最判平成10年12月18日、花王化粧品販売(江川企画)事件 - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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最判平成10年12月18日、花王化粧品販売(江川企画)事件

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相続

最判平成10年12月18日、花王化粧品販売(江川企画)事件
裁判集民事190号1017頁、判例タイムズ992号98頁
地位確認等請求本訴、契約上の地位不存在確認請求反訴事件

【判決要旨】 卸売業者が小売業者に対してカウンセリング販売を義務付ける特約店契約中の約定が独占禁止法19条に違反しない場合には、右小売業者に対して特約店契約を締結していない小売店等に対する卸売販売を禁止することも、同条に違反しない。

【参照条文】 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律2条9項、19条
  不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)12項、13項

 一 本判決は、花王化粧品販売事件の最高裁判決であり、資生堂東京販売事件とほぼ同一の論点について争われ、同判決と同日に、第3小法廷によって言い渡されたものである。
 本件の事案は次のとおりである。
本件の原告は化粧品の小売業者、被告は花王化粧品の卸売販売を行っている会社であり、両者は特約店契約を締結して取引を継続していた。
特約店契約には、特約店は販売に当たり、カウンセリング販売、すなわち顧客に対して化粧品の使用方法などを説明したり、化粧品について顧客からの相談に応じたりして、これを積極的に推奨販売することが義務付けられていた。
ところが、原告は、被告との取引開始後、被告から仕入れた化粧品の大部分を、資生堂事件の原告である富士喜本店(富士喜本店は、本件の被告とは特約店契約を締結していない)に卸売販売するようになった。
被告は、原告との取引高が他の特約店と比較して著しく多額になったことから、原告が商品を特約店以外に卸売販売(仲間取引)しているのではないかと疑い、販売方法を確認しようとしたが、原告は事実関係を明らかにしなかった。
被告は、原告がカウンセリング販売の義務に違反するとともに、カウンセリング販売の約定に伴う卸売販売禁止の約定にも反しているとして、特約店契約に定められた解約条項(当事者は、予告期間を置いて特約店契約を解約できるとの条項)に基づき特約店契約を解約した。
そこで、原告が、解約は権利濫用・信義則違反・公序良俗違反に当たるとしてその効力を争い、被告に対して、契約上の地位を有することの確認と化粧品の引渡を求めたのが本件訴訟である。なお、被告は、原審において原告は契約上の地位にないことの確認を求める反訴を提起した。
 一審判決(東京地判平6・7・18判例タイムズ961号103頁)は、(1)本件解約条項に基づき本件特約店契約を解約するには、やむを得ない事由は必要ではない、(2)被告による解約は、再販売価格を維持する目的でされたものであり、独禁法上到底許されないものである、カウンセリング販売の義務付けは、採算面から値下げ販売を断念させようとする意図がないわけでもなく、独禁法にいう不公正な取引方法に該当しかねないなどの理由から、本件解約は権利濫用に該当するとして、原告の請求を一部認容した。
 原判決(東京高判平9・7・31判例タイムズ855号111頁)も、本件解約条項に基づく解約は、信義則違反等の一般条項による制約がない限り、やむを得ない事由がなくとも許されるとの前提に立って、信義則違反・権利濫用・公序良俗違反の該当性を検討し、(1)被告による解約は、原告による契約違反を原因とするもので、原告の値引販売を止めさせるためにされたものとは認められない、(2)カウンセリング販売の約定は、一応の合理性があることなどからすると、一般指定13項にいう「拘束条件付取引」に該当しないし、販売方法に関する制限を手段として再販売価格の制限を行っていると認めることもできない、(3)卸売販売の禁止の約定も、それが独禁法に反しないカウンセリング販売という販売方法の実効性を担保する以上のものでないことから、独禁法に反しない、(4)原告の特約店契約違反の態様等からすれば両者の信頼関係は破壊されている、といった理由から、原告の主張を退け、本件解約を有効と認め、原告の請求を棄却し、被告の反訴請求を認容したのである。
