最高裁平成23年10月25日 債務不存在確認等請求及び当事者参加事件 - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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最高裁平成23年10月25日 債務不存在確認等請求及び当事者参加事件

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相続

最高裁平成23年10月25日 債務不存在確認等請求及び当事者参加事件
民集65巻7号3114頁、判例タイムズ1360号88頁

【判示事項】 個品割賦購入あっせんにおいて,購入者と販売業者との間の売買契約が公序良俗に反し無効であることにより,購入者とあっせん業者との間の立替払契約が無効となるか

【判決要旨】 個品割賦購入あっせんにおいて、購入者と販売業者との間の売買契約が公序良俗に反し無効とされる場合であっても、販売業者とあっせん業者との関係、販売業者の立替払契約締結手続への関与の内容および程度、販売業者の公序良俗に反する行為についてのあっせん業者の認識の有無および程度等に照らし、販売業者による公序良俗に反する行為の結果をあっせん業者に帰せしめ、売買契約と一体的に立替払契約についてもその効力を否定することを信義則上相当とする特段の事情があるときでない限り、売買契約と別個の契約である購入者とあっせん業者との間の立替払契約が無効となる余地はない。

【参照条文】 民法1条2項、民法90条
       割賦販売法(平成20年法律第74号による改正前のもの)2条3項
       割賦販売法(平成20年法律第74号による改正前のもの)30条の4
       割賦販売法2条4項
       割賦販売法35条の3の19

