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村田 英幸
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村田 英幸
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Blog201402、労働安全衛生法の刑事事件の最高裁判例

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Blog201402、労働安全衛生法の刑事事件の最高裁判例

最高裁決定昭和51年12月10日、労働安全衛生法違反被告事件

刑集30巻11号1919頁、判例タイムズ345号302頁

し尿処理施設に設置された活性汚泥槽は、労働安全衛生規則533条の「転落することにより火傷、窒息等の危険を及ぼすおそれのある煮沸槽、ホッパー、ピット等」に含まれる。

【参照条文】労働安全衛生法21条2項、27条1項、119条、労働安全衛生規則533条

 労働安全衛生法21条2項は、「事業者は、労働者が墜落するおそれのある場所、土砂等が崩壊するおそれのある場所等に係る危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。」と規定し、また、同法27条1項は、「第20条から第25条までの規定により事業者が講ずべき措置……は、労働省令で定める。」と規定する。これをうけて、労働安全衛生規則533条は、「事業者は、労働者に作業中又は通行の際に転落することにより火傷、窒息等の危険を及ぼすおそれのある煮沸槽、ホツパー、ピツト等があるときは、当該危険を防止するため、必要な筒所に高さが75センチメートル以上の丈夫なさく等を設けなければならない。」と定めている。

 本件は、奈良県葛城地区清掃事務組合が、し尿処理施設を有し、そこに設置されている活性汚泥槽が、長さ約27・7メートル、幅約3・9メートル、深さ約5・4メートルのコンクリート造りの槽四槽からなり、常時汚水が滞留し、その汚水が常に上下に撹伴されていて、その周囲には、昼夜作業員が巡回する通路があるのに、その周囲に高さが75センチメートル以上の丈夫な柵を設けるなどして、作業員の危険防止に必要な措置を講じなかった、として起訴されたものである。

第1審、控訴審を通じての最大の争点は、活性汚泥槽が「転落することにより火傷、窒息等の危険を及ぼすおそれのある煮沸槽、ホツパー、ピツト等」に含まれるかということであった。

第一、二審ともにこれを積極に解し、奈良県葛城地区清掃事務組合を罰金4千円に処した。

 本件の問題点は、例示されている「煮沸槽、ホツパー、ピツト」はいずれも転落した場合に生命、身体に対する侵害の蓋然性が高度である場合であるのに対し、活性汚泥槽の場合には、転落しても生命、身体に対する侵害の蓋然性が必ずしも高度とはいえないが、積極に解してよいかという点及び活性汚泥槽は、その形状から考えて「煮沸槽、ホツパー、ピツト等」に含まれると解してよいかという点である。

 本決定は、原判決(大阪高判昭51・2・24判例タイムズ337号305頁)の判断を支持し、これを積極に解したものである。

 労働安全衛生規則533条の規定上の文言からすると、やや遠い感じがしないではないが、「火傷、窒息等の危険を及ぼすおそれ」という文言は、労働者の生命、身体に対し危険を及ぼす可能性が相当程度にある場合を含む趣旨であると解することができるし、また、「煮沸槽、ホツパー、ピツト等」というのは、労働者が作業等をする現場に存在する上部開口の穴、窪み状のもの一般をいうものと解することができるから、本決定は支持されるものと思われる。

 これまで判例、行政解釈はもとより、学説もない点について、初めて最高裁の判断が示されたものである。

最高裁判決平成171221日、労働安全衛生法違反被告事件

判例タイムズ1199号197頁

労働安全衛生法15条1項にいう「特定元方事業者」の解釈適用が争われた事例

 1 本件は,被告会社が受注したマグネシウム集じん機へのダクト配管等の工事(以下「本件工事」という。)の作業現場で,作業員がアーク溶接により配管部分を同集じん機に取り付けようとした際,内部に残存していたマグネシウム粉じん又は内部で発生した水素ガスに溶接機の火花が引火して爆発する事故が発生し,作業員3名が負傷した労働災害に関し,被告会社の従業者が,関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われることにより生ずる労働災害を防止するために必要な労働安全衛生法30条1項2号所定の措置(作業間の連絡及び調整を行うこと)を講じなかったとして,被告会社が,両罰規定である同法122条により刑事責任を問われた事案である。

 2 労働安全衛生法30条1項は「特定元方事業者は,その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われることによって生ずる労働災害を防止するため,次の事項に関する必要な措置を講じなければならない。」とし,同項2号は「作業間の連絡及び調整を行うこと」と規定している。

