- 塚本 有紀
- フランス料理・製菓教室「アトリエ・イグレック」 主宰
- 大阪府
- 料理講師
対象:料理・クッキング
- 黄 惠子
- (料理講師)
10数年前にお菓子教室をスタートさせたとき、「できることならベーキングパウダー(以下BP)を使わずにお菓子を作っていこう」と決めました。
それはパリで料理学校に通っていたときに製菓講座のおじいちゃん先生が、BPなしでお菓子をすいすいと作る姿を見たのがきっかけです。レシピには書かれていたとしても、どうしても必要なとき(たとえばマドレーヌのぷっくりしたおへそ)以外は、使われないのです。それまでお菓子作りには絶対に必要なものと思い込んでいましたが、「なくてもできるのだ!」と知ったことは、鮮烈な驚きでした。
教室を始めた当初は「私もなくてもできるものだけ、使わないでおこう」との思いでしたが、結局今まで一度も使うこともなくここまで来てしまいました。大半のお菓子は、少しの工夫で問題なく作れます。前述のマドレーヌも違う方法で、ひそやかですが、おへそをだすことができます。
身体に害はないとされますが、薬品ですから、使わないですむならそれにこしたことはないと思っています。しかしBPの存在を糾弾したいのではありません。BPを使わずに作り続けてきた間に身にしみて分かったことは、世の中(とくにお菓子屋さん)には必要だということです。季節、天候、素材の変更、作り手の変化によるちょっとしたブレをカバーしてくれるのです。逆に言えば、「BPって、なんてすごい発明なのだろう!」思うくらい。回り道とも思える試行錯誤を繰り返し、たくさんの失敗を経て、でもそれでも素材の力とちょっとした技術があれば、どうにかなるものだという結論にたどり着きました。
たとえばもっとも活用するのが、メレンゲの力です。メレンゲは立て方、使う砂糖の量、入れるタイミングなどでその力をコントロールできます。シフォンケーキなんてまったく問題なし! 重たいバターケーキも、メレンゲの力できちんと膨らみます。
これまででもっとも困ったのは、ケーク・サレcake salé、塩味のケーキです。メレンゲに砂糖を使うことができないため、その力を強化できないのです。具は野菜やチーズなど、生地をひっぱるもの、水分の多いものばかり。こんなときは乾燥卵白でメレンゲを強化します。これはどこにも売っているものではないので、教室という性質上あまり使いたくはないのですが、致し方ありません。最後の手段なのです。
最近は伊那食品が焼成用の寒天「種助」を開発しているのを知り、使ってみました。卵白に添加するとメレンゲが強化され、生地に添加すると保湿効果が長持ちします。
アーモンドプードルも有効です。空気を抱いてくれるので、生地がふんわりします。
私が使っている小麦粉はオーガニック薄力粉で、通常のものより弱い性質を持っています。そしてオーヴンはデッキ式(直火)、つまりコンベクションのように風の強い力でふわっと持ち上げる、ということができません。私は密かにno BP、デッキオーヴン、オーガニック小麦の「三重苦」と呼んでいますが、それでも何とかなって、お菓子は焼けてきます。素材の力はすごいものなのです。
ただし自然素材だけに限定したお菓子作りに特化したいわけではありません。オーガニックシュガーも使っていますが、グラニュー糖がないと作れないものもたくさん。使うことなくここまで来られてしまいましたが、それでもこれからも「薬品は使わないですむなら、使わないでおこう」がモットーです。
(初出:all about専門家コラム 9/26/2010)