- 塚本 有紀
- フランス料理・製菓教室「アトリエ・イグレック」 主宰
- 大阪府
- 料理講師
対象:料理・クッキング
- 黄 惠子
- (料理講師)
通勤途中のお寿司屋さんの前にはいつも1匹の猫がいます。白に黒い斑があり、ちょっと太め。
だいたいは入り口のマットレスの上にどてんと身を投げ出し身体を嘗めているので、お客さんは猫をまたがないと店内に入れません。あるいは横にあるエアコンの室外機の上に寝そべって眠りこけているかのどちらかです。後から聞くところによると、じつは野良猫なのだそう。
いつだったかの夏のこと。通りかかるとそのお寿司屋さんはお盆休みのようでシャッターが降りていました。いつもの猫もいません。どこにいったのかしら? ちょっと「ブサカワ」な猫ですが、その様子を眺めるのは、私の小さい楽しみだったのに。と思いつつ通りすぎると、1軒はさんだ東隣のお寿司屋さんの前に寝そべっていました。
なんて賢いのかしら!
その翌々日のこと、通りがかると元のお寿司屋さんが開いていて、猫もちゃんと戻っていました。
猫にも贔屓のお店があり、でも生きていくためには次点の店もちゃんと用意しているのかと思うと、なんだかおかしくなってしまいます。いつものお寿司屋さんを贔屓にしているのは、たまにもらえる餌が大方の理由でしょうが、もしかしたら店主や女将さんの声、お客さんのざわめき、食器のふれあう音や料理のにおいが何とも心地よいのかもしれません。たまに起きている時は、マットレスの上に座ってガラスのドア越しにじっと店内を見つめているのです。
猫はこの空間がたまらなく好きなのだろうなあ。私が行くなら、やっぱりこっちのお寿司屋さんだなあ。楽しい想像を巡らせます。人間に置き換えても、外食する楽しみとは、料理そのものだけではないことを改めて思います。レストランに行く楽しみとは、ほかにもお皿や内装、サービスしてくれる人、それからお客さん自身がかもしだす、総合的な「何か」で成り立つものです。
でも野良のくせにあれだけ太っているということは・・・、やっぱり餌!?