早わかり中国特許:第33回 中国特許民事訴訟の基礎 - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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早わかり中国特許:第33回 中国特許民事訴訟の基礎

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早わかり中国特許

~中国特許の基礎と中国特許最新情報~

2014年 4月 8日

執筆者 河野特許事務所

弁理士 河野英仁

(月刊ザ・ローヤーズ 2014年2月号掲載)

 第33回 中国特許民事訴訟の基礎

 

1.概要

 第32回に引き続き中国における特許民事訴訟について解説する。

 

2.証拠交換

(1)開廷前の証拠交換

 中国では米国にみられるディスカバリ制度は存在しないが証拠交換制度が存在する。これは、開廷前に公平の観点から当事者双方に証拠を提出させ、争点を明確化することによって訴訟進行を効率化せんとするものである。通常は人民法院から送達された案件受理通知書及び応訴通知書を受領した日の翌日から30日の期間が、立証期間(挙証期間)として設定され(司法解釈[2001]第33号第33条)、その後証拠交換が行われる。

 特許訴訟においては一般に裁判官の主催のもと証拠交換が行われる(司法解釈[2001]第33号第39条)。当事者は、立証期間内に人民法院に対し証拠資料を提出しなければならず、当該期間内に証拠資料を提出できない場合、立証の権利が放棄されたものとみなされるため注意が必要である(司法解釈[2001]第33号第34条)。証拠交換は訴訟開廷前の重要なプロセスであり、この段階でおよその勝敗が決まる。証拠交換の前に周到な準備が必要といえる。その一方で、被告側は1ヶ月ほどしか時間がないため早急に証拠収集を行う必要がある。

(2)新たな証拠

 原則として証拠交換時の立証期間に全ての証拠を提出する必要があるが、立証期間経過後も、民事訴訟法第139条の規定に基づき、「新たな証拠」を提出することができる。ここで、「新たな証拠」とは、立証期間後に当事者が新たに発見した証拠と、当事者が客観的原因によって確かに立証期間内に提供できず、人民法院の許可を得て延長した期間内にもなお提供できなかった証拠とが含まれる。また、第二審における「新たな証拠」とは、第一審の審理が結審した後に新たに発見された証拠と、当事者が第一審の立証期間が満了する前に当事者が人民法院に証拠の調査、収集を申請し、それが認められず、第二審人民法院で認められ、調査・収集した証拠とが含まれる(司法解釈[2001]第33号第41条)。このように、新たな証拠が提出できる途が残されているが、「立証期間」という時期的要件が課せられているため、あくまで例外と認識しておく必要がある。従って訴訟を提起する場合は、訴訟前において証拠収集を周到に行っておく必要があるといえよう。

(3)証拠交換のプロセス

 証拠交換は裁判官が中心になって行う。証拠交換の過程において、裁判官は当事者の異議がない事実、証拠を記録し、異議のある証拠については証明が必要な事実に基づいて分類して記録すると共に、異議理由を記入する(司法解釈[2001]第33号第39条)。このようなプロセスを経て当事者双方の争点が顕在化される。

 証拠交換は通常1日で終了し、多くて2回までである。ただし、複雑な案件である等特段の事情がある場合、例外的に3回以上行われる(司法解釈[2001]第33号第40条)。

 

3.質証

 質証は当事者が提出した証拠の客観的真実性、関連性、及び合法性について事実確認及び対質(証拠調べの一つ)を行うものであり、裁判官の主導のもと開廷後に行われる(司法解釈[2001]第33号第47条)。質証は証拠認定の前提となるものであり、民事訴訟プロセスにおいて必要不可欠なステップである。当事者による質証を経て初めて、人民法院は当該証拠を認証でき、また根拠とすることができる[1]

 具体的には質証は以下の手順により行われる。まず、原告が証拠を提示し、これに対し被告側が原告に質疑する。次いで、被告が証拠を提示し、これに対し原告側が被告に質疑する(司法解釈[2001]第33号第51条)。このような質疑を経て証拠に対する真実性、関連性及び合法性が明らかとなる。

 

4.証拠の突き合わせ及び認定

 裁判官は以上述べた証拠を全面的・客観的に審査し、法律の規定に従って論理的推理と日常生活経験を運用し、証拠の証明力の有無、その証明力の大小について独立して判断する(司法解釈[2001]第33号第64条)。判断の理由と結果は公開しなければならない。

