- 村田 英幸
- 村田法律事務所 弁護士
- 東京都
- 弁護士
対象:民事家事・生活トラブル
- 榎本 純子
- (行政書士)
『専門研修講座・建築紛争』
ぎょうせい、平成23年刊行
弁護士会での研修講義録である。
Ⅴ 建築紛争における損害額の認定状況
講師は、建築紛争の損害賠償請求が青天井であるかのようなことを述べているが、誤りである。
建築紛争では、損害賠償費目を積算していくため、むしろ請求者が瑕疵を特定し、瑕疵たる理由付け、補修・建て替えの費用を見積もり、それに対して建築業者・売主の側で個別・具体的に認否・反論し、裁判所が認定していくという方式である。
したがって、やり方は違うが、施工について、見積もり、見積もりの査定に近い。しかも、そもそも、なぜ瑕疵なのかという難しい作業が前提としてあるため、余計に難しい。当事者双方の主張が並行線のまま、裁判所が果たして瑕疵として認定してくれるか、金額はいくらかという問題となる。
なお、講師は、交通事故の赤本を引き合いに出しているが、建築紛争と交通事故とでは損害費目が重ならないため、余り参考とはならない。
講師は、契約とは違う建築材料を用いたことが瑕疵と認めた最高裁判決では、損害額として、結局330万円しか認められなかったことを指摘している。この事件では、最高裁・差し戻し控訴審まで合計4審級の裁判をやって長時間がかかり、建築士の鑑定費用や弁護士費用などを考えると、損害賠償額が多くないと、むしろ経済的に見合わないということになりかねない。