①同一限月の各商品につき委託に基づく同数量の売付けと買付けを有する場合や,②同一限月の各商品につき,委託に基づく売付け又は買付けに対し,自己の計算をもってする同数量の買付け又は売付けを有する場合(以下,商品取引員が委託に基づいてする取引を「委託玉」といい,商品取引員が自己の計算をもってする取引を「自己玉」という。),その同数量の売付けと買付けについては,立会終了後に各取引所に申し出るだけで,当該立会の約定値段で売買約定を成立させること(以下,これを「バイカイ付け出し」という。)が認められていた。
 イ Yは,板寄せによる取引については,商品の種類及び限月ごとに,委託に基づく売付けと買付けを集計し,売付けと買付けの数量に差がある場合には(以下,この差を「差玉」という。),差玉の約1割から3割だけを商品取引所の立会に出し,立会終了後,委託に基づく同数量の売付けと買付けにつき,バイカイ付け出しにより売買約定を成立させ,また,立会に出されなかった差玉につき,対当する自己玉を建てて,バイカイ付け出しにより売買約定を成立させることを繰り返していた(以下,差玉の全部又は一定割合に対当する自己玉を建てることを繰り返す商品取引員の取引方法を「差玉向かい」という。)。
 (5) 本件各取引は,X1が,Yから提供される情報を投資判断の材料として行っていたが,Yが差玉向かいを行っていることによって,高い頻度で,Xらの委託玉がYの自己玉と対当する結果となった。
 (6) Yは,本件各取引を受託するに当たり,Xらに対し,Yが板寄せによる取引について差玉向かいを行っていることを説明していない。
 (7) Xらは,商品取引員が差玉向かいを行っている場合には,商品取引員は,商品先物取引委託契約上,委託者に対し,差玉向かいによって商品取引員と委託者との間に利益相反の関係が生ずることなどを説明する義務を負うところ,Yにおいては,板寄せによる取引について差玉向かいを行っていたにもかかわらず,本件各取引を受託するに当たって,Xらに対し,上記の説明をしていないのであるから,本件各委託契約の債務不履行に基づく損害賠償責任を免れないと主張している。
3 原審は,商品取引員が差玉向かいを行っていると,商品取引員の自己玉と対当する委託玉を建てた委託者と商品取引員との間には,相場変動により,一方に評価益が生ずると他方に評価損が生ずる関係があり,また,取引が決済される場合,委託者全体の総益金が総損金より多いときには商品取引員に損失が生じ,委託者全体の総損金が総益金より多いときには商品取引員に利益が生ずる関係にあるという意味で,商品取引員と委託者との間には利益相反の関係があるとしたが,商品取引員の自己玉と売付け又は買付けの別を同じくする委託玉を建てた委託者については,商品取引員との間の利害が一致するのであり,上記の利益相反の関係は,抽象的な委託者総体との間に生ずるものであるし,また,商品取引員の自己玉と対当する委託玉を建てた委託者であっても,直ちに損失を被るものではないのであるから,商品取引員が差玉向かいを行っていることは,委託者の投資判断に影響を与えるものではないなどとして,Yが説明義務を負うことを否定し,Xらの請求をいずれも棄却すベきものとした。
4 これに対し,最高裁第一小法廷は,①商品取引員は,委託者に対し,委託の本旨に従い,善良な管理者の注意をもって,誠実かつ公正に,その業務を遂行する義務を負っていること,また,②商品取引員の行う差玉向かいには,委託者全体の総損金を総益金より多くなるようにするために,商品取引員において,故意に,委託者に対し,投資判断を誤らせるような不適切な情報を提供する危険が内在しており,商品取引員が差玉向かいを行っているということは,商品取引員が提供する情報一般の信用性に対する委託者の評価を低下させる可能性が高く,委託者の投資判断に無視することのできない影響を与えることなどを理由として,判決要旨のとおり判示した上で,これを本件に当てはめ,Xらは,商品先物取引に関して,専門的な知識を有しない委託者であるのに,Yは,板寄せによる取引について差玉向かいを行っていたにもかかわらず,Xらから板寄せによる取引に該当する本件各取引を受託するに当たり,Xらに対し,Yが差玉向かいを行っていることを説明していないというのであるから,委託契約に基づく説明義務に違反するものとして,債務不履行責任を負うと判断し,原判決を破棄し,更に審理を尽くさせるために,本件を原審に差し戻した。
