北京市高級人民法院特許権侵害判定指南の解説(第1回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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北京市高級人民法院特許権侵害判定指南の解説(第1回)

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北京市高級人民法院特許権侵害判定指南の解説(第1回)

 

2013年12月17日

執筆者 河野特許事務所

弁理士 河野英仁

 

1.概要

 2013年9月4日北京市高級人民法院は、特許権侵害判定指南(以下、指南という)を公開した。指南は全133条に及び、発明特許、実用新型特許及び外観設計特許侵害の有無を判断するにあたり、重要な事項をまとめている。

  指南は基本的に専利法、実施細則、司法解釈及び近年の最高人民法院判決に従った基本的事項を規定しているが、一部に北京市高級人民法院独自の解釈も規定されている。 

 本指南は法的拘束力を有するものではないが、北京市中級人民法院及び北京市高級人民法院が裁判管轄権を有する場合、本指南に応じた判断がなされることとなる。本稿では、日本企業が注意すべきポイントについて解説する。

 

2.特許有効の前提

(1)特許有効性の判断は復審委員会で行う

 中国において人民法院は、特許が有効であることを前提として審理を進める。指南第6条はこの点を明確にしたものであり、人民法院が民事訴訟において特許を無効と判断することはできない。被告側は人民法院において無効の抗弁を行うことができず、国家知識産権局の特許復審委員会に無効宣告請求を行う必要がある(専利法第45条)。 

6.特許権有効の原則。権利者が根拠に基づいて主張する特許権については、無効と宣告されるまで、その権利を保護しなければならず、該特許権が専利法の関連授権条件に適合しておらず、無効とすべきであることを理由として判定を下してはならない。 特許の登記簿副本、又は特許証及びその年の特許料の領収書は特許権が有効であることを証明する証拠とすることができる。

 

(2)不明確な記載がある場合の取り扱い

 請求項の記載が不明確(専利法第26条第4項[1])である場合、人民法院は無効宣告請求を行うよう告知する(指南第14条)。ここで、被告が無効宣告請求を行わない場合は、特許有効の原則に従い権利範囲解釈が行われる。この場合、人民法院は当業者の観点から、明細書及び図面の記載から請求項の問題となっている記載について解釈を行うこととなる(指南第14条)。 

 指南では無効宣告請求を行うよう告知すると規定しているが、日本と異なり特許権者は訂正請求を行うことができないため、無効宣告を請求された特許権者は復審委員会及び行政訴訟において記載が明確であることを主張し続けるほかない。 

14.請求項に特許明細書との不一致又は相互矛盾が生じた場合、該特許は専利法第二十六条第四項の規定に適合しないことから、当事者に特許無効宣告手続によって解決するよう告知する。当事者が特許無効宣告手続を開始した場合、具体的な案件の内容に基づいて訴訟を中止するか否かを確定することができる。 当事者が特許無効宣告手続による解決を望まないか、又は合理的な期限内に特許権の無効宣告請求を提起しない場合は、特許権の有効原則と請求項を優先する原則に基づき、請求項に限定される保護範囲に準じなければならない。但し、当業者が請求項と明細書及び図面の閲読によって、保護が求められる技術方案の実現について、具体的かつ確定的な、唯一の解釈を引き出すことができる場合は、該解釈に基づき、請求項中の誤った表現を弁明又は修正しなければならない。

 

3.機能的記載の解釈

 中国においては機能的・効果的な請求項の記載は認められているが、権利範囲は明細書及び図面に記載した当該機能または効果の具体的な実施形態及びそれと均等な実施形態とに基づいて確定される(司法解釈[2009]第21 号)。 

 指南第16条では、機能的・効果的な記載であるものの、当業者が既に全面的に把握している技術用語(名詞)となっている構成要件、例えば導体、放熱装置、接合剤、増幅器、変速器、濾波器等は機能的記載に該当しないとしている。 

 同様に機能的・効果的な記載であるものの、同時に構成要件中に対応する構造、材料、ステップを記載している場合も、機能的記載に該当しないとしている。機能的記載については2009年の司法解釈公布以降、限定解釈される恐れが出たが、現在のところ実際に限定解釈された案件はそれほど多くない[2]。いずれにせよ実施例には多くの例を記載しておいた方が良い。 

16.・・・

以下の状況については、一般に機能的な構成要件として認定することは望ましくない。 (1)機能的若しくは効果的な意味を含む言葉で述べられ、かつ当業者が既に全面的に把握している技術用語(名詞)となっている構成要件。例:導体、放熱装置、接合剤、増幅器、変速器、濾波器など。

(2)機能的若しくは効果的な意味を含む言葉を使用して表現しているものの、それと同時に相応の構造、材料、ステップなどの特徴も用いて表現されている構成要件。

 

4.図面の符合と要約書

 請求項中の構成要件に図面の符合を付す明細書が時にしてみられる。欧州では一般的に行われている実務であるが、この符合が権利範囲解釈に影響を与えるか否かが問題となる。指南26条では、図面の符合が付されていたとしても、対応する図面の具体的構造により、構成要件を限定すべきではないと規定されている。すなわち、請求項中の符合の記載によって、権利範囲は実施例の構造に限定されないことを規定している。ただし、文言解釈を巡って余計な争いとならないよう、出願時から予め請求項中の符合を取り除いておいた方が良い。 

26.請求項の中で図面の記号を引用したときは、図面中の図面の記号が反映する具体的な構造で請求項中の構成要件を限定すべきではない。

 
 指南第28条は、要約書は権利範囲解釈に用いることができない旨規定している。

 

28.要約の作用は公衆が検索しやすいように、技術情報を提供することであり、特許権の保護範囲の確定に用いることはできず、請求項の解釈に用いることもできない。

 


[1] 特許請求の範囲には、明細書に基づき、特許の保護を求める範囲を明瞭かつ簡潔に記載しなければならない。

[2] 例えば、上海市高級人民法院2011 年2 月10 日判決 (2010)沪高民三(知)終字第89 号では、機能的記載であったために権利範囲が限定解釈された。





→第2回へ続く


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