 1 本件は,信販会社Yの加盟店Aとの間で,Aの女性販売員による思わせぶりな言動を交えた勧誘に応じて,指輪等の宝飾品をその本来の価値を大きく上回る代金額で購入する売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し,Yとの間で,その購入代金に係る立替払契約(以下「本件立替払契約」という。)を締結したXが,Yから事業譲渡を受けたZ(個品割賦購入あっせん事業の譲渡に伴い,本件立替払契約に係る一切の債権債務がZに承継されたことについては,当事者間に争いがない。)に対し,①Ⅰ)本件売買契約は公序良俗に反し無効であるから,これと一体の関係にある本件立替払契約も無効である,Ⅱ)退去妨害による困惑又は不実告知による誤認の下に本件立替払契約の申込みをしたから,消費者契約法の規定(5条1項が準用する4条1項,3項2号)によりその意思表示を取り消したと主張して,不当利得に基づき,既払割賦金の返還を求めるとともに,②Yが加盟店の行為につき調査する義務を怠ったために,Aの行為による被害が発生したと主張して,不法行為に基づく損害賠償を求め,他方,Zが,Xに対し,本件立替払契約に基づく未払割賦金の支払を求める事案である(当初は,XがYを被告として訴訟を提起し,①,②の請求のほか,未払割賦金債務の不存在確認請求もしていたが,第1審において,Zが被告の債権債務を承継したとして承継参加の申出をするとともに,Zの側からもXに対する未払割賦金請求をし,Xは債務不存在確認請求を取り下げ,YはXの同意を得て訴訟から脱退した。)。
 2 第1審は,Xの主張を全て排斥して,既払割賦金返還請求及び不法行為に基づく損害賠償請求をいずれも棄却し,Yの未払割賦金請求を認容したのに対し,原審は,①本件売買契約は公序良俗に反し無効であるから,割賦販売法(平成20年法律第74号による改正前のもの。以下同じ。)30条の4第1項により,Xは未払割賦金の支払を拒むことができるとして,ZのXに対する未払割賦金請求を棄却し,②本件売買契約が無効であることにより本件立替払契約も目的を失って失効するとして,XのZに対する既払割賦金返還請求を認容し,③加盟店調査義務違反による不法行為の成立は否定して,既払割賦金を超える額(弁護士費用)の損害賠償請求は棄却したところ,Zのみが上告受理申立てをした。
 Zの論旨は,専らXのZに対する既払割賦金返還請求を認容した原審の判断の不当をいうものである。ZのXに対する未払割賦金請求を棄却した部分については理由書に記載がないため,この部分に関する上告は却下された。
 3 本件のように,信販会社と販売店との間で加盟店契約,販売店と購入者との間で売買契約,購入者と信販会社との間で立替払契約をそれぞれ締結して,購入者が販売店から商品を購入する際に,信販会社が販売店に対し商品代金相当額の一括立替払をし,購入者が信販会社に対し立替金に手数料を加えた額の分割払をする仕組みの取引(割賦販売法2条3項2号)は,「割賦購入あっせん」の一種であり,「個品割賦購入あっせん」と通称されている。
 割賦販売法30条の4第1項は,購入者が信販会社(割賦購入あっせん業者)から未払割賦金の支払の請求を受けたときは,販売店(割賦購入あっせん関係販売業者)に対する抗弁事由をもって対抗することができる旨規定しているが,この規定に基づき未払割賦金の支払を拒絶することができる場合に,さらに進んで,購入者の側から信販会社に対し,既払割賦金の返還を請求することができるかについては,明文の規定はない。
 割賦販売法30条の4第1項の規定の趣旨については,この規定が昭和59年の改正により新設されるまでの議論を反映して,これを確認的規定と解する説と,創設的規定であると解する説の対立があったが,最高裁判決平成2年2月20日・裁判集民159号151頁,判タ731号91頁は,同項の適用がない昭和59年改正前の個品割賦購入あっせんについて,販売店の債務不履行を原因として売買契約が合意解除された場合に,購入者がそのことを理由として信販会社からの未払割賦金の請求を拒むことができるかが争われた事案において,割賦販売法30条の4第1項の規定は,購入者保護の観点から抗弁の対抗を新たに認めた創設的規定であるとした上,昭和59年改正前においては,購入者は,売買契約の不履行の結果を信販会社に帰せしめるのを信義則上相当とする特段の事情があるときでない限り,売買契約の合意解除をもって信販会社の未払割賦金請求を拒むことはできないとの判断を示している。
 購入者から信販会社に対する既払割賦金返還請求の可否については,これまで当審の判例はなかったが,下級審の裁判例は,既払割賦金返還請求を否定するものが一般的であり,これを肯定したものは,原審のほかには,ほぼ皆無の状況にあった。
これに対し,学説上は,消費者保護の観点から,何らかの形で既払割賦金の返還請求をも肯定しようとする見解が有力に主張されており,とりわけ,近時は,複数の契約が密接に関連する場合に1つの契約の無効が他の契約に伝播してその無効を生ずる場合があるという議論(いわゆる複合契約論)の中で,この問題が取り上げられることが多くなったが,無効の伝播が生ずる要件やその理論的根拠につき,一定の見解が確立しているとはいえない状況にあった。
 このような中で,原審が,本件売買契約が無効であることにより本件立替払契約も目的を失って失効するとして,XのZに対する既払割賦金返還請求を認容したことは,これまでに例のない判断として注目を浴びたが,原審が,YはAの社会的相当性を逸脱した販売行為を知り又は容易に知り得ながら漫然と与信を行っていたとはいえないと判示して不法行為責任を否定する一方で,売買契約と立替払契約の本来的な一体性を強調して売買契約の無効が立替払契約の無効をもたらすとの結論を導いていることについては,その方向性に賛同する立場の論者からも,理由付けが十分でないとの指摘がされていた(尾島茂樹・判評614号7頁等)。
 4 第三小法廷は,平成2年判決を引用した上,個品割賦購入あっせんにおいて,購入者と販売店との間の売買契約が公序良俗に反し無効とされる場合であっても,①販売店と信販会社との関係,②販売店の立替払契約締結手続ヘの関与の内容及び程度,③販売店の公序良俗に反する行為についての信販会社の認識の有無及び程度等に照らし,販売店による公序良俗に反する行為の結果を信販会社に帰せしめ,売買契約と一体的に立替払契約についてもその効力を否定することを信義則上相当とする特段の事情があるときでない限り,売買契約と別個の契約である立替払契約が無効となる余地はないと判示した上,本件については,①AはYとの間に加盟店の一つであるという以上の密接な関係はないこと,②Yは,本件立替払契約の締結手続を全てA任せにはせず,Xの意思確認を自ら行っていること,③Yは,本件立替払契約の締結前にAの販売行為につき他の購入者から苦情の申出を受けたり公的機関から問題とされたことがなかったことなどに照らし,上記特段の事情があるということはできず,本件売買契約が公序良俗に反し無効であることにより本件立替払契約が無効になると解すべきではないと判示し,消費者契約法の規定による取消し及び不法行為の主張についても理由がないと判断して,Xの請求をいずれも棄却すべきものとした。
 これまでの議論の状況を踏まえると,本判決が本件の事実関係の下で購入者の信販会社に対する既払割賦金返還請求を棄却すべきものとしたこと自体には,特に目新しいところはないが,本判決が,信義則を根拠として,個品割賦購入あっせんにつき,売買契約が公序良俗に反し無効である場合にこれと一体的に立替払契約についてもその効力を否定すべき場合があり得るとの解釈を示すとともに,そのような場合に該当するか否かの判断に当たり考慮すべき事情を例示していることは,注目に値する。平成2年判決は,信義則に照らし実体法上の請求権の行使が許されない場合があり得ることを判示したものであるのに対し,本判決は,信義則を根拠として法律行為の効力の否定という実体法上の効果が導かれる場合があり得ることを判示したものであることからすると,本判決の意義は,平成2年判決が示した法理を単に踏襲するにとどまるものではないであろう。
 なお,平成20年の割賦販売法改正(平成21年12月1日施行)により,個品割賦購入あっせん(新法2条4項の個別信用購入あっせん)について,一定の要件の下に,購入者が信販会社に対し既払割賦金の返還を求めることができることが明文で規定されたが(新法35条の3の13第4項等),この改正により立法的解決が図られた範囲は限定的である。
または,現在進行中の民法債権法改正の検討作業においては,「複数の法律行為の無効」等の論点に関する議論の中で,割賦購入あっせんにおける売買契約の無効が立替払契約の無効をもたらすかという問題についても適用場面の一つとなり得ることを念頭に置いて議論が進められている模様である。
 5 本件は,結論としては購入者の信販会社に対する既払割賦金返還請求が否定された事案であり,具体的にどのような場合にこれが認められるかについては,今後の事例の集積をまつ必要があるが,本判決は,理論的にも,実務的にも,重要な意義を有する。