5(1) 商品取引員は,かって「全量向かい」という取引方法を執ることがあった。「全量向かい」は,商品取引員が,委託玉すべてに対当する同量の自己玉を建てる方法であるが,商品取引員は,個々の委託者すべてとの関係で,相場変動により,一方に評価益が生ずると他方に評価損が生ずる関係があり,また,取引が決済される場合,個々の委託者が利益を得るときには商品取引員に損失が生じ,個々の委託者が損失を被るときには商品取引員に利益が生ずる関係にあるという意味で,商品取引員と個々の委託者との間に,直接的な利益相反関係が生ずるものであったことから,紛議が多発し,昭和45年には,農林省の通達によって,農林省所管の商品取引について,「全量向かい」が禁止されるに至った(農林省農林経済局長通達昭和45年5月30日45農経C第1631号)。
 (2) その後,「全量向かい」に代わって,一部の商品取引員で執られるようになったのが,本件で問題となっている「差玉向かい」である。
 「差玉向かい」については,
一方で,①商品取引員の委託玉全体の取組高が一方に大きく偏る(例えば,委託玉の売りが買いよりも著しく多くなる)ことで,相場変動に伴い,委託玉に多額の損失が発生し,委託者からの預かり金を含めた商品取引員の会社資産が危うくなることを防止するリスクヘッジ機能があり,また,②大量の委託玉が市場に放出されることで,委託玉にとって不利に相場が動くことを防止することができるなど,委託者に利益をもたらす機能があるとして,積極的に評価する見解(吉井文夫〔弁護士〕『商品相場取引をめぐる法律上の諸問題』133頁以下)があったが(本件でも,Yは,この見解に基づく主張をしている。),
他方で,①商品取引員と委託者との間に利益相反の関係があることからこそ,「差玉向かい」によって,リスクヘッジ機能が生じ得るに他ならないし,そもそも,商品取引員において委託証拠金を確実に徴収している限り,委託玉に多額の損失が生じたからといって,商品取引員の会社資産が危うくなることなど生じ得ないし,また,②商品取引員が相場変動を防止することは,相場操縦行為にほかならないし,商品取引員が自らの損益を犠牲にしてまで,委託者に不利に相場が変動することを防止するなどということは考え難く,委託者に利益をもたらす機能など見出し難く,かえって,委託者を騙して詐欺を行うことを可能にするものであるとして,批判的に評価する見解(中村明〔検事〕『先物取引をめぐる犯罪の諸問題』法務研究報告書76集4号372頁以下)もあり,多くの学説は,後者の立場に立っていたようである(社団法人全国商品取引所連合会編『商品取引所論体系(4)』78頁以下,竹内浩司「先物取引事犯の捜査について」警論44巻4号102頁,木宮高彦編『消費者保護の法律相談』243頁,津谷裕貴ほか『実践先物取引被害の救済』27頁以下等)。
 (3)ア このような中で,「差玉向かい」を行う商品取引員が詐欺罪に問われる刑事事件が散見されるようになったが(大阪高判昭61.12.19『経済取引関係裁判例集』刑資261号224頁等),最高裁第三小法廷は,商品取引員が「差玉向かい」を行っていた場合について,「商品先物取引に関して,いわゆる客殺し商法により顧客にことさら損失等を与えるとともに,いわゆる向かい玉を建てることにより顧客の損失に見合う利益を会社に帰属させる意図であるのに,顧客の利益のために受託業務を行うものであるかのように装って,取引の委託方を勧誘し,その旨信用した顧客から委託証拠金名義で現金等の交付を受けた行為は,詐欺罪を構成する。」と判示して,「差玉向かい」を行っている場合に詐欺罪を構成することがある旨を説示するに至った(最三小決平4.2.18刑集46巻2号1頁,判タ781号117頁)。
