先に損害賠償の支払された場合に国民健康保険法64条1項に基づき代位取得額 - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
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閲覧数順 2017年10月17日更新

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先に損害賠償の支払された場合に国民健康保険法64条1項に基づき代位取得額

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相続

先に損害賠償の支払された場合に国民健康保険法64条1項に基づき代位取得する額
最高裁判決平成10年9月10日
裁判集民事189号819頁、判例タイムズ986号189頁
求償金請求事件
【判示事項】 国民健康保険の保険者からの療養の給付に先立って自動車損害賠償保障法16条1項の規定に基づく損害賠償額の支払がされた場合に右保険者が国民健康保険法64条1項の規定に基づき代位取得する損害賠償請求権の額
【判決要旨】 国民健康保険の被保険者である交通事故の被害者が、保険者から療養の給付を受けるのに先立って、自動車損害賠償保障法16条1項の規定に基づき損害賠償額の支払を受けた場合には、保険会社が支払に当たって算定した損害の内訳のいかんにかかわらず、右被保険者の第三者に対する損害賠償請求権は右支払に応じて消滅し、右保険者は、国民健康保険法64条1項の規定に基づき、療養の給付の時に残存する額を限度として損害賠償請求権を代位取得する。
【参照条文】 国民健康保険法64条、自動車損害賠償保障法16条1項
 一 本件は、国民健康保険事業を行う保険者であるX(市)が、国民健康保険を使った治療を受けた交通事故の被害者Aの加害者Yに対する損害賠償請求権を、国民健康保険法(以下「法」という。)64条1項に基づき代位取得したとしてその請求をする事件である。 Yは、昭和63年9月4日、交通事故を起こしてAに傷害を負わせた。
Aは、法36条に基づき保険者であるXから療養の給付を受けた。
Xが療養の給付に要した費用は96万7650円であり、法42条によりAが負担しなければならない一部負担金(給付額の3割)を除いたXの負担額は67万7355円であった。
一方、Aは、療養の給付の継続中及びその後に、Yが契約していた自賠責保険の保険会社から、自賠法17条に基づく仮渡金及び自賠法16条1項に基づく内払金として4回にわたり合計120万円の支払を受けていた。
Xが、Xの負担額に過失相殺による減額(7割)を施した後の額20万3206円につき、法64条1項に基づき、AのYに対する損害賠償請求権を代位取得したとして、Yにその支払を求めたのが本件訴訟である。
Aの過失割合が7割であること、Aが被った身体傷害に基づく損害額が400万円超えないこと、したがって、AがYに対して取得した損害賠償請求権の額が120万円を超えないことは当事者間に争いのない事実である。
 Yは、保険会社からAに120万円が支払われたことによって、損害賠償義務を尽くしているから、XはAの損害賠償請求権を代位取得しないなどの抗弁を主張した。
なお、内払金の支払に当たり、保険会社が算定した損害賠償額の内訳は、Aの一部負担金、休業損害及び慰謝料であり、療養給付につきXが負担した費用は計上されていなかった。
 原判決は、(1)右内訳によると、保険会社の支払により療養の給付についてXの負担した費用と同一の事由につき支払があったといえないから、その部分の損害賠償請求権は消滅していない(2)保険会社の算定の内訳に示された治療期間からすると、保険会社の支払は療養の給付に遅れるから、その支払によって、Xが既に代位取得している損害賠償請求権に消長を来さない、としてYの抗弁を排斥してXの請求を認めた。
 二 これに対して、本判決は、自賠責の保険会社が自賠法16条1項の被害者請求に基づいてした損害賠償額の支払は、事故による身体傷害から生じた損害賠償請求権全体を対象としており、保険会社が損害賠償額の支払に当たって算定した損害の内訳は、支払額を算出するために示した便宜上の計算根拠にすぎないことを理由として、国民健康保険の被保険者の第三者に対する損害賠償請求権は、保険会社からの支払に応じて消滅し、Xは、療養の給付の時に残存する額を限度として、Aの損害賠償請求権を代位取得することを明らかにした。
なお、自賠法17条に基づく仮渡金については、同法16条1項に基づき支払われる損害賠償額の一部先渡しであるとして、仮渡金についても右と同様に解すべきものとした。
そして、本件の事案のもとで、Xが代位取得する損害賠償請求権の額を算出するためには、審理が不足していることを説示して、本件を原審に差し戻したのである。
