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インド特許法の基礎(第9回)(1)
~特許出願(5)~
2014年4月1日
執筆者 河野特許事務所
弁理士 安田 恵
1.はじめに
インドにおいては、真正かつ最初の発明者から出願権を譲り受けた者は、特許出願を行うことができる(第6条(1))。出願権の譲受人が特許出願を行う場合、例えば、従業員が完成させた発明について会社が特許出願を行うような場合、原則として特許出願権の証拠を特許庁に提出しなければならない(第7条(2))。出願権の証拠は、出願時又は出願後6ヶ月以内に提出しなければならない(第7条(2)、規則10)。出願権の証拠は、例えば譲渡証書である。また発明者が所定の宣誓を行い、願書に署名することによって、出願権の証拠に代えることができる。いずれにせよ、出願権の証拠を提出する事務的な手続負担が生ずる。
しかし、運用上、基礎出願の出願人と、条約出願(第2条(1)(c))の出願人が一致していれば、特許出願権の証拠の提出は求められていない。今回は特許出願権に関する審決(OA/39/2011/PT/CH)を紹介し、実務上の対応について考察する。
2.事実関係
出願人は、基礎日本出願(特願2005-134640,出願日:2005年5月2日)に基づくパリ条約の優先権を主張して、インドに特許出願(出願番号794/CHE/2006,出願日:2006年5月2日)を行った。以下、インドに行われた上記出願を本件条約出願と言う。両特許出願の出願人は同一である。本件条約出願に対して、2008年7月16日に最初の審査報告(FER:First Examination Report)が通知された。本審査報告において、特許出願権の証拠の提出が要求された[1]。出願人は、審査官の要求は全て満たされているとして、特許出願権の証拠を提出すること無く、2009年6月22日に反論を行った。その後も、特許庁とのやり取りが行われ、出願人は、第135条を挙げ、自身が行った基礎日本出願に基づく本件条約出願については、特許出願権の証拠に係る条文第6条及び7条(2)が適用されず、特許出願権の証拠を提出する必要が無い旨を主張した。しかし、出願人の主張は認められず、本件条約出願は2009年8月27日に拒絶査定された。出願人は、拒絶査定の取り消しを求めてIPAB(Intellectual Property Appellate Board)に審判請求を行った。
3.争点
条約出願を行った出願人は、特許出願権の証拠を提出しなければならないか否か。
4.IPABの判断
(1)特許出願権に関連するインド特許法及び規則は以下の通りである。
第6 条 特許出願をすることができる者 (1) 第134 条に従うことを条件として,発明の特許出願については,次の者の何れかがすることができる。すなわち, (a) 発明の真正かつ最初の発明者である旨を主張する者 (b) 当該出願をする権利について,発明の真正かつ最初の発明者である旨を主張する者からの譲受人である者 (c) 死の直前に当該出願をする権原があった故人についての法律上の代表者 (2) (1)に基づく出願については,同項にいう者が単独で又は他の何人かと共同で,これをすることができる。
第7 条 出願様式 (2) 出願が発明についての特許出願権の譲渡によって行われるときは,出願と共に又は出願後所定の期間内に,出願権についての証拠を提出しなければならない。
第135 条 条約出願 (1) 第6 条の規定を害することなく,何人かが条約国において発明に係る特許出願(以下「基本出願」という。)をし,かつ,その者又はその者の法律上の代表者若しくは譲受人が,基本出願がされた日後12 月以内に本法に基づいて特許出願をするときは,完全明細書のクレームであって基本出願において開示された事項を基礎とするクレームの優先日をもって基本出願をした日とする。 説明--2 以上の条約国において1 発明に係る類似の保護を求める出願があったときは,本項にいう12 月の期間は,最先の出願があった日から起算する。
第139 条 条約出願に適用の本法の他の規定 この章に別段の規定のある場合を除き,本法の全ての規定は,条約出願及びそれに基づいて付与された特許について,通常の出願及びそれに基づいて付与された特許について適用するのと同様に,適用する。
規則10 第7条(2)に基づく出願権の証拠の提出期間 発明特許の出願権の譲渡によりされた特許出願において,当該出願権の証拠が出願と共に提出されない場合は,出願人は,当該出願の後6月以内に,そのような証拠を提出しなければならない。 説明--本条規則の適用上,インドを指定する国際出願に対応する出願の場合における6月の期間は,対応する出願がインドにおいてされた実際の日付から起算する。 |
(2)第6条は特許出願をすることができる者に関する規定である。第6条は通常の特許出願に限らず、条約出願にも適用される。
第7条(2)の文言上、特許出願が発明についての特許出願権の譲渡によって行われるときは、出願と共に又は出願後所定の期間内に、出願権についての証拠を提出しなければならないことは明らかである。
特許法135条の規定は、パリ条約の優先権を主張した発明の優先日を規定しているが、特許出願権の証拠の要否とは無関係である。また、第139条によれば、特に断りが無ければ、インド特許法の全ての規定が条約出願に適用されることは明らかである。
規則10は、特許出願権の証拠を提出すべき期限を定めている。これらの条文及び規則から、出願人が特許出願権の存在を立証し、或いは特許出願権の証拠を提出することは義務であると言える。
特許庁の結論は特許法第6条、7条(2)、135条、139条、規則10に基づくものであり、提出すべき特許出願権の証拠を出願人が提出していないとする結論に異論は無い。
(3)しかしながら、特許庁は、本件条約出願を拒絶するのでは無く、出願人に出願補正の機会を与えるのが適当である。手続き法は、公平・公正な手続きを救済すべきであり、それを妨害するものであってはならない(The State of Punjab and Anr. Vs. Shamlal Murari and Anr.)。特許出願権の証拠を提出する機会を与えるために本件は特許庁に差し戻されるべきである。特許出願権の証拠不提出に係る拒絶査定は取り消す。
[1] 基礎出願の出願人と、パリ条約の優先権を主張した条約出願の出願人が同一であるため、特許出願権の証拠は通常求められないと考える。理由は定かでは無いが、本ケースでは特許出願権の証拠の提出が求められている。
⇒第2回に続く
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