 イ また,「差玉向かい」を行う商品取引員との間の取引で損失を被る専門的な知識を有しない委託者も多かったことから,このような委託者が,商品取引員が「差玉向かい」を行うことは不法行為等を構成するとして,「差玉向かい」を行った商品取引員に対し,損害賠償を求める民事訴訟も提起されるようになったが,商品取引員が「差玉向かい」を行っていることは,不法行為の成立を認める一つの材料にはなるけれども,商品取引員が「差玉向かい」を行っているというだけで,直ちに不法行為が成立するとは認められないとの高裁の判断が相次いで示され,結果的に,多くの訴訟で委託者側が敗訴したことから(名古屋高判平13.6.13,名古屋高判平14.3.7,名古屋高判平16.3.25,大阪高判平17.1.19,名古屋高判平17.6.22,同平18.2.9,大阪高判平18.7.13〔いずれも判例体系登載〕,東京高判平17.8.24〔公刊物未登載〕),上記のような訴訟においては,新たに,「差玉向かい」を行っている商品取引員は,専門的な知識を有しない委託者に対し,「差玉向かい」を行っていることなどを説明する義務を負うなどといった主張が付加されるようになったところ,このような説明義務の有無について,高裁の裁判例は,原審と同様にこれを否定するもの(名古屋高判平17.11.9,同平18.1.24〔いずれも判例体系登載〕)と,商品取引員が「差玉向かい」を行っていることは,個々の取引を委託するか否かを判断する重要な要素であり,しかも,「差玉向かい」を行うと商品取引員と委託者との間に利害相反の関係が生ずるなどとして,商品取引員は,「差玉向かい」を行う場合には,信義則上,その旨を説明する義務を負うとするもの(東京高判平16.12.21,大阪高判平19.3.16〔いずれも判例体系登載〕)とに分かれていた(なお,前掲東京高判平16.12.21については,上告受理申立てがされていたが,不受理となっている。)。
 このような中で,最高裁第一小法廷は,前記のとおり説示して,上記説明義務の存在を認めるなどして,高裁の判断が分かれていた問題について決着を付けたものである。前記中村明検事の見解について,十分に説得力があるものと評価するとともに,善管注意義務を負っている商品取引員は,委託者との関係で,委託者の犠牲において自己の利益を図ってはならない義務を負っているのであるから,利益相反性の観点から問題となり得る状況を生じさせる場合には,積極的に,委託者に対し,これを報告する義務を負っていると考えた結果ではないだろうか(我妻栄『債権各論中巻2』673~677頁,加藤雅信『新民法大系Ⅳ契約法』416頁,幾代通=広中俊雄編『新版注釈民法(16)債権(7)』238頁,岩藤美智子・私法64号152頁等参照)。
 本判決は,商品取引員が「差玉向かい」を行うこと自体の違法性を認めるものではないものの,商品取引員が「差玉向かい」を行う場合において,当該商品取引員に対し,専門的な知識を有しない委託者との関係で,極めて厳しい説明義務及び通知義務を課すことにより,事実上「差玉向かい」を実施することを著しく困難にするものと思われるところ,平成16年の商品取引所法の改正後も,「差玉向かい」を行うことが商品取引所法上違法であるか否かは必ずしも明らかではなく(同法214条9号,同法施行規則103条2号等),同改正以降もなお「差玉向かい」を行っている商品取引員が存在しているようであり(東京地判平20.2.25判時2015号64頁),本判決が,商品先物取引の関係者や裁判実務に与える影響は少なくない。
 なお,実務的には,X2が,本件各取引の前に,A株式会社に商品先物取引を委託して,約1億7000万円もの損失を被っていることなどを踏まえると,Xらについて,救済する必要性があるのか疑問を抱くところがないわけではないけれども,X2がA株式会社との間で商品先物取引をしたのは,本件各取引の直前の短期間にすぎないことや,X2が,その間に専門的な知識を得たわけでもなく,本件各取引において,XらとYとの間で利益相反の関係が生じ得ることに思い至ることもなく,Yから提供される情報を投資判断の材料としていることに照らすと,なおXらには救済の必要性があるものと評価すベきであろう。
 本件と類似した事案において,最高裁第二小法廷は,近時,説明義務の点について,本判決とほぼ同旨の判断を示しているところであり(最二小判平21.12.18〔最高裁HP〕参照),併せて参照されたい。


商品先物取引会社が委託者に対して負う説明義務

最高裁判決平成21年12月18日
裁判集民事232号833頁、判例タイムズ1318号90頁
損害賠償請求事件

【判示事項】 特定の商品の先物取引につき,委託玉と自己玉とを通算した売りの取組高と買いの取組高とが均衡するように自己玉を建てることを繰り返す取引手法を用いている商品取引員の従業員が,信義則上,専門的な知識を有しない委託者に対して負う説明義務