 三 国民健康保健法に基づく保険給付の原因となる事故が第三者の行為によって惹起され、第三者が被保険者に生じた損害につき賠償責任を負うべき場合、被保険者は保険給付を求めることも、第三者に対して損害賠償請求を行うこともできるが、保険者が先に保険給付をしたときは、被保険者の第三者に対する損害賠償請求権は右給付の価額の限度(ただし、被保険者が負担しなければならない一部負担金に相当する額を除く。)で保険者に移転し(法64条1項、いわゆる代位取得)、第三者が保険給付に先立ちこれと同一の事由について被保険者に対して損害賠償をしたときは、保険者はその価額の限度で保険給付をしないことができ(法64条2項)。
仮に保険給付をしても、被保険者の第三者に対する損害賠償請求権が弁済により消滅しているので損害賠償請求権を代位取得することはできない。
同一の事由により、二重に損害がてん補される不合理を防止するために、このような制度が定められているもので、同様の規定は労災保険法12条の4、厚生年金保険法40条、健康保険法67条などにも置かれている(社会保険給付と損害賠償の関係について、西村健一郎「社会保険給付と損害賠償」民商93巻臨増(2)406頁など)。
 法64条1項の代位取得の要件は、(1)給付事由が第三者の行為によって生じたこと、(2)被保険者の第三者に対する損害賠償請求権が存在していること、(3)保険者が保険給付を行うことである(厚生省保険局国民健康保険課監修・逐条詳解国民健康保険法252頁、炭谷茂=井口直樹・国民健康保険における第三者行為の理論と実務20頁、厚生省保険局国民健康保険指導室監修・国民健康保険第三者行為求償事務の手引き25頁参照)。
右の要件を満たす場合、保険者が行った給付の価額の限度(ただし、一部負担金相当額を除く。)において被保険者の第三者に対して有する損害賠償請求権は、給付の都度当然保険者に移転すると解される(最3小判昭42・10・31裁判集民事88号869頁参照)。
 本判決が取り上げた被告の抗弁は、(2)の要件を争うものであり、自賠法17条及び16条1項の規定に基づく請求に応じて保険会社がした支払によって、Xが代位取得すべき損害賠償請求権が消滅したかどうかが問題となる。
 ところで、「同一の事由」の意義につき、最2小判昭62・7・10民集41巻5号1202頁は、保険給付の対象となる損害と民事上の損害賠償の対象となる損害とが同性質で、保険給付と損害賠償とが相互補完性を有する関係にあることをいうと述べているところ、原審は、自賠責保険の保険会社が行った算定による損害の内訳を基準とし、保険会社から支払われた損害賠償額は、国民健康保険による療養の給付に要したXの負担額と同一の事由の関係にある損害を対象としたものではないし、また、右支払は療養の給付に先立ってされたものでもないとして、Xが代位取得すべき損害賠償請求権は消滅していないと判断したものである。
 しかし、自賠責保険の被害者請求に対する損害賠償額の支払は、事故による身体傷害から生じた損害賠償債務の支払であるから、その支払によって身体傷害を理由とする損害賠償請求権(これは、請求権として1個である。最1小判昭48・4・5民集27巻3号419頁)は、その支払額だけ減少するのであって、単に便宜上の計算根拠を示したものにすぎない保険会社が算定した損害の内訳によって充当関係が生ずるものではない。
 前掲62年最判が明らかにしているように、労災保険給付などの社会保険給付は、損害の一般的なてん補を目的としたものではなく、それぞれ一定の要件の下に各種の保険給付をするものであるから、給付の実質的性質に応じてどの損害にてん補されるのかが考慮されるのであるが、自賠責保険による被害者への損害賠償額の支払はそのような性質の給付ではないのである。
また、自賠法17条に基づく仮渡金が16条1項の規定による損害賠償額の一部前渡しの性質を有するものであることも異論のないところであろう(注解交通損害賠償法155頁[成瀬=小林執筆分]など)。
 右のとおり、本判決は、個々の論点について異論のないところに基づき、自賠責保険による損害賠償額の支払と療養の給付が前後する場合における、法64条1項による代位取得額の算定方法を明らかにしたものであり、実務上参考になるとともに、自賠法に基づく損害賠償額の支払に当たり保険会社が算定した損害の内訳に何の拘束力もないことを明らかにしている点において意義ある判決といえよう。
なお、Xは、国民健康保険(健康保険も同じ)における求償実務の取扱(前掲、「第三者行為の理論と実務」47頁、昭54・4・2保険発24号、庁保険発6号)に従い療養の給付の価額のうちのXの負担分に過失相殺を施した額につき代位取得を主張し、本判決も右主張に沿って判断を行っている。
この点、本件ではこの点につき何ら議論はされていないので、本件判決が、国民健康保険についていわゆる控除後過失相殺説に立つものかどうかは不明である
ただし、労災保険については、最12小判平1・4・11民集43巻4号209頁がいわゆる控除前過失相殺説に立つことを明らかにしている。