インド特許法の基礎(第6回)(2):特許出願 - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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インド特許法の基礎(第6回)(2):特許出願

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インド特許法の基礎(第6回)(2)

~特許出願(2)~

2014年1月14日

執筆者 河野特許事務所

弁理士 安田 恵

3.PCT国内段階出願

(1)主体的要件

 PCT国内段階出願を行おうとする者は、PCT出願の出願人、その者の法律上の代表者、又は譲受人[1]であって、通常の特許出願と同様の要件を満たす必要がある。

 

(2)客体的要件

 条約国(第2条(1)(d),第133条)にされた特許出願が存在することが要件である。

 

(3)時期的要件

 特許を受けようとする者は、優先日から31ヶ月以内にPCT国内段階出願をしなければならない(PCT22条(1),(3),規則20(4)(i))。翻訳文の提出期限としての追加の猶予期間は無く、この31ヶ月の期間は延長することができない。

 

(4)手続的要件

(a)出願時の提出書類

 基本的な提出書類は条約出願と同様であり、願書(第7条(1),様式1)、外国出願に関する陳述書及び誓約書、発明者である旨の宣言書、委任状、手数料(第142条,規則7,規則20(3)(a),PCT22条)を提出する必要がある。また、完全明細書に代えて、PCT出願の明細書、特許請求の範囲、要約書及び図面の翻訳文を添付する(規則20(3)(b),(5),様式2)。

 優先権を主張する場合、条約出願同様、PCT国内段階出願の願書においても基礎出願の書誌的事項、優先権主張の申立て等を記載しなければならない。また、優先権書類提出又は送付を通知する書面(PCT/IB/304)も提出する。条文及び規則上、PCT/IB/304の書面を提出する義務は無いが、多くの場合、審査官からその提出が求められる。

 この段階で外国出願に関する情報として、国際調査報告書(ISR)、国際調査見解書(WO/ISO)を提出しておいても良い。

  なお、インド特許庁のデータベースを確認すると、上述の書類以外に種々の書類、例えば国際出願の願書の写し、国際公開のトップページの写しなどが提出されているケースがあるが、必須の提出書類では無い。国内段階出願を依頼するクライアントによって提供された書類をインド現地代理人がそのままインド特許庁へ提出し、インド特許庁も提出された書類をそのまま公開しているだけである。

 

(b)優先権書類

 優先権主張を伴うPCT出願を行っている場合であって、PCT規則17.1(a)又は(b)を満たしている場合、優先権書類を提出する必要は無い(規則21(1),PCT規則17.1(c),(d))。ただし、優先権書類に代えてPCT/IB/304の写しの提出が求められる。

 基礎出願が英語で記載されていない場合、基礎出願の翻訳文を優先日から31ヶ月以内又は長官から要求された日から3ヶ月以内に提出しなければならない(規則21(2),(3))。

 一方、特許協力条約上、特許の新規性及び進歩性を判断する際に優先権の有効性を確認する必要がある等の事情が無い限り、長官は優先権書類の翻訳文を求めることができないとされている(PCT規則51の2.1(e)[2])。従って、優先権書類の翻訳文は必要な場合にのみ要求されると理解される。

 
 しかし、実務上は、優先権主張を伴うほぼ全てのPCT国内段階出願に対して、優先権書類の翻訳文が求められている。このため、条約出願の場合同様、長官から要求される前の段階で、早めに優先権書類の翻訳文も提出することが望ましい。万一、長官による翻訳文の要求日から3ヶ月の期間が徒過するようなことがあると、嘆願書を提出しても翻訳文を受け取って貰えず、優先権の利益が失効してしまう可能性がある(規則137)。PCT出願の場合、翻訳文を準備する期間が十分に与えられているため、上記3ヶ月の期間を超えて更に翻訳文提出の期間を出願人に与える必要は無いと考えられている。嘆願書及び事情説明によって、翻訳文が受け取って貰えるケースもあるが、翻訳文が受理されないケースもある。例えば、インド特許出願1043/DELNP/2005のケースでは基礎出願の翻訳文が受理されているが、インド特許出願1415/DELNP/2005のケースでは翻訳文の提出が認められず、優先権の利益が失効している。

 

(C)出願権の証拠について

 PCT国内段階出願においてインドの国内法令が要求できる要件は一定の範囲内に限定される(PCT27条(1)[3])。インド特許庁が出願人に要求できる証拠の中には出願人の資格に関する書類が含まれる(PCT規則51の2.1(a)(ⅱ))。また、インド特許庁は、基礎出願の出願人と、国際特許出願の出願人が異なっている場合、優先権を主張する出願人の資格に関する証明書を出願人に要求することも許される(PCT規則51の2.1(a)(ⅲ))。しかし、国際特許出願の出願人が、これらの出願人の資格に関する申立を行っている場合、インド特許庁は、出願人の資格に関する証拠を要求できない(PCT規則4.17[4])。従って、出願人は、出願権の証拠をインド特許庁へ提出する必要はない。

 

(5)インド国内出願に基づく国際特許出願

 インドの国内出願に基づく優先権を主張した国際出願においてインドを指定することもできる(自己指定)。この場合の優先権の取り扱いはパリ条約では無く、インドの国内法令が定める所による(PCT8条(2)(b))。インドでは、当該国内出願を基礎出願(インド以外の条約国にされた出願)であるものとして条約出願に関する規定が適用される(第135条(3))。つまり、パリ優先権主張の例にならって処理される。いわば、日本の自己指定が国内優先権主張出願と見なされるような取り扱いである。

 ただし、インドを自己指定する場合、国内出願と、PCT国内段階出願(インドを自己指定した出願)のいずれか一つしか、審査請求できない点に留意すべきである(第135条(3)但し書き)。審査請求されなかった出願は取り下げ擬制されることになる(第11B(4))。日本の国内優先権主張と異なる点は、審査対象及び取り下げ対象を出願人が選択することができる点にある。インドの国内出願に基づいて、改良発明の国際出願を行う予定があるような場合、国内出願から1年が経過するまで審査請求を行うべきでは無い。国内出願の審査請求を行った後に、改良発明を国際出願し、インドを自己指定したとしても、インドのPCT国内段階出願によって改良発明の特許を取得することはできい。この場合、別途、インドへ改良発明の特許出願を行う必要がある。

 

(6)PCT国内段階出願の効果

 インドを指定する国際出願は、国際段階出願を行っている場合、インド特許法に基づく出願とみなされる(第7条(1A))。国際出願の願書と共に提出された明細書等は、インド特許法における完全明細書とみなされ(第10条(4A),第138条(4))、完全明細書は国際出願日に提出されたものとみなされる(第7条(1B),第138条(5))。

 また、国際出願は優先日から18ヶ月後に国際公開されるが、インドにPCT国内段階出願を行った場合、PCT国内段階出願の内容がインドにおいても公開される(第11A条)。時折、PCT国内段階出願を行っていてもインドにおいて公開されないケースがあるが、公開手続きの漏れ[5]である。インドにおける公開は、実体審査が開始される要件であるため、出願審査請求を行う際、インドにおける公開状態も念のため確認しておくことが望ましい。

 

 以上の通り、インド特許庁における運用は、条約の規定と乖離した部分があり、理解し難い部分があるため、現地代理人に現実の運用状況を確認しながら手続きを行っていく必要がある。

 

以上



[1] 国際事務局からの通告(様式PCT/IB/306)に反映されていることが必要である。

[2] PCT規則51の2.1(e)「指定官庁が適用する国内法令は、第二十七条の規定に従い、出願人に対し優先権書類の翻訳文を提出することを要求することができる。ただし、次の場合に限る。

(ⅰ) 優先権の主張の有効性が、その発明が特許を受けることができるかどうかについての判断に関連する場合 」

[3] PCT27条(1)「国内法令は、国際出願が、その形式又は内容について、この条約及び規則に定める要件と異なる要件又はこれに追加する要件を満たすことを要求してはならない。」

[4] PCT規則4.17「願書には、一又は二以上の指定国が適用する国内法令のために、実施細則に定める文言により、一又は二以上の次の申立てを含めることができる。

(ⅱ) 出願し及び特許を与えられる国際出願日における出願人の資格であつて、51の2.1(a)(ⅱ)に規定するものに関する申立て

(ⅲ) 先の出願に基づく優先権を主張する国際出願日における出願人の資格であつて、51の2.1(a)(ⅲ)に規定するものに関する申立て 」

[5] 例えば、インド特許出願2274/CHENP/2011といったケースがある。

 

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