【判決要旨】 特定の商品の先物取引につき、委託玉と自己玉とを通算した売りの取組高と買いの取組高とが均衡するように自己玉を建てることを繰り返す取引手法を用いている商品取引員が、専門的な知識を有しない委託者から当該特定の商品の先物取引を受託しようとする場合、当該商品取引員の従業員は、信義則上、その取引を受託する前に、委託者に対し、その取引については上記取引手法を用いていることおよび上記取引手法は商品取引員と委託者との間に利益相反関係が生ずる可能性の高いものであることを十分に説明すべき義務を負う。

【参照条文】 民法1条2項
       商品取引所法213条、商品取引所法214条、商品取引所法217条1項
       商品取引所法施行規則103条、商品取引所法施行規則104条1項

 1 本件は,Xが,商品取引員であるY1に委託して行った商品先物取引において損失を被ったことについて,その従業員であるY2による説明義務違反等の違法行為があると主張して,Yらに対し,不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。
 2 Xは,Y1との間で商品先物取引委託契約を締結し,これに基づき,平成17年6月14日から同年11月15日まで,Y1に委託して,東京工業品取引所の白金の商品先物取引を行い,その結果,Xは合計687万9970円の損失を被った。Y1は,少なくとも,上記取引期間中,平成18年4月限及び6月限の白金について,それぞれ委託玉(商品取引員が顧客の委託に基づいてする取引)と自己玉(商品取引員が自己の計算をもってする取引)とを通算した売りの取組高と買いの取組高とが均衡するように自己玉を建てることを繰り返していた(以下,このように委託玉と自己玉とを通算した売りの取組高と買いの取組高とを均衡するように自己玉を建てることを繰り返す取引手法のことを「本件取引手法」という。)。そして,本件取引手法が用いられると,取引が決済される場合,委託玉全体と自己玉とに生ずる結果が,一方に利益が生ずるなら他方に損失が生ずるという関係にあり,この意味で,委託者全体と商品取引員との間には利益相反の関係があった。
 3 Xは,Y2がY1において本件取引手法を用いていることについて説明しなかったことがXに対する不法行為を構成すると主張した。しかし,1,2審とも,本件取引手法は個々の委託者とY1との間で直接的な利益相反関係を生じさせるものではないことなどを理由として,Y2がXに対し本件取引手法を用いていることを説明すベき義務を負っていたとはいえないなどとして,Xの請求を棄却すべきものとした。
 4 これに対し,最高裁第二小法廷は,専門的な知識を有しない委託者の投資判断は,商品取引員から提供される情報に相応の信用性があることを前提にしているとした上で,本件取引手法には,委託者全体の総損金が総益金より多くなるようにするために,商品取引員において,故意に,委託者に対し,投資判断を誤らせるような不適切な情報を提供する危険が内在しており,商品取引員が本件取引手法を用いていることは,商品取引員が提供する情報一般の信用性に対する委託者の評価を低下させる可能性が高く,委託者の投資判断に無視することのできない影響を与えるなどとして,少なくとも,特定の商品(商品取引所法2条4項)の先物取引について本件取引手法を用いている商品取引員が専門的な知識を有しない委託者から当該特定の商品の先物取引を受託しようとする場合には,当該商品取引員の従業員は,信義則上,その取引を受託する前に,委託者に対し,その取引については本件取引手法を用いていること及び本件取引手法は商品取引員と委託者との間に利益相反関係が生ずる可能性の高いものであることを十分に説明すべき義務を負うと判断した。そして,原審が,Xが専門的な知識を有しない委託者であるか否か,Y1がXから商品先物取引の委託を受ける前から白金について本件取引手法を用いていたか否か,Y2が上記のような説明をしたか否か等につき審理することなく,Y2に説明義務違反がないと判断したことには,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとして,原判決を破棄し,更に審理を尽くさせるために,本件を原審に差し戻した。
