最高裁決定平成4年2月18日、詐欺・商品取引所法違反被告事件 - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
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最高裁決定平成4年2月18日、詐欺・商品取引所法違反被告事件

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相続

最高裁決定平成4年2月18日、詐欺・商品取引所法違反被告事件

刑集46巻2号1頁、 判例タイムズ781号117頁

【判示事項】 商品先物取引に関して、いわゆる客殺し商法により顧客から委託証拠金名義で現金等の交付を受けた行為について詐欺罪の成立が認められた事例

【判決要旨】 商品先物取引に関して、いわゆる「客殺し商法」により顧客にことさら損失等を与えるとともに、いわゆる「向かい玉」を建てることにより顧客の損失に見合う利益を会社に帰属させる意図であるのに、顧客の利益のために受託業務を行うものであるかのように装って、取引の委託方を勧誘し、その旨信用した顧客から委託証拠金名義で現金等の交付を受けた行為(判文参照)は、詐欺罪(刑法246条1項)を構成する。

 一 本件は、先物取引に関して詐欺罪の成否が問題になった事案である。

先物取引に関しては、昭和30年代後半から40年代半ばにかけて国内の公設市場を舞台とする不正事犯が多発した後、乱立した私設市場における詐欺事犯が急増した。

そして、更に、海外先物取引をめぐる不正事犯が登場し、今後もなお増加する可能性があるとされているが(中村明「海外先物取引をめぐる不正事犯」金法1275号41頁)、本件は昭和45年から47年にかけての時期において、商品取引員(顧客からの商品取引所における売買注文を執行するための受託業務を行う者)として営業していた同和商品株式会社の社員らが顧客を勧誘し、総額5000万円に上る委託証拠金の交付を受けた行為に関連して、その幹部、管理職、外務員ら合計11名が詐欺により起訴された事案である(その他、同和商品に対する商品取引所法違反等も併せて起訴された。)。

 本件の最大の争点は、同和商品において、種々の方法(いわゆる「客殺し商法」や「向かい玉」)を用いて、客の取引に損失等を与えると同時にその損失に見合う利益を会社に帰属させる意図の下に、顧客の利益のために受託業務が行われるものと信用した顧客から委託手数料の交付を受ける行為が、詐欺罪の騙取に当たるといえるかどうかにあった。

 第1審判決は、被告人側の主張を容れて、「同和商品が種々の客殺し商法をとることを営業方針としていたとする点については、本件記録上これを認めるに至らない」として、委託証拠金は確実に返還する旨の具体的欺罔文言とともに勧誘が行われた4件のみについて詐欺罪の成立を認めた。

これに対して検察官が控訴し、控訴審判決は、検察官の主張を全面的に採用して、右の争点に関する原判断を破棄した。

これに対して被告人らから上告がされたが、本決定は、原判決の認定した事実関係を摘示した上で、それらの事実に照らせば、委託証拠金名義で現金等の交付を受けた被告人らの本件行為は、詐欺罪を構成する旨の職権判断を示して、上告を棄却した。

 二 商品取引員の外務員が先物取引を受託するに際して、

(1)取引の投機性に関して積極的な欺罔をした場合(例えば、損をしても委託証拠金だけは返還される旨の虚偽事実の告知)や、

(2)いわゆる「呑み行為」(商品市場における取引を実行しないこと)の意思であった場合に、委託証拠金の交付によって1項詐欺罪が成立することについては、おそらく異論がないと思われるが、本件では、すべての勧誘に当たって(1)のような形での欺罔があったとは認められず(したがって、顧客において商品取引の投機性は一応認識していたと考えられ)、しかも、同和商品側において市場における取引を行う意思もあったと解される点に特色がある。

本決定は、右のような場合であっても、委託証拠金の騙取に当たるとすべき事情が本件では肯定できるとしたものである。

 本件のような類型について詐欺罪を肯定することには、従来次のような問題点が示されていた。

第1に、法律的側面からの議論として、欺罔行為の中心は違法な行為をする目的を顧客に告げなかった不真正不作為にあると理解する見解がある(神山敏雄「先物取引をめぐる刑事責任」判例タイムズ701号131頁〔『経済犯罪の研究』第1巻104頁〕)。

この点に関して本決定の判文をみると、顧客に損失等を与え、その損失に見合う利益を同和商品に帰属させる意図を有するのに、同和商品が顧客の利益のために受託業務を行う商品取引員であるかのように装って、委託方を勧誘した点に欺罔性を認めており、作為であって、不作為による欺罔の事案とは理解していないと思われる。

 第2に、「基本的には、相場の動きによって顧客に確実に損害を与えることは不可能であるとの考え方によるべきである」として、業者が客殺しの手口を用いて損失を被らせようとする意図を秘して顧客に委託証拠金等の名目で金員等を交付させる行為自体について詐欺罪の成立を認めることは困難と解される」とする見解がある(郷原信郎「証券取引、商品取引と詐欺罪」『刑事実務大系8財産的刑法犯』407頁)。

右の見解の主張するところには明確でない点もあるように思われるが、本件のような類型において、詐欺罪の犯意の認定が重要なポイントとなることは否定できない。

すなわち、前述したとおり、本件は、被告人らにおいて商品取引所における顧客の取引を仲介する意思は認められる事案であったから、このような場合には、商取引上許される勧誘、受託の結果として客が損失を被ったのにすぎない事案(これは詐欺にはならない)と明確に区別されなければならず、そのためには、主観的要件の認定に当たって、営業の実態等をも踏まえた検討が必要となると思われる。

その意味からすると、本決定において、同和商品の営業に関する具体的事情として、(1)顧客の委託を受けて行う先物取引に関して、顧客にことさら損害等を与えるための各種の方策(いわゆる「客殺し商法」)を採ることと、(2)顧客の損失に見合う利益を会社に帰属させる手段として、会社自身が顧客の取引に対当する売買(いわゆる「向かい玉」)をすることを営業方針にしていたことが挙げられている点が注目されるのであって、本決定は、右(1)、(2)の方策が採用されていたことが、被告人らの犯意を認定するための重要な客観的事情を構成することを明らかにしているといえよう。

ただし、「客殺し商法」といっても、その定義が示されたわけではなく、原判決の用語法が便宜的に踏襲されたのにすぎないことは明らかであって、本決定はあくまでも事例判例と理解するのが相当であろう。

 三 本件と同様に、商品先物市場を舞台にしていわゆる「客殺し商法」及び「向かい玉」の営業方針の下に顧客を勧誘し委託証拠金の交付を受けたことが詐欺罪に当たるかが争われた事例としては、「マルキ商事」事件があるが(前記神山論文参照)、右事件は、最高裁における職権判断を経ることなく有罪が確定したため、本決定は、この種事犯における最初の最高裁判例として、実務上重要な意義を有すると思われる。

 先物取引全般については、判例タイムズ701号「特集・先物取引法の展開と課題」と題して、各種の論文や文献紹介等を掲載しているので、参照されたい。

J&R59号95頁にも文献等の一覧がある。

先物取引と詐欺罪の関係を論じた最近の論稿としては、片岡聡「商品取引の勧誘と犯罪」捜査研究456号10頁、長井圓『消費者取引と刑事規制』8頁等がある。