 そこで、原告は、カウンセリング販売、卸売禁止の約定及び本件解約は、独禁法19条が禁ずる不公正な取引方法、現行法では改正後の独禁法2条9項4号に定める「相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもって取引すること」のうち、一般指定(昭和57年公正取引委員会告示第15号(不公正な取引方法))13項に定める「拘束条件付取引」ないし一般指定12項に定める「再販売価格の拘束」に該当し、これを認めなかった原判決の判断には法令解釈の誤りがある等と主張して上告した。
 二 本件判決は、カウンセリング販売の約定が、一般指定12項及び13項に該当しないとの判断については、資生堂東京販売事件の判断と同様の判断を示すとともに、卸売販売の禁止の約定について、被告と特約店契約を締結しておらずカウンセリング販売の義務を負わない小売店等に商品が売却されてしまうと、特約店契約を締結して販売方法を制限し、花王化粧品に対する顧客の信頼(ブランドイメージ)を保持しようとした本件特約店契約の目的を達することができなくなるから、被告と特約店契約を締結していない小売店等に対する卸売販売の禁止は、カウンセリング販売の義務に必然的に伴う義務というべきであるとの理由から、カウンセリング販売を義務付けた約定が独禁法19条に違反しない場合には、卸売販売の禁止も、同条に反しないとの判断を示した。
 三 卸売販売の禁止は、取引先の選択の自由の一形態であり、原則として事業者の自由に委ねられてはいるものの、独禁法上違法な行為の実効を確保する手段として用いられる場合には独禁法上問題となり得ると解されている。
ところで、公正取引委員会が平成3年7月に公表した「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(ガイドラインは、メーカーが流通業者に対して、商品の横流しをしないよう指示すること(仲間取引の禁止)は、「安売りを行っている流通業者に対して自己の商品が販売されないようにするために行われる場合など、これによって当該商品の価格が維持されるおそれがある場合には、不公正な取引方法に該当する」と定めており、右ガイドラインの規定を文字通りに読めば、あたかも、横流しの禁止をする目的の如何を問わず、横流しの禁止により客観的に価格維持の効果が生ずるおそれがある場合には、ひろく不公正な取引方法に当たると解する余地がある。
そして、そのような解釈を前提に、本件の場合にも、卸売販売の禁止によって価格維持の効果が生ずるおそれがあることを理由として、不公正な取引方法に当たるとの主張をする見解も見られた。
 しかし、ガイドラインの右規定に対しては、禁止行為の基準として明確でないとの批判があり、たとえば、訪問販売、対面販売、店頭販売を義務付ける場合には、安売業者への横流し禁止は、これらの販売方法の義務付けに必然的に伴うものであるから、右販売方法が独禁法上問題にならない場合には、この点の判断が優先し、取引先の制限も許されるべきであるとの主張がされていた(村上政博『独占禁止法(第4版)』340頁など)。
また、公正取引委員会も、特約店契約によって販売方法に関する義務(例えば対面販売義務)を負う小売業者以外の者に品物を転売することを制限することは、右販売方法の制限が独禁法上問題となるものでなければ、これも独禁法上問題とならないとの解釈を採っているようである(公取委事務局・不公正な取引方法に関する相談事例集〔平成7年10月〕9頁)。
本件判決は、このような見解と同様に、本件において特約店契約によって卸売販売を禁ずることは、独禁法に反しないと判断したものと思われる。
なお、特約店契約を締結し、カウンセリング販売の義務を負っている他の小売店に対する転売さえも禁ずるような卸売販売・仲間取引の禁止は、販売方法の制限の実効性を確保するために必要なものとはいえないので、これによって価格が維持されるおそれがある場合には独禁法上問題となろう。
 四 なお、継続的供給契約を解約条項(一定の猶予期間をおいて当事者のどちらからでも解約できるとの条項)に基づき解約することは、信義則違反等の一般条項による制限を除いて自由にすることができるのか、それとも解約には「やむを得ない事由」が必要なのかという問題について、資生堂事件の原判決と本件の原判決は判断を異にしている。
この問題については、上告理由にもされていないために、最高裁は全く触れていないが、仮に、本件で「やむを得ない事由」が必要との見解に立つのならば、最高裁が原判決の結論を維持する場合にも何らかの説示をすることが必要であったものと解される。 そうすると、最高裁は、両事件の事案の下において当該解約条項に基づき解約をするには「やむを得ない事由」は不要との前提で判断を行っているものと一応推測できそうである。
 五 本件は、資生堂東京販売事件とともに、学説において一審判決、原判決に対する評価が分かれ、マスコミも注目していた事件において、最高裁が明確な判断を示した実務上重要な判例である。