 個別の証拠については、以下の観点から突き合わせ及び認定を行う。

①証拠が原本または原物であるか否か。コピーまたは複製品の場合、原本または原物と一致するか否か。

②証拠と本案件の事実と関連するか否か。

③証拠の形式、出所が法律の規定に合致するか否か。

④証拠の内容は真実であるか否か。

⑤証人または証拠を提供する者が、当事者と利害関係を有するか否か(司法解釈[2001]第33号第65条)。

 また、証拠は、他人の合法的利益を侵害するか、または、法律の禁止規定に違反する方法で得た場合、案件の事実を認定する根拠とすることができない(司法解釈[2001]第33号第68条)。

 裁判官は、全ての証拠について、各証拠と案件の事実との関連の程度及び各証拠間のつながり等を総合的に勘案して突き合わせ及び認定を行う(司法解釈[2001]第33号第66条)。

 

5. 提訴前の証拠保全

(1)改正専利法第67条の新設

 証拠隠滅の恐れがある場合、又は、証拠の取得が今後困難となる場合、提訴前においても人民法院に対し証拠保全を申し立てることができる。2009年改正専利法において新設された専利法第67条の規定は以下のとおりである。

 

専利法第67条

 特許権侵害行為を差止めるために、証拠が消滅する可能性、又はその後は取得が困難になる可能性がある場合には、特許権者又は利害関係者は提訴前に、人民法院に証拠の保全を申請することができる。

 人民法院は保全措置をとるとき、申請人に担保の提供を命じることができ、申請人が担保を提供しないときは、その申請を却下する。

 人民法院は申請を受理した後、48時間以内に裁定しなければならない。

 保全措置をとると裁定したときは、直ちに執行しなければならない。

 人民法院が保全措置をとった日から15日以内に、申請人が提訴しないときは、人民法院はその措置を解除しなければならない。

 

(2)改正の趣旨

 改正前においても、司法解釈[2001]第20号第1条の規定を根拠に、専利法第66条(侵害行為の提訴前差止め 改正前専利法第61条)の執行と共に、提訴前の証拠保全が認められていた(司法解釈[2001]第20号第16条)。TRIPS協定第50条[2]では、提訴前の証拠保全に関する措置をとることが要求されていることから、第3次法改正にあわせて、専利法第67条を新設したものである。なお、2012年の改正民事訴訟法においても、民事訴訟法第81条に提訴前の証拠保全に関する規定が追加された。

 

改正前

改正後

第74 条(証拠保全)

証拠が滅失し、又はその後において取得するのが困難となるおそれのある状況の下においては、訴訟参加人は、人民法院に証拠の保全を申し立てることができ、人民法院も、自ら保全措置を執ることができる。

第81条(証拠保全)

 証拠が滅失し、又はその後において取得するのが困難となるおそれのある状況の下においては、当事者は、訴訟過程において人民法院に証拠の保全を申し立てることができ、人民法院も、自ら保全措置を執ることができる。緊急状態により、証拠が滅失し、又はその後において取得するのが困難となるおそれのある状況の下においては、利害関係人は、訴訟提起或いは仲裁申請前に証拠所在地、被申請人の住所または案件に対し管轄権を有する人民法院に証拠の保全を申し立てることができる。証拠保全のその他の過程は本法第9章の保全に関する規定を参照して適用する。

 



[1] 程・教程p30

[2] TRIPS協定第50条は以下のとおり規定している。

TRIPS協定第50条

(1) 司法当局は、次のことを目的として迅速かつ効果的な暫定措置をとることを命じる権限を有する。
(a) 知的所有権の侵害の発生を防止すること。特に、物品が管轄内の流通経路へ流入することを防止すること(輸入物品が管轄内の流通経路へ流入することを通関後直ちに防止することを含む。)
(b) 申立てられた侵害に関連する証拠を保全すること
(2) 司法当局は、適当な場合には、特に、遅延により権利者に回復できない損害が生じるおそれがある場合又は証拠が破棄される明らかな危険がある場合には、他方の当事者に意見を述べる機会を与えることなく、暫定措置をとる権限を有する。

 

 

続きは、月刊ザ・ローヤーズ2014年2月号をご覧ください。




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