- 河野 英仁
- 河野特許事務所 弁理士
- 弁理士
対象:企業法務
- 尾上 雅典
- (行政書士)
- 河野 英仁
- (弁理士)
〜従属クレームを独立クレームに書き換えた際の均等論の適用〜
Honeywell International Inc., et al.
Plaintiffs- Appellants,
v.
Hamilton Sundstrand Corp.,
Defendant-Appellee.
河野特許事務所 執筆者 弁理士 河野英仁 2008年7月4日
3.CAFCでの争点
均等物は補正時に予測不可能であったか?
均等物が補正時において予測不可能なものであったことを立証できれば、均等論を主張することができる。予測不可能なものとしては補正時において存在しない技術、例えば補正後に生じた新技術などが該当する。
本事件では、「補助パワーユニット内が高流量か低流量かを検出するためにIGVの開閉位置機能を利用」することが、予測不可能であったか否かが問題となった。
減縮補正の根本的理由が均等物とほとんど関係がないか?
減縮補正を行った場合でも、その補正が均等物とほとんど関係がないことを立証できれば、均等論を主張することができる。本事件においてはIGVを含む従属クレームを独立クレーム形式に書き換える補正を行っており、当該補正が均等物にほとんど関係がないか否かが問題となった。
4.CAFCの判断
均等物は予測可能であった
CAFCは、均等物、すなわち「補助パワーユニット内が高流量か低流量かを検出するためにIGVの開閉位置機能を利用」することは、後に生じた技術ではなく、補正時に予測可能な技術であると結論づけた。
出願前に登録された第3者のU.S. Patent No. 4,164,035はサージ制御システムをクレームしており、またIGVの開閉位置が流量に影響を与えるということも記載していた。さらに双方の証人は、効率的にサージを制御するために、IGVの開閉位置情報を利用することは1970年代において考慮されるべき事項であると証言した。CAFCはこれらの証拠に基づき、補正時において均等物は予測不可能とはいえないと判示した。
補正の理由は均等物に直接関係する
CAFCは、従属クレームから独立クレーム形式へ補正したその理由は均等物に直接関係し、禁反言の推定を反駁できないと判示した。
出願当初の独立クレームは、センサ、並びに、比例及び積分制御を用いるサージ制御システムを開示している。しかしこれらのクレームは先行技術の存在により自明と判断された。出願当初の従属クレームは、独立クレームに書き換えられた。
出願当初の従属クレームは、IGVの限定を含んでおり、サージ制御システムにおけるIGVの構造及び機能をクレームしているものである。従って、原告が従属クレームから独立クレームに書き換えた場合、それはIGVを追加する補正に代わりはなく、同じくIGVに関する均等物と直接的な関連性を有する。
以上ことから、CAFCは補正の根本的理由が均等物とほとんど関係がないとはいえないことから、禁反言に対する推定の反駁を退けた。
5.結論
CAFCは、原告の禁反言推定の反駁を退け、均等論の主張を認めないとした地裁の判決を支持した。
6.コメント
均等論と禁反言との関係について簡単に解説する。
(1)均等論と禁反言との関係
権利範囲の解釈にあたってはクレームを文言どおりに解釈する文言解釈が原則である。しかしながら、文言解釈を厳格に適用した場合、文言に合致しない迂回技術を採用することで第3者が容易に特許の網をすり抜けることができてしまう。
このような不合理を回避するために、クレームの文言に加え、これと均等な範囲にまで権利範囲を拡張する均等論が存在する。均等論は権利範囲を拡張するものであるが、いきおい権利範囲が無制限に拡張する虞もある。均等論における権利範囲の拡張を制限する法理として禁反言の法理(意識的除外論)が存在する。
均等論と禁反言とは相対立する概念であり、特許権者は均等論を主張し、被告は禁反言を抗弁として主張する。均等論及び禁反言に関しては、米国においてFesto最高裁判決により、フレキシブルバーの原則が確立した。
(2)Festo最高裁判決
2002年になされたFesto最高裁判決以前においては、均等論とこれに相対立する概念である禁反言との関係が明確ではなかった。ところが、遡ること2年前、CAFC大法廷がなした判決により一気に議論が白熱した。CAFCは、審査過程において特許性に関する補正を行った場合、禁反言により均等論の主張は一切認められないと判示した。これはコンプリートバーと呼ばれ、補正を行った場合は、均等論の主張が一切認められなくなるものである。
審査過程において補正を行うことは特許実務においてごく当たり前のことであり、この補正をもって均等論の主張を一切排除するのは妥当ではない。このようなことから、議論は最高裁に持ち込まれ、最高裁は、特許性に関する補正があった場合でも、一定条件下で、均等論の主張を認めるフレキシブルバーを判示したのである。
(3)反駁3要件
図3は禁反言と均等論との関係を示す説明図である。審査過程において特許性に関する補正を行った場合、禁反言が推定され原則として、均等論は主張できない。しかし、3要件のいずれかを特許権者が立証した場合、禁反言の推定を反駁でき、均等論を主張することができる。
図3 禁反言と均等論との関係を示す説明図
(4)現在の状況
本事件においては、第1要件及び第2要件による反駁を原告が試みたが失敗に終わった。Festo最高裁判決以降、禁反言の推定の反駁に成功し、均等論の主張が認められたのは第2要件のみである。
実務上、審査の段階で米国特許法第102条または103条の拒絶を回避するために、独立クレームを削除して従属クレームを独立クレームに書き換えることが多い。このような場合、均等論の主張が制限される可能性があることに留意すべきである。
判決 2008年4月18日 以 上