労働安全衛生法30条1項にいう「特定元方事業者」とは,「事業者で,一の場所において行う事業の仕事の一部を請負人に請け負わせている者(当該事業の仕事の一部を請負人に請け負わせる契約が二以上あるため,その者が二以上あることとなるときは,当該請負契約のうち最も先次の請負契約における注文者)のうち,建設業その他政令で定める業種に属する事業を行う者」をいう。

「関係請負人」とは,「請負人及び元方事業者の当該事業の仕事が数次の請負契約によって行われる場合の当該請負人の請負契約の後次のすべての請負契約の当事者である請負人」をいうとされる(労働安全衛生法15条1項)。

そして,罰則規定である労働安全衛生法120条は「次の各号のいずれかに該当する者は,50万円以下の罰金に処する。」とし,その1号は「第30条第1項(中略)の規定に違反した者」と規定し,両罰規定である同法122条は「法人の代表者又は法人若しくは人の代理人,使用人その他の従業者が,その法人又は人の業務に関して,(中略)第120条の違反行為をしたときは,行為者を罰するほか,その法人又は人に対しても,各本条の罰金刑を科する。」と規定している。

 3 前記爆発事故の発生に至る経緯等は,本決定の反対意見の2で示されているとおりであるが,本件起訴は,被告会社が労働安全衛生法所定の「特定元方事業者」であり,被告会社から本件工事を下請けしたAは同法122条所定の被告会社の「従業者」に当たるとして,被告会社の刑事責任を問うものであった。これに対し,被告会社は,自社は特定元方事業者に当たらず,Aも被告会社の従業者とはいえないと主張して,事実を争った。1審判決は,被告会社は特定元方事業者に,Aは被告会社の従業者にそれぞれ当たるとした上で被告会社を有罪と認めて罰金20万円に処し,被告会社からの控訴を受けた控訴審判決も,第1審判決を是認して控訴を棄却したので,被告会社が更に上告に及んだ。上告審でも被告会社の「特定元方事業者」性及びAの「従業者」性が主たる争点となった。

 本決定の法廷意見は,弁護人の上告趣意は,事実誤認,単なる法令違反の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらないとして,被告会社の上告は棄却すベきものとした。

これに対し,上田裁判官は,原判決には労働安全衛生法にいう「特定元方事業者」の解釈適用につき明らかな法令違反があり,これを破棄しなければ著しく正義に反すると認められるから,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すべきである旨の反対意見を示されている。

堀籠裁判官の補足意見はこれに対するものである。

前記のとおり,特定元方事業者は事業の仕事の一部を請負人に請け負わせている事業者であり,換言すれば,特定元方事業者といえるためには,事業者自らも仕事の一部を行うことが必要であるため,本件において被告会社がAとの間で締結した,いわゆる「丸投げ」とみられるような下請契約でも,その元請業者が特定元方事業者となり得るのかが問題となるところ,補足意見及び反対意見はいずれもこの点にかかわるものである。

 4 本決定の法廷意見は,いわゆる例文処理をしたものであり,職権による判示はなされていない。

注目されるのは,反対意見も補足意見も,特定元方事業者であるためには,事業者自らも仕事の一部を行う必要があるところ,前提として、これにはいわゆる「施工管理」のみを行う場合も含まれると解している点である。(昭47.9.18基発602号も同様)。

「施工管理」とは,「工事の実施を管理すること」で,「工程管理,作業管理,労務管理等の管理を総合的に行う業務」をいい,通常、総合工事業者が行っている業務がこれに該当するとされている(昭47.11.15基発725号。基発は旧労働省(現厚生労働省)労働基準局長の通達)。

特定元方事業者であるためには,事業者自らも仕事の一部を行う必要があるところ,これにはいわゆる「施工管理」のみを行う場合も含まれると解している点は、行政解釈(昭47.9.18基発602号)も同様である。

学説(金谷暁「労働安全衛生法(三)」研修410号32頁,多和田隆史「特定元方事業者及び注文者に対する特別規制について」研修563号297頁)も、これを支持する。

法廷意見もこの点に関しては特段の異論を差し挟まなかったものと推察される。

 以上のとおり,本件は,職権判示のなされた事案ではないが,付された補足意見及び反対意見は,いずれも労働安全衛生法所定の「特定元方事業者」及び「従業者」の解釈適用につき,有益な示唆を与えるものと思われる。