 5 最一小判平21.7.16民集63巻6号1280頁は,「特定の種類の商品先物取引について差玉向かいを行っている商品取引員が専門的な知識を有しない委託者との間で商品先物取引委託契約を締結した場合には,商品取引員は,上記委託契約上,商品取引員が差玉向かいを行っている特定の種類の商品先物取引を受託する前に,委託者に対し,その取引については差玉向かいを行っていること及び差玉向かいは商品取引員と委託者との間に利益相反関係が生ずる可能性の高いものであることを十分に説明すべき義務を負う。」と判示している。
 この判決が,上記説明義務を認めた主たる根拠は,「商品取引員が差玉向かい(板寄せによる取引について,商品の数量及び限月ごとに,委託に基づく売付けと買付けを集計し,売付けと買付けの数量に差がある場合に,この差の全部又は一定割合に対当する自己玉を建てることを繰り返す商品取引員の取引方法)を行っていると,委託玉と自己玉とを通算した売りの取組高と買いの取組高とが均衡することになり,取引が決済される場合には,委託者全体の総益金が総損金より多いときには商品取引員に損失が生じ,委託者全体の総損金が総益金より多いときには商品取引員に利益が生ずる関係となるから,差玉向かいには,委託者全体の総損金が総益金より多くなるようにするために,商品取引員において,故意に,委託者に対し,投資判断を誤らせるような不適切な情報を提供する危険が内在するので,商品取引員が差玉向かいを行っているということは,商品取引員が提供する情報一般の信用性に対する委託者の評価を低下させる可能性が高く,委託者の投資判断に無視することのできない影響を与える」ということにあると考えられる。そして,本件のように「板合せザラバ」という売買手法(一定時刻までに出された注文を対象として,約定枚数が最大になる価格で約定可能な全ての注文を約定させる取引方法である「板合せ」と,定められた時間内に買付希望者と売付希望者が自由に約定値段と取引枚数を合意して売買を成立させる取引方法である「ザラバ」とが組み合わされた売買手法)が採用されている取引であっても,委託玉と自己玉とを通算した売りの取組高と買いの取組高とを均衡するように自己玉を建てることを繰り返す取引手法が用いられたならば,上記と同様のことがいえるように思われる。
 もっとも,前掲第一小法廷の事案は,商品先物取引委託契約上の説明義務違反があったとして,債務不履行に基づく損害賠償を求めたものであったのに対し,本件は,不法行為に基づく損害賠償を求めた事案であった。裁判実務上,私的自治・自己決定原則が妥当するための基盤の確保を目的とし,情報格差を是正するために,一方が他方に対し当該取引につき自己決定に必要となる重要な事項を説明すベき義務が認められている。そして,投資取引における説明義務違反の事例については,不法行為構成によって処理されることも多く,このような実務の状況については,学説上も格別疑義は示されていない(潮見佳男「投資取引と説明義務――取引交渉における自己決定権侵害と説明義務・情報提供義務」先物取引被害研究30号95頁,加藤雅信『新民法大系(1)民法総則』239頁など)。
本判決は,このような裁判実務も踏まえ,商品取引員が本件取引手法を用いていることは,商品取引員が提供する情報一般の信用性に対する委託者の評価を低下させる可能性が高く,委託者の投資判断に無視することのできない影響を与えるものであることから,前記4のとおりの説明義務を信義則を根拠として認めることとし,これにより,不法行為に基づく損害賠償責任が認められる可能性があることを示したものであると思われる。
 なお,前掲第一小法廷の判決においては,「委託者が,商品取引員から差玉向かいを行っていることなどの説明を受けた上で取引を委託したときにおいても,委託者において,どの程度の頻度で,自らの委託玉が商品取引員の自己玉と対当する結果となっているのかを確認することができるように,自己玉を建てる都度,その自己玉に対当する委託玉を建てた委託者に対し,その委託玉が商品取引員の自己玉と対当する結果となったことを通知する義務を負う」との判示がされている。本判決ではこの点については言及されていないが,これは,かかる通知義務を否定する趣旨ではなく,本判決の結論を導く上で,必ずしも通知義務の有無につき判示する必要がないと考えられたことによるものではないかと推察される。