車の持込み運転手(傭車運転手)が労働基準法・労災保険法上の労働者に当たらないとされた事 - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
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鈴木 祥平
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閲覧数順 2017年04月27日更新

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車の持込み運転手(傭車運転手)が労働基準法・労災保険法上の労働者に当たらないとされた事

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相続

車の持込み運転手(傭車運転手)が労働基準法。労働者災害補償保険法上の労働者に当たらないとされた事例
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最高裁判決平成8年11月28日、療養補償給付等不支給処分取消請求事件
訟務月報44巻2号211頁、最高裁判所裁判集民事180号857頁、判例タイムズ927号85頁

【判示事項】 車の持込み運転手(傭車運転手)が労働基準法及び労働者災害補償保険法上の労働者に当たらないとされた事例

【判決要旨】 自己の所有するトラックを持ち込んで特定の会社の製品の運送業務に従事していた運転手が、自己の危険と計算の下に右業務に従事していた上、右会社は運送という業務の性質上当然に必要とされる運送物品、運送先及び納入時刻の指示をしていた以外には、右運転手の業務の遂行に関し特段の指揮監督を行っておらず、時間的、場所的な拘束の程度も、一般の従業員と比較してはるかに緩やかであったなど判示の事実関係の下においては、右運転手が、専属的に右会社の製品の運送業務に携わっており、同社の運送係の指示を拒否することはできず、毎日の始業時刻及び終業時刻は、右運送係の指示内容のいかんによって事実上決定され、その報酬は、トラック協会が定める運賃表による運送料よりも一割五分低い額とされていたなどの事情を考慮しても、右運転手は、労働基準法及び労働者災害補償保険法上の労働者に当たらない。

【参照条文】 労働基準法9条
       労働者災害補償保険法7条

 一 Xは、自己所有トラックを持ち込んで、特定の会社の指示に従って製品等の運送業務に従事する車の持込み運転手(傭車運転手)であるが、トラックに運送品を積み込む作業をしていたところ、足を滑らせて転倒し、第5頚椎脱臼骨折、右気胸、頭部外傷等の傷害を負った。
そこで、Xは、Yに対し、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)所定の療養補償給付及び休業補償給付の支給を請求をしたが、YがXは労災保険法上の労働者に当たらないことを理由に右各給付をしない旨の処分をしたため、その取消しを求めて本訴を提起した。
本件の唯一の争点は、傭車運転手であるXの労働者性の点にある。
 二 一般に、労災保険法上の労働者概念は労働基準法(以下「労基法」という。)上の労働者概念と一致すると解されているところ、労基法9条は、労働者とは、同法8条の事業又は事業所に使用される者で、賃金を支払われる者をいうと定めている。
右規定の定めるところによれば、労働者性の有無は、
〈1〉「指揮監督下の労働」という労務提供の形態と
〈2〉「賃金の支払」という報酬の労務に対する対償性
によって判断されることになるとするのが下級審裁判例、学説の一致するところであり、この二つの基準をもって「使用従属性」と呼称することが多い。
 「使用従属性」の有無を基準とする労働者性の判断は、具体的な労務の提供形態、報酬の労務対償性及びこれらに関連する諸要素を総合的に考慮して行っていくことになるが、これまでの下級審判例、行政解釈にかんがみ、これらの諸要素の位置付けと評価の仕方を整理したものとして、労働大臣の私的諮問機関である労働基準法研究会の昭和60年12月19日付報告書(労判465号69頁参照)が参考になると思われる。
右報告書が労働基準法上の労働者性の判断基準について述べるところによれば、
〈1〉 「指揮監督下の労働」に当たるか否かの具体的判断要素として、
① 具体的仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、
② 業務遂行上の指揮監督の有無、
③ 勤務場所及び勤務時間が指定され、管理されているかどうかという拘束性の有無
の3点が挙げられており、そのほか、指揮監督関係を補強する要素として、
④ 本人に代わって他の者が労務を提供することが認められているかという代替性の有無
が挙げられている。
〈2〉 「報酬の労務対償性」の点は、使用従属関係の判断の補強基準として位置付けられており、そのほか、
〈3〉 「労働者性」が問題となる限界的事例において、その判断を補強する要素として、① 事業者性の有無、
② 専属性の程度、
③ 選考過程(一般従業員の選考方法との異同)、
⑤ 源泉徴収の有無、
⑥ 社会保険料の負担の有無、
⑥服務規律の適用の有無
等の諸要素が挙げられている。
 三 傭車運転手は、その労働者性がしばしば争われる就労形態であって、下級審の裁判例も多い。
傭車運転手の労働者性を肯定したものとして、(1)富山地判昭49・2・22判時737号99頁、(2)金沢地判昭62・11・27判時1268号143頁、(3)大阪地決昭63・2・17労判513号23頁、(4)大阪地決平2・5・8判例タイムズ744号108頁、(5)大阪高決平4・12・21判例タイムズ822号273頁、(6)新潟地判平4・12・22判例タイムズ820号205頁があり、
労働者性を否定したものとして、(7)大阪地判昭59・6・29労判434号30頁、(8)名古屋高金沢支判昭61・7・28労民37巻4、5号328頁がある。
前記報告書においても、その就労形態に即した労働者性の判断基準が具体的に述べられている。
 本判決は、これまでの下級審裁判例や右報告書に指摘されたところを踏まえて、Xの労働者性を否定する判断を示したものであるが、本判決は、
〈1〉 Xがトラックという事業用の資産を所有し、自己の危険と計算の下に運送業務に従事していた点で一定の事業者性を有することを前提として、右事業者性を減殺して、その労働者性を積極的に肯定させるような事情があるかどうかという観点から本件の検討を進め、
〈2〉 Xに製品の運送をさせていた会社の指示は、運送という業務の性質上当然に必要とされる運送物品、運送先及び納入時刻の指示にとどまり、それ以外には業務の遂行に関し特段の指揮監督を行っておらず、時間的・場所的な拘束の程度も、一般の従業員と比較してはるかに緩やかであり、その間に指揮監督関係を肯定し得るような事情がないこと、
〈3〉 報酬がトラックの積載可能量と運送距離によって算出される出来高払いであることや報酬の支払に当たって所得税の源泉徴収、社会保険・雇用保険の保険料の控除がされていないなどの公租公課の負担関係からみても、Xの労働者性を肯定するに足りる事情はないこと、
〈4〉 Xが専属的に右会社の製品の運送業務に携わっており、その運送係の指示を拒否することができなかったことや報酬がトラック協会が定める運賃表による運送料より低額であったなどの事情だけでは、労働者性を肯定させるに足りないこと
等から、Xの労働者性を否定する判断を示したものである。
本判決は、事例判断であるが、傭車運転手の労働者性に関する初めての最高裁の判断であり、その判断の過程で示された諸要素とこれに対する評価は、今後のこの種事案の判断の参考になる。
 四 傭車運転手については、運送依頼者側では労働保険料の納付をしていないのが通例である。これによる経費節減が傭車運転手という就労形態を採る運送依頼者側のメリットの一つでもある。
このため、業務に起因する事故が生じてから、傭車運転手の労働者性が争われることになるケースが多い。
傭車運転手は、労働者性の認められない場合であっても、労災保険法27条3号所定のいわゆる一人親方(事業主)として「特別加入」の申請を行い、自ら保険料を納付することによって、業務に起因する事故に対する保険給付を受けるみちが開かれているのであり、本判決の説示するところが今後の特別加入の制度の適切な活用につながるものと推測される。