- 河野 英仁
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対象:特許・商標・著作権
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中国における職務発明報酬の算出基準
~意図的に特許を放棄した場合の算出基準~
中国特許判例紹介(30) (第4回)
2013年12月3日
執筆者 河野特許事務所 弁理士 河野 英仁
重慶長江塗装機械場
上訴人(一審被告)
v.
石孝氷等
被上訴人(一審原告)
(4)特許を譲渡した場合の取り扱い
手引第10条では以下のとおり規定している。
第10条
特許権を授与された事業体が発明者、創作者と職務発明創造譲渡時の報酬の方式及び金額を約定しておらず、法により定めた規則制度においても規定していない場合で、特許の有効期間内に、特許権を授与された事業体が他者に特許技術を譲渡する場合は、特許ライセンスを参考に発明者又は創作者の報酬を確定する。
中国の「契約法」または「科学技術成果譲渡促進法」は特許権の譲渡時における職務発明報酬獲得について規定している。従って、自社実施及び他社への実施許諾時に加えて特許権を譲渡した際にも、従業者に報酬を支払う必要がある。この場合、企業と従業者間で約定があれば当該約定が優先され、約定が存在しない場合は、特許実施許諾時の報酬額に基づき報酬が決定される。実施許諾する特許と、譲渡する特許とでは価値が大きく相違する場合もあることから、約定にて実施許諾時の報酬基準とは異なる基準を別途も受けておいた方が好ましい。
(5)委託開発時における職務発明の帰属と対価
日本企業本社が中国子会社に開発を委託する場合がある。ここで、特許を出願する権利の帰属の約定がない場合は、受託者が特許を出願する権利を有する。また、特許が授権された後、受託者は職務発明創造権の保有者として、職務発明創造の発明者、創作者に報酬を支払う義務を負う。委託者は特許権を有さず、職務発明創造の奨励と報酬の支払いにも関与しない(手引第11条第2項)。
逆に、特許を出願する権利を委託者に帰属すると約定している場合は、委託者が特許を出願する権利を有する。特許が授権されたとしても、受託者は特許権を有しないため、職務発明創造の奨励及び報酬の支払義務はない。同様に、委託者側は特許権を有するものの、発明者、創作者は委託者の従業員ではないため、同じく職務発明創造の奨励及び報酬を支払う必要は無い(手引第11条第3項)。
職務発明創造の奨励、報酬請求権は1つの従属的権利であり、その発生は職務発明の存在、すなわち発明者、創作者の所属事業体が職務発明創造の権利を保有することを前提としているため、特許権を授与された事業体だけがその職務発明創造の完成者に奨励を支払う義務を有する。従って事前に中国子会社から日本本社側へ特許を出願する権利を譲渡しておけば、権利は日本本社側に帰属させつつも職務発明の対価を子会社従業員に支払う義務は無いということとなる。ただし、職務発明に対する対価がゼロであるとすれば発明者の発明創造に対するインセンティブが低下することから、一定の奨励及び報酬を支払う仕組みを構築しておいた方が良いであろう。
(6)特許が共有に関わる場合
(i)奨励及び報酬の支払義務
特許を出願する権利が双方の共有となる旨約定している場合、特許が授権された後、委託者側は職務発明創造の奨励及び報酬の支払い義務は無い。一方、受託者は特許権共有者として、特許により獲得した利益に基づく職務発明創造の奨励及び報酬の支払義務がある(手引第11条第4項)。中国で生まれた発明創造を、日本本社と中国子会社との間で共有する場合がある。この場合、中国子会社側が奨励及び報酬を支払う必要があるが、日本本社側に支払い義務は無い。
(ii)共有特許について実施許諾料を得た場合
特許権共有者は単独でこれを実施するか、または普通許諾方式により他者に当該特許の実施を許諾することができる。他者に当該特許の実施を許諾する場合、受け取った実施許諾料は共有者の間で分配しなければならない(専利法第15条)。発明者、創作者所属の受託者が、委託者による他者の特許実施許諾からライセンス料を獲得し、発明者、創作者が当該ライセンス料について職務発明創造の奨励及び報酬を主張した場合は、これを許諾しなければならない(手引第11条第5項)。
中国での特許権を日本本社及び中国子会社で共有しており、日本本社が第三者に実施許諾することにより実施許諾料を得た場合、実施許諾料の一部は中国子会社へ分配しなければならない。この分配された実施許諾料について、中国子会社は従業者に報酬を支払わなければならない。逆に中国子会社の従業者は日本本社に対し報酬を請求する権利はない(手引第12条)。
(7)労務派遣従業員
労務派遣従業員は雇用主の従業員であり、職務発明創造の発明者、創作者として雇用主の下で完成させた職務発明創造について職務発明創造の奨励及び報酬を主張することができる(手引第13条)。日本から技術支援等の目的で中国子会社へ日本本社側従業員を派遣する場合がある。派遣により中国子会社との雇用関係の下、当該中国子会社の従業員となった場合、当該従業員は職務発明の奨励及び報酬を主張することができる。従って、中国において規定した職務発明規定を、派遣対象者との間で約定しておく必要がある。
(8)時効
職務発明創造発明者、創作者の奨励・報酬紛争には、通常の民事訴訟と同じく、2 年の訴訟時効規定が適用される。訴訟時効期間は権利が侵害されたことを知った又は知るべきであった時点から起算される(手引第14条)。なお、訴訟の時点で、労働関係が継続しているか否かは無関係である。実務上紛争が多いのは、請求額が大きい自社実施または他社へのライセンスに伴う報酬である。自社実施またはライセンスは、長期にわたって継続していることが多く、一般に時効の問題は発生しない。逆に登録に伴う奨励金は額も少なく、また訴訟提起時には既に登録から2年が経過していることも多く、時効により主張が認められないことが多い。
(9)合理的費用の請求
職務発明創造発明者、創作者の奨励・報酬紛争事件において、当事者が合理的費用を主張したとしても、人民法院はこれを支持しない(手引第16条)。特許訴訟においては公証費用、弁護士費用等の侵害行為を差止めるために支払った合理的な費用の損害賠償請求が認められている。職務発明に係る民事訴訟においては、合理的費用の請求は認